将来債権譲渡担保の更生担保権上の取扱い
1 将来債権に対して譲渡担保を設定した場合に、当該設定者が会社更生手続を申し立てた場合に、将来債権譲渡担保の効力が及ぶのか、効力が及ぶとして更生担保権の時価評価をどのように行うべきかが問題となる。
2 そもそも、ABLでは、現在及び将来発生する売掛債権等に対して譲渡担保権を設定した後、通常時は、当該売掛債権等を設定者が回収して事業資金等に充てることによって新たな売掛債権等を発生させるという売掛債権等の循環を認めている。そして、危機時期においては、設定者の回収権限を剥奪し、債権者が売掛債権等を自ら回収して被担保債権に充当する。このような仕組みにおいて、設定者が会社更生手続を申し立てた場合には、会社更生手続が開始した後に発生した売掛債権等(以下「倒産後発生債権」という。)に対して将来債権譲渡の効力が及ばないとする見解(否定説)があるものの、将来発生すべき債権譲渡に係る契約は、通常、始期と終期を特定して譲渡しているだけで、その際に倒産後に発生する債権であるか否かを限定していないこと、平成19年2月15日の最高裁判例が将来発生すべき債権について譲渡する契約を締結した時点で譲渡人に確定的に譲渡され、かつその対抗要件を具備できると判示したこと、倒産後発生債権においても債権の帰属主体は債権の譲渡人から変更されないことからして、原則としてその効力が及ぶと解する見解が多数説である。
3 倒産後発生債権に対して将来債権譲渡の効力が及ぶとして、会社更生手続が開始した場合には、更生担保権(会社更生法2条10項)として取り扱われ、更生担保権における目的財産の「時価」(法第2条第10項)評価がされた上、その「時価」を踏まえ更生計画に従った分割弁済を受けるのが実務的な取扱いである。したがって、この「時価」がどのように評価されるかが次の問題として発生する。
この評価に関する考え方については、(a)全体価値把握説(既発生債権に加えて、将来発生が見込まれる債権の価値(割引現在価値に引き直した後のもの)も更生担保権の評価に含まれるという考え方)、(b)費用控除後価値把握説(既発生債権の価値に加え、更生会社において合理的事業活動を前提とした場合に発生するであろう債権の額からその債権を生み出すために必要とされる費用の額を差し引いたものに、債権の現在価値を算出するための割戻しを行い、これを当該更生担保権が把握している価値として評価するという考え方)、(c)開始時残高限定説(倒産後債権の更生担保権評価はゼロであるという考え方)に大別できる。
東京地裁で会社更生手続を扱う裁判官(当時)が執筆した文献等によれば、(b)によっているものと考えられ、弊事務所も(b)が最もバランス感覚に優れた見解であると考える。しかし、(b)を採用するにしても、会社更生手続の事情によって、現在価値を算出するための割り戻しをどのように行うのかについては、具体的な事案に応じて検討せざるを得ない。
4 なお、以上の詳細については、弁護士山口明著「将来債権譲渡の効果が及ぶ範囲について ─関係当事者に変動等があった場合を中心として─」『社会の発展と民法学 下巻 近江幸治先生古稀記念論文集』に所収)を参照されたい。
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