#67_Live Report_2023/11/22_”NEW VIEW” -EXTRA-「ELEVATION!」
”NEW VIEW” -EXTRA-「ELEVATION!」
渋谷パルコ10FComMunE にて11/22.22:15より。
文:新居進之介
写真:桑原陸
11月22日は、寒い夜だった。そのせいか、祝日前夜というのに、渋谷の街に人はまばらだった。
公園通りをパルコへ向かって歩きながら、コロナが一応の終わりを見せてからも、夜の街に人通りは以前のようには戻ってこないな、という、いつもの雑感を、また手元で弄んだ。
渋谷に初めて来たのは、8歳の頃だ。2004年。
その時はまだ関西に住んでいて、単身赴任中の父を訪ねて東京へ来たのだった。
ケツメイシの「さくら」が大流行りして、どこでも流れていた。
その時の僕は渋谷の人混みに怯え、母を見上げて、今日は何のお祭りなの?と聞いたそうだ。
渋谷に来ると、たまにそんなことを思い出す。
公園通りに、一種の「ささやかさ」みたいなものを見出し始めたのは最近のことだ。
ComMunE に着いた時は、すでにDYGLのライブの最中だった。
ComMunE に来たのは初めてだ。透明のガラス壁と、建設現場の銀色の足場のような鉄骨が印象的だった。
「仮」みたいなものを感じるデザインが、一種の軽やかさを持って、そこにいる人々をリラックスさせる、そんな空間だ。そして、それは一夜限りの即興であるライブ、にピッタリとマッチしているように思われた。
照明の色とりどりがひしめく、透明の箱は、熱帯魚の水槽にように見えた。
混み合ったアクアリウムが屋上にひとつ、建っていたわけだ。
DYGLは最後のMCで、渋谷クワトロの35周年を祝った。
その上で、そういうハッピーな「場所」が続いていくことへの祈りを述べた。
僕は外へ出た。氷で薄まったレモンサワーに親しみを感じていた。
外へ出ても、中の音は聞こえてくる。庭園のような屋上を散歩しながら、眼下に広がる渋谷の光にたじろぎながら、一体感が続いていることが、心地よかった。
ステージにStrip Jointの姿が見えた。
飄々と演奏準備を進めていく彼らの姿を見ることは、いつだって楽しい。
もったいぶることもなく、気色ばむこともなく、はたまた改まることなく、流れるように、ぬるい水の中へ足を入れるようにして、彼らの演奏は始まった。
歌詞の始まりは、日本語だった。
岸岡が日本語の歌詞で曲を作っていることは、ずいぶん昔から知っていた。
岸岡は、何かをしゃべるときに、安易にたやすい言葉や、たまたま振り回した手に触れた言葉を選ぶことなく、注意深くしゃべる。彼はそういう人物だ。
「うーん、えっとね、ちょと整理すると…」そういうふうに、言葉を選ぶ岸岡の姿はすぐに思い浮かぶ。
そのものを的確にヒットする言葉ばかり選ぶ喋り方は気疲れするし、逆に本丸の周りをウロウロしながら、いつまでも勇気を出さない話し方はもどかしい。
そのどちらでもなく、ハイキングコースを適切なスピードで歩きながら、景色を紹介することも忘れない、そういう岸岡の喋り方、言葉の選び方を、個人的に僕は昔から好ましいと感じていた。
だから、その彼が、会話と同じ日本語を用いて、言葉を選び取り、歌詞を紡いでいると聞いて、僕はひそかに楽しみにしていたのだった。
そして、それを聴くのは、その夜が初めてだった。
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