定期建物賃貸借契約における賃貸人からの中途解約権
1 定期建物賃貸借契約において、賃貸人(賃借人ではなく)からの中途解約権を留保する旨の特約を付した場合に、その特約が有効であるか否かが問題となることがある。当該特約が無効と解される場合には、定期建物賃貸借契約の期間の途中に中途解約権を行使したときであっても、借地借家法28条に基づき正当事由が認められなければ、賃貸借契約の解除が有効にならないと解されることから問題となる。
2 まず、借地借家法は、
⑴ 第3章「借家」の第1節「建物賃貸借契約の更新等」において、
(ア) 28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)にて、「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」と定めており、
(イ) 30条(強行規定)にて、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」と定めている。
(2) 他方で、同章の第3節「定期建物賃貸借等」において、
(ア) 38条(定期建物賃貸借)1項にて、「期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。」と定めている。
⑶ そのため、38条1項のうち、「第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる」という部分をどのように解釈すべきかが問題となっている。
3⑴ この点、「本条(借地借家法38条のこと。筆者註)1項の文言上、『30条の規定にかかわらず」と定めることで、本法26条および28条の規定が適用されないことが明確化されているから、定期借家契約においては賃貸人からの解約権の行使に正当事由が要求されることはない。』(新基本法コンメンタール【第2版】借地借家法243頁)として、中途解約権を留保する特約が有効であるとの見解もある。
⑵ 他方で、「本条1項は、『第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。』と規定している。すなわち、期間の定めがあって、期間が満了したときは、賃貸人側の正当事由具備の有無を問わず、期間満了によって賃貸借契約が終了する旨を定めているだけであって、中途解約権行使の場合についてまでは規定していない。むしろ、本項によって、賃貸人の中途解約権留保特約は賃借人に有利な本項に反する特約として無効と解すべきである」(第4版コンメンタール借地借家法328~329頁)という見解が有力に主張されている。
そして、東京地裁平成25年8月20日判決においても、「定期建物賃貸借契約である本件契約において、賃貸人に中途解約権の留保を認める旨の特約を付しても、その特約は無効と解される(借地借家法30条)」と判示している。
⑶ 確かに、借地借家法38条1項は、単に「30条の規定が適用されない。」と定めているのではなく、あえて「30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる」として、30条の規定が適用されない範囲を、「契約の更新がないこととする旨の定め」をする場面に限定している。
借地借家法は、28条を見れば、①「26条1項による契約終了の場面」(契約の更新の場面)と、②「建物の賃貸借の解約の申入れ」(中途解約権の行使による場面)を明確に分けているのであり、38条1項の文言を素直に読めば、①の場面(「契約の更新」の場面)にのみ、30条が適用されないと解釈すべきである。したがって、上記⑵の有力説・裁判例の見解が妥当であると考える。
【執筆者:弁護士山口 明】
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