サブリース契約の解約に関する最近の裁判例 (東京地裁令和1年11月26日判決の解説)
1 サブリース契約の更新拒絶又は解約(以下「更新拒絶等」という。)にあたって正当事由(借地借家法28条)が争われた最近の裁判例(東京地裁令和1年11月26日)において、どのような要素が考慮されたのかを検討する。この裁判例は、今後の同種事例において極めて参考となるものと考えられる。
2 サブリース契約に借地借家法の適用があるかどうか
まず、本件で問題となったサブリース契約は、満室保証契約や滞納保証契約が一体化しているものであったが、「いずれも原告会社が被告に対して本件各建物を使用収益させ、被告が原告会社に対してその対価としての賃料を支払うものであるから、建物の賃貸借契約である」とし、本件サブリース契約における自由な解約申入れの定めは、借地借家法30条により無効である旨、本件サブリース契約には借地借家法28条の適用があるため、同法の正当事由の具備が必要になる旨を判示した。
3 正当事由の有無の判断
そして、正当事由があるか否かについて、以下のとおり判断した。
(1) 賃貸人の使用の必要性
賃貸人は、「相続対策として納税資金を捻出するために、本件各建物を可能な限り高額で売却する必要があ」る旨を主張した(なお、納税の必要性についてこれを裏付ける証拠は示されなかった。)ところ、「そのこと自体については、自己使用の必要性が大きいものとはいえない」と判断した。
(2) 賃借人の使用の必要性
賃借人は、サブリース事業者であったことから、建物賃借権の存在は「事業の根幹をなす重要なもの」と判断したものの、(a)本件サブリース契約に、サブリース契約が終了した場合に、賃貸人が転借人の賃借権を引き受ける旨の条項があるから、転借人が建物を使用することに支障は生じないものと解されること、(b)賃借人が資本金数億円の会社であって相当数の同様の物件を確保していると推認され、本件サブリース契約の解約を認めても事業への影響が大きなものとはならないと考えられること、(c)賃借人の本件建物を使用する必要性が、収益を得ることに尽きること、を併せ考慮すると、「サブリースではない賃貸借と比べて、建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を、より大きな判断要素として考慮することができる」と判断した。
すなわち、サブリースにおいては、通常の賃貸借とは異なり、立退料を大きな判断要素として考慮することができると判示した。
(3) 賃貸借に関する従前の経過
本件においては、「賃貸借に関する従前の経過」は、争点となっていないが、サブリース契約中に、自由に解約申入れができる旨の定めがあったようである。そのため、この点及びサブリース契約の締結にあたってどのような説明があったのかについても争点にすることが可能であったように思われる。
(4) 財産上の給付(立退料)の申し出
そして、本件において賃貸人は、立退料として1か月分の差額賃料(転貸料から賃借料を差し引いた金額)を提示したにすぎなかったため、「本件各契約を解約することにより喪失する被告の経済的利益に比して余りに少額であるから、正当事由を補完するには足り」ないため、「その給付に要する額は、原告会社が提示した上記の金額を大幅に上回るものとならざるを得ない」との判断がなされた。
4 結論
以上のとおり、本件の裁判例が、サブリースにおいては、財産上の給付(立退料)をする旨の申出を、より大きな判断要素として考慮することができるとしていることを踏まえると、賃貸人の使用の必要性が低い場合であっても、十分な立退料を支払うのであれば正当事由が満たされる可能性が十分にあるものと解される。
そして、本件裁判においては、賃貸人の使用の必要性が低かったことから、1か月分の差額賃料では正当事由としては不足している旨の判断がなされているものの、他の裁判例や当該事案に関する個別事情も踏まえて、十分な立退料を提案していれば、正当事由が認められる可能性はあったのではないかと考える。