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戸籍時報連載『旧市区町村を訪ねて』11「そこに暮らしがあるということ」長崎県新上五島町〜新魚目町〜(文・写真:仁科勝介)

こんにちは。コンテンツビジネス推進部のMです。弊社刊行「戸籍時報」との好評連動企画、「旧市区町村を訪ねて」。
いつもたくさんの「スキ」をありがとうございます💛
今回は、令和6年3月号掲載の第11回、前回に引き続き、長崎県の離島が舞台です。五島列島の新上五島町から、暮らしが息づく素敵な景色と記事を届けてくださいました。
いつものとおり、仁科さんの素敵なお写真をここではカラーでご紹介しています。
今後の連載も、ぜひお楽しみに!

~~本連載の著者は、写真家の仁科勝介さん。2018年3月から2020年1月にかけて、全国1741の市区町村を巡った彼が、2023年4月から再び、愛車のスーパーカブで日本中を旅しています。
 今回の旅のテーマは、1999年に始まった平成の大合併前の旧市区町村を巡ること。いま一つのまちになっているところに、もともとは別の文化や暮らしがあった。いまも残る旧市区町村のよさや面影を探します。
 仁科さんの写真と言葉から、今そこにある暮らしに少し触れてもらえたら嬉しいなと思います。~~

『そこに暮らしがあるということ』

日本の最果ての地を挙げるとすれば,どこを思い浮かべるだろうか。北海道の宗谷岬(そうやみさき),納沙布岬(のさっぷみさき),沖縄の波照間島(はてるまじま),与那国島(よなくにじま)……。日本の国土の極地がひとつにはあるだろう。または,富士山の頂上や,日本で最も深い湖である秋田県の田沢湖の底,奥深い森林や無人島,そういった場所も当てはまるかもしれない。

五島列島の新上五島町(しんかみごとうちょう)は,2004年に5つの町(若松町,上五島町,新魚目町(しんうおのめちょう),有川町(ありかわちょう),奈良尾町(ならおちょう)が合併して誕生した。

大きな市街地は,旧有川町や旧上五島町の地域で,互いの町も近く,スーパーやドラッグストアもあり,十分に生活しやすいと感じられる。

旧奈良尾町や旧若松町は,新上五島町の南部に位置している。有川港から奈良尾港までは28km離れており,同じ島でありながらも距離を感じた。そして,そこを訪れると港町らしい景色が広がっていた。

驚いたのは,旧新魚目町だった。新上五島町役場の新魚目支所は旧有川町や旧上五島町とも近いが、何よりも北に伸びる半島が,想像していたよりもはるかに細長い地形だったのだ。最北端に位置する津和崎(つわざき)灯台を目指すと,有川港からは31km離れており,奈良尾港よりも遠いことは衝撃だった。地図を見たときは旧有川町や旧上五島町が島の北側だと感じていたので,それよりもさらに北へ,これほどの距離があるとは想像していなかったのだ。

津和崎灯台へ向かう道は,アップダウンが激しく,周囲に何もない道を走る時間も長かった。そして,灯台の間近までくると,目の前に津和崎の集落が広がっていた。思わずカブを停めた。しんと静かで音が無い。だが,確かに暮らしが広がっていた。ここにも人々の営みが息づいている。ぼくのカブのエンジン音がまちの静けさをこわしてしまうような気がして,すぐに灯台へと出発した。


▲ 新魚目の集落へ。北に伸びる細長い地形の最北端に,暮らしが広がっていた。

このとき,最果てというものは,国土の極地や,誰もいない場所も当てはまるだろうが,想像を越えた先で暮らしが広がっている土地でも,それを感じられるのだと思った。

後日,幼少期の頃,津和崎の集落に暮らしていたという方と偶然出会った。その方が暮らしていた1970年代当時は,病院へ連れて行ってもらうときは船で有川方面へ行くこともあったし,小値賀島(おぢかじま)まで行くこともあったそうだ。しかも船ならば,津和崎からは小値賀島の方が近い。津和崎という土地らしい暮らしの話を聞かせてくれた。

五島列島という離島は,人によっては遠く感じる場所かもしれない。しかし,その遠さというものは,島の中でも存在していた。津和崎の集落と出会ったとき,日本はまだまだこんなにも広いのかと思った。そして,そうした暮らしの多様性が,日本という国の豊かさでもあると思うのだ。

(かつお╱Katsusuke Nishina)



仁科勝介(にしなかつすけ)
写真家。1996年岡山県生まれ、広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年春より旧市町村を周る旅に出る。
HP https://katsusukenishina.com/
X(旧Twitter)/Instagram @katsuo247


本内容は、月刊『戸籍時報』令和6年3月号 vol.850に掲載されたものです。

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