ABLにおける動産競売導入の可否
1 ABL(アセットベースドレンディング、動産債権担保融資)においては、融資先(ボロワー)の在庫に譲渡担保権を設定するが、当該在庫に対して担保実行する場合に、ボロワーから任意に引渡しを受けて売却する以外に、どのような実行方法があるのか。
2 ボロワーが在庫の任意の引渡しに応じない場合、原則として自力執行は許されず、当該在庫の引渡請求訴訟を提起した上で、さらに動産引渡しの強制執行を行う。その際には、当該引渡請求訴訟中の在庫の散逸を防ぐために、事前に、占有移転禁止の仮処分(民事保全法23条1項)を行うことが多い。そのほか、仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)によって、譲渡担保権に基づく引渡請求権を実現するための仮の地位を定める仮処分をとることも考えられる(詳細は、弁護士山口明著「ABLの法律実務・40頁以下」を参照されたい。)。
3 上記2の方法は、いずれも時間と手間を要する手段であるため、それ以外に動産競売によって担保実行することができないかどうかが議論されている。動産競売とは、「動産を目的とする担保権の実行」(民事執行法190条以下)である。
(1) 動産競売は、(a)債権者が執行官に対し当該動産を提出したとき(民事執行法190条1項1号)、(b)債権者が執行官に対し当該動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出した場合(同項2号)、(c)債権者が担保権の存在を証する文書を提出して執行裁判所に競売開始の申立てをしてその許可を得た場合(同項3号、同条2項)のいずれかの場合に開始される。そのため、例えば、動産譲渡登記が(c)に該当するのであれば、債務名義を取得する手間を要せずに、迅速な担保実行をすることが期待できる。
(2) 次に、動産競売において、執行官は動産競売における差押物を入札又は競り売りのほか最高裁判所規則で定める方法により売却し(民事執行法192条、134条)、その売得金等について配当等が実施される(同法192条、139条)。これにより、譲渡担保権者は、公権力の援助を受けて、公正な売却手続をもって、適正な売却価格で目的物を処分した上で、公正な清算手続を経ることができる。
(3) さらに、動産譲渡担保権を私的実行する際に第三者に売却する場合には契約不適合責任が発生しうるため、譲渡担保権者が担保目的物の性状を正確に把握していない場合などには処分を躊躇させる要因となりうる。また、担保目的物の販路や販売ノウハウを持たない債権者などは、処分先を自ら見つけるのが困難な場合がある。しかし、動産競売では競売の目的物の種類又は品質に関する契約不適合責任を負わない(民法568条4項)うえに、自ら処分先を見つけてくる負担から解放される。
4 もっとも、上記の動産競売の規定は、条文上、譲渡担保権には適用することができないという見解があるが、実務界からは条文上から譲渡担保権に適用できないと一義的には解釈できないことや制度趣旨に反しないことから適用が認められるべきという見解も主張されている。しかし、現在のところ確定的な解釈は存在しない(なお、詳細は、山口明著「動産譲渡担保権の円滑な実行に関する一試論-担保目的物の自力引揚げ、第三者等占有スキーム、動産競売の活用可能性-」を参照されたい。)。しかし、今後のABLの担保実行の一つの選択肢として、是非とも動産競売の導入が認められるべきである。
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