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スタートレックと多様性


「宇宙大作戦」が世界に与えた影響

本当は動画にまとめようと思って温めていたものですが、温めているだけでは何も始まらなさそうなのでニュースレターに書き留めようと思いました。

時間がある夜は毎晩1~2話「宇宙大作戦」からスタートレックを見直しています。今回はもう何周目かもわからないくらい観てきているので、各回の制作背景を調べながら見ることにしました。

キャストにも焦点を当てた時に改めて感心したのは登場人物がとても多様であることです。

機関主任でスコットランド人のモンゴメリー・“スコッティ“・スコット(日本語吹き替えではチャーリー)、ナビゲーターでロシア系アメリカ人のパヴェル・チェコフ、主任ナビゲーターで日系人のヒカル・スールー(日本語吹き替えではカトー)、そして通信士官でアフリカ系アメリカ人のウフーラ(日本語吹き替えではウラ)。

メインキャストであり、さらには作品内でも良いポジションに、当時では考えられない人種が揃っていました。歴史背景に当てはめるとよりわかりやすくなります。

冷戦真っ只中に、シーズン2からではありますがロシア系アメリカ人を信頼おける仲間として起用。ロシアという背景は名前だけではなく、キャラクターの喋り方のアクセントにも含まれます。

ヒカル・スールー演じるジョージ・タケイは日系二世。ドラマが始まるほんの二十数年前にアメリカに住む日本人は太平洋戦争を理由にアメリカに強制収容所に入れられていました。人権を蔑ろにされた人々の中にジョージ・タケイもいて、壮絶な経験をしています。そんなカトーことスールーも宇宙船ではなくてはならない存在です。

そして通信士官のウフーラ。演じるのはダンサー、歌手、女優のニシェル・ニコルス。ウフーラというキャラクターは、実はアメリカで初めてテレビに映った黒人キャラクターの一人であり、初めて技術を有し仕事を行う黒人キャラクターでもありました。

ウフーラは多言語話者であり、通信機を使いこなし宇宙空間で遭遇する宇宙船とコミュニケーションを取り、船長につなげます。「電話受付」という当時女性が行うステレオタイプな職業から着想は得ていますが、アフリカ系アメリカ人が多言語を喋り、コミュニケーション力を発揮する頭脳明晰なキャラクターとしてスクリーンに映ることは前代未聞だったんですね。

ウフーラがいかに当時の文化に衝撃を与えていたかがわかる逸話があります。ウフーラ演じるニシェル・ニコルスはシーズン1を終えると、「宇宙大作戦」を離れ大好きなミュージカル舞台の世界に戻ろうとしていました。それをジーン・ロデンベリーに伝えると「一週間休んで考え直してくれ、もしそれでも辞めたいと思うなら止めない。」と言われ休みを取ることに。

休暇中にNAACP(全米有色人種地位向上協議会)が主催した大規模なパーティーに参加していたニシェルの元に「あなたの大ファンがいらっしゃるそうなんですが、お会いしていただけないでしょうか?」と声がかかります。トレッキー(スタトレファン)だと思い快く受け入れた彼女はそのファンのことを待っていると、少し先に公民権運動を牽引していたキング牧師の姿が。こちらに向かって歩いてきたキング牧師を見て「ファンの方には申し訳ないけど、キング牧師がいるから待ってもらおう」と思い彼女も挨拶に向かうと「ニシェルさん。あなたの大ファンです」と言われたそうです。彼女に会いたかった大ファンとはなんとあのキング牧師だったのです。

キング牧師は子供に唯一見ていいテレビを「宇宙大作戦」としていて、家族で毎週楽しみに見ていたそうです。ニシェルさんはやめようと思う旨を伝えるとキング牧師に「あなたがやっていることは私たちが行なっている運動と同等である。黒人じゃなくても良い役を黒人が演じていることは進歩そのものだ。」と絶対にやめないでくれと説得されたそうです。これがきっかけで彼女はウフーラ役を1991年まで続け、またNASAと協力し世界初の女性、黒人女性宇宙飛行士を選出していきます。

子供の頃見ていた時は何も不思議に思わなかった(というかあまりの美貌に恋をしていた)ウフーラがここまで社会にとって重要なキャラクターだったとは…スタートレック恐るべしです。

最後に「スタートレック」の生みの親であるジーン・ロデンベリーが多様性に言及している言葉をご紹介しましょう:

“Diversity contains as many treasures as those waiting for us on other worlds. We will find it impossible to fear diversity and to enter the future at the same time.”

「多様性には、遠い宇宙で私たちを待っている宝物と同じくらい多くの宝物が隠れている。多様性を恐れることと未来に進むことは、同時に存在することはできないだろう。」

SFを通した、人類が目指すべき未来を感じる言葉ですね。



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