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日本語クラス潜入レポート vol.2 横浜デザイン学院

※この記事は2018年に公開された過去記事です

「どこの日本語学校も日本語教師不足、空前の売り手市場」と言われる一方で、学校とのマッチングがうまくいかずに悩む日本語教師の声も聞こえてきます。「このすれ違いをなんとかしたい!」と、日本語教師が他校の授業を見学してレポートする連載を始めます。学校ごとに日本語の授業も千差万別。このレポートを自分の理想と近い学校を探すヒントにしてください。


◆◆今回の学校◆◆

横浜デザイン学院 日本語学科
神奈川県横浜市にある学校法人石川学園 横浜デザイン学院の日本語学科。学生数約200名。専門課程と高等課程に、それぞれデザイン、ファッション、マンガのコースがあり、日本語学科の学生もその分野を学べることから、美大や芸大を目指す留学生が多く在籍する。外部からも参加できる日本語教師向け研修を頻繁に開催。

みなさん、こんにちは! 
浦です。秋になりましたね。涼しくなって、風邪などひいていませんか? 私は思いっきり、風邪をひいてしまいました。

さて、連載第2回となったこの企画。都内の日本語学校(アン・ランゲージ・スクール成増校)で専任教員をしている浦が、いろいろな日本語学校の授業を日本語教師の視点からレポートいたします。
※2018年時点での情報です

さあさあ、風邪など吹き飛ばし、元気よくレポートに参りましょう!

電車にガタゴト揺られ、やってきました。ここは横浜。そう、日本語学校が集中した東京23区ではなく、今日の舞台は横浜なのです。今回は、横浜デザイン学院日本語学科にお邪魔します。神奈川県出身の私は地元の空気が吸えて、ますますテンション上がってきました。

本日見学するクラスは、美大進学希望の上級クラスとのこと。なんでも、「演劇」を取り入れた授業なんだそう。美大進学希望のみなさまの、演劇……?? 気になる。気になるぞー。

まずは、授業にお邪魔したクラスについて。

授業概要

🏫上級クラス
留学生14名、N1レベル。ほぼ全員が美大進学希望者。
🕜授業時間 
午後(今回見学したのは4コマのうち後半2コマ)
🗺️学生の国籍 
中国、台湾、マレーシア
📖学習内容 
「作品制作(演劇)」
漢字圏クラスで、学生のみなさんの日本語能力はかなり高いです。日本留学試験の対策などの勉強ももちろんされているそうですが、今回のぞいた授業は、「机に向かってお勉強」というイメージとは全然違っていました。
案内された場所は教室ではなく……!

ロケ地で撮影準備

「学生たちは、いまロケ地にいるので、そちらにご案内しますね。」

ロケ地。何だか本格的な響き。本日のロケ地は学校併設のマンションにある共有スペースだそうです。そこにはカメラを構える学生さんたちの姿がありました。

「絞りは大丈夫? ISOは? それでOK? シャッタースピードも調整して。」

先生の指示が飛びます。真剣な表情の学生。中央のテーブルでは、本日の俳優である学生3名が最終確認をしています。おお、やはり思っていたより本格的。どんな内容のドラマが繰り広げられるんでしょうか。

リハーサル、いってみようか

準備が整ったようで、1回通しでリハーサルをすることに。3名の学生が演技をし、他の学生たちは自分のカメラをのぞき込みます。

「Cさんが部屋に入ってくるタイミング、ちょっと変えようか。」

「ここのセリフのときの表情は……。」

リハーサル後は、先生からの演技指導が。実はこちらの授業、演劇に関わった経験のある方からのアドバイスを踏まえて実施されているそうなんです。「日本語教育」の業界の枠を超えて、さまざまな分野の方と関わりながら生まれる新しい授業。うーん、すてきですね。

本番! テーマは「秘密の告白」

さあ緊張の本番です。8分間の演技を、カメラ長回しで一発撮り。それではここで今回の作品のストーリーをご紹介しましょう。

雑談をする男性Aと女性B。そこへ、友人の女性Cが電話をしながら入ってくる。そして3人でおしゃべり。
「最近、どう? 合コンとか行ってないの?」
他愛のない話をしているとき、Bがいったん席を離れる。

話題はCのインスタグラムのことに。
「わあ、この写真、『いいね』がもう2000個。早くない?」とCは自慢げ。
しかしCのインスタグラムが人気になったのには、なにやら秘密があるそう。
「いや、教えてよ。まじで。」とAに聞かれ、「絶対、内緒にしてね。」とC。
なんとCは、「人生企画」という会社のサービスを利用し、料金を払ってインスタグラムのフォロワーを買っていたのだ。
「一度試してみたら、ハマっちゃった……!」
Cは、Bへの憧れと嫉妬から、「人生企画」の利用に至ったと告白する。

その後、Cが席を立ち、入れ替わりでBが戻ってくる。すると、今度はBの口から、「人生企画」の話が出てきたのである。それを聞いたAは、「人生企画」はやめたほうがいい、とBに言い聞かせる。さらに、AはBに対し、「Cが『人生企画』を利用している」という秘密をばらしてしまう。
しかしその場面を、Cが目撃してしまうのだった!
「信じられない! 好きだったのに!」
恋心を抱いていたAに、自分の秘密をばらされ、愕然としたCはその場を後にする……。

短い時間ながらもストーリー展開がきちんとあったり、インスタグラムというイマドキの題材選びであったりで、結構見応えのある内容になっていて驚きでした。俳優を担当した学生たちも、最初は照れがあったのでしょうが、本番にはほとんどそういった様子は見せず、しっかりと作品制作に向き合っている印象でした。

というわけで本番は一発OK。 俳優のみなさん、撮影隊のみなさん、クランクアップです! お疲れ様でした!

放課後インタビュー1

撮影後、教室にて先生と学生のみなさんにお話をうかがいました。

ーー今日演技をした学生さんの感想を聞かせてください。

学生 緊張しました。でも、セリフを忘れたときもアドリブで知っている日本語を言うので勉強になります。

ーー今日の作品のシナリオは誰が?

先生 学生たちが書いています。今回は「秘密の告白」というのをテーマに、各グループで台本を書き、撮影をしています。1回分の台本は、90分あれば学生は書けてしまいます。

ーー撮影後の作品はどうするんですか。

先生 このあとは映像を編集して、今度は映像に合わせた声を別で録音する予定です。しかも、声を当てるのは今日演技した人とは別の人がやります。

ーー演劇を取り入れた授業はいつから?

先生 今年の4月から、1週間に1回で始めました。はじめは、元からある脚本を使って演技をしていましたが、今回はオリジナル脚本にしました。次は、監督も学生にやってもらうつもりです。

ーーこの授業を始めると聞いて、学生のみなさんはどう思いましたか。

学生 日本語のクラスでこんなことをやるなんて、びっくりしましたが、やるうちに好きになりました。

ーーこの授業をするにあたって、先生が気をつけていることは?

先生 なるべく教師が口出ししないようにしています。どこかで発表するために作っているわけではなく、作る過程が学習となっているので。それと同時に、「学生に説明させる」というのも重視しています。美大に進学すれば、芸術家として、作品について自分のことばで説明する機会も多くあります。そのようなときに日本語で説明できるよう、この授業で練習しているんです。

演劇を取り入れた授業は、先生にとっても学生にとっても新たなチャレンジだったようです。はじめは戸惑っていた学生たちも、今はこの授業をとても楽しんでいるようでした!

放課後インタビュー2

横浜デザイン学院日本語科 教務主任 佐久間みのり先生に、「演劇を取り入れた授業」への思いをうかがいました。

ーー美大進学希望者の上級クラスでは、これまでの授業はどのようなものを?

佐久間 いままでの上級は、JLPTのN1対策やEJU対策などアカデミックなものが中心でした。でも、美術系大学に進学する彼らには、「表現」というのが大事になってくるなと。

ーー「表現」ですか。

佐久間 ふつうの大学ではなく、美術、芸術の世界ですから、「自分をさらけ出すこと」が必要なんですよね。それで、これまでとは違う、日本語を使って自分の考えを表現するような授業をやってもらおうと考えました。

ーー学生の反応はいかがでしたか。

佐久間 個人的に、アジアの学生はシャイな人が多いというイメージでしたが、彼らは美大進学希望だけあって、表現することには積極的なんです。それまでの通常の授業ではあまり発言していなかった学生が、この授業が始まってからよく話すようになりました。つまらなそうにしている人が減りましたね。

ーー「表現する」ということなら積極的になれる人がいたわけですね。

佐久間 授業でこうした活動を取り入れて、学生に「あなたはこれをやって」という「役」を与えると、学生は話しやすくなるようですね。上級クラスに限らず、「日本語で思考する」ことは学校全体で大切にしていることです。

ーー佐久間先生が教務主任として、授業に関して重視していることは何ですか。

佐久間 まずは学生に、自分のことを表現してもらう、ということ。そして、そのために、それぞれの学生に合った授業を提供したいと考えていますね。また、教師にもさまざまなバックグラウンドを持った人が集まっています。ひとりひとりの先生の経験を活かした授業ができる学校作りをめざしています。

どんな学生に、どんな先生が教えるか。それを踏まえて、つねに新しい授業を模索しているということなんですね。今回は授業を見学させていただき、大変勉強になりました。本当にありがとうございました!

まとめ

第1回では初級の授業のようすをレポートしましたが、今回は打って変わってJLPT N1レベルの上級クラスによる活動の授業でした。でも、今回レポートした授業から学べることは、漢字圏の上級クラスに限ったことじゃないな~と思うんです! 
あらゆる日本語教育現場のあらゆるレベルのクラスで大切にすべき視点が得られた、そんな授業でした。

「学習者が日本語で思考し、日本語で自分を表現する。」インタビューでうかがった、この言葉。私自身も最近ちょうど、そんな考えのもと授業を作っていたので、すごく共感しました。たとえばこの夏に私が実践したのは、初級の全クラスの学期最終週にペアでオリジナル会話を作らせ、2クラスずつ合同で発表してもらうという活動でした。もちろん初級なので、今回見学したクラスとは日本語のレベルはまったく違いますが、学生たちは自分のアイディアを日本語で表現すること、これまで学んだ知識を総動員して自分たちならではのものが作り出せることをすごく楽しんでいるように見えました。ふだんぼんやりと授業を受けているような学生や、読み書きはイマイチという学生が、この活動のときは生き生きとしていました。

初級であっても上級であっても、本当に多様な学習者がいますよね。ガンガン問題を解くのが好きな人もいれば、漢字だったら任せて!という人。プリントやるのは好きじゃないけど、会話ならいくらでもできる人。知識のインプットはゆっくりだけど、アウトプットとなると急に力を発揮する人。さらには、今回出会った学生のようなタイプも。漢字・語彙の知識のレベルが高く、会話もスムーズ、と日本語能力としては問題ないが、進学先が芸術系という特殊な方面であるため、「表現力」を磨く必要がある人たち。私たち日本語教師は、こうしたさまざまな学習者に合った授業を生み出し、提供していかなければなりません。目の前の学生に、どんな授業を用意してあげたら、彼らの目は輝くのか。「そんなこと考えるのなんて、当たり前だよ!」とツッコミも入りそうですが、「日本語での演劇」という活動に真剣に取り組む学生の姿を目にして、改めて痛感したのでした。

教師と学習者の数だけ、世界中でいろんな日本語教育が行われています! 今回もその中の1つをのぞき、レポーターの私自身、ドキドキわくわく、の一時でありました。今回の記事も楽しんでいただけていたら、そして明日の授業のヒントになっていたら、浦はとってもうれしいです。
さて、これからも日本語学校のようすをお伝えし、日本語教育の世界をもっと盛り上げていきたいです。「うちの学校の授業をぜひ紹介してほしい」「あの学校の授業おもしろいよ」などなど、自薦他薦問わず、見学&レポートさせていただける学校さん募集中です!


《取材・文》 浦 由実(うら ゆみ) アン・ランゲージ・スクール成増校 専任講師。大学卒業後、420時間養成講座を受講し、日本語教師に。2年間非常勤講師をしたのち、専任になり、教師歴は8年目。授業や専任の業務を頑張りつつ、日本語教育の世界をもっともっと盛り上げていくのが夢。学習者と日本語教師のみなさんの役に立てる教師になりたいです。
※2018年時点での情報です


📝日本語学校潜入レポート
vol.1 


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