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サブリース契約の解約等と正当事由

1 サブリース契約の更新拒絶又は解約(以下「更新拒絶等」という。)にあたって、正当事由(借地借家法28条)が必要となるのか、必要になるとしてどのような場合に正当事由が認められるかが問題となる。

2 まず、サブリース契約とは、一般的には、建物所有者から賃貸住宅を借り上げ、入居者に転貸する契約をいうが、その法的性質については、裁判所において、サブリース契約に係る契約書の文言などを踏まえ、建物を使用収益させ、その対価としての賃料を支払うという合意内容であることを理由に、賃貸借契約(民法601条)であると評価されているものが多い(最判H15.10.21、札幌地判H21.4.22、東京地判H25.3.21ほか)。

3 しかし、サブリース契約の内容が、①収納賃料等から管理料等を差し引いた残額の一定割合を支払う旨、転貸による収益賃料がない物件に関しては賃料を支払わなくてよい旨の約定があることから、賃借人(サブリース事業者)が空室リスクを負っていないこと、②3か月の猶予期間を置けば賃貸人からの一方的な解約が認められる条項があること、③競売・任意売却等で所有権移転された貸室については、その都度、サブリース契約が当然に消滅する旨の条項があること等を踏まえ、実質的にみれば、当該サブリース契約は、建物の賃貸借ではなく、建物管理及び賃料収受の委託を内容とする委任契約であると評価した裁判例(東京地判H26.5.29)が存在する。したがって、個別事情によるものの、サブリース事業者が空室リスクを負わないサブリース契約などは、契約の実質から、借地借家法28条の適用を受けない委任契約と評価される可能性が十分にある。例えば、不動産の証券化スキームにおいて、パス・スルー型のサブリース契約を締結することがあるが、かかる契約の法的な性質については、個別事情に応じた慎重な検討が必要である。

4 サブリース契約が賃貸借契約と評価された場合には、借地借家法28条(更新拒絶等の要件)の適用を受けることになるから、サブリース契約の解約等にあたっては、「正当事由」の存在が必要である。正当事由の判断にあたっては、①賃貸人の建物使用の必要性、②賃借人の建物使用の必要性のほか、③賃貸借に関する従前の経過、④建物の利用状況及び現況、⑤財産上の給付(立退料など)の申し出の有無などが考慮される。
 
5 そして、転借人がいる場合、正当事由の判断にあたって、転貸料等の収入を得ているサブリース事業者たる賃借人の事情だけではなく、実際に占有して使用している転借人の事情についても借家人側の事情として斟酌すべきである(東京地判H24.1.20など参照)。そのため、転借人の利益及びサブリース事業者の利益のいずれの面からも建物使用の必要性が認められるから、正当事由を補完するための立退料は一定の金額とならざるを得ないものと考える。

6(1) また、転借人がいない場合には、サブリース事業者の利益のみを借家人側の事情として斟酌すればよいが、サブリース事業者が自ら建物を実際に占有して使用することを想定しておらず、もっぱら転貸料収入を得ることを目的としている場合には、サブリース事業者の利益とは、本件建物を転貸して経済的利益を得ることに尽きる。そして、経済的利益とは具体的には、賃料と転貸料の差額であるから、正当事由の補完事由としての立退料の算定にあたっては、かかる差額の一定期間分を基準にすべきものと考える。
 (2) さらに、サブリース契約に係る契約書に、賃貸人側から一定期間前に通知を行えば期限前解約ができる旨の条項がある場合には、「終了についての特別な合意」として、正当事由の一つの要因として評価することができるものと考えられる。なお、裁判例においても、賃貸人の要求があれば建物を明け渡すなどの約定がある場合には、正当事由の一要因として認められているものがある。
 (3) それ以外にも、サブリース事業者がサブリース契約の締結にあたって、サブリース契約の更新拒絶等にあたって正当事由が必要となることについて、異なる説明を行った、あるいは十分な説明を行わなかったことは、当然ながら個別事情によるものの、正当事由の判断要素の一つである「賃貸借に関する従前の経過」として、十分に考慮されるべき事情になり得ると考える。
 (4) 上記(2)、(3)のような事情は、正当事由の補完事由としての立退料の算定にあたっても、賃貸人側に有利な事情として斟酌される可能性が十分にあるものと考えられる。

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