医師のための生成AI紹介②~医療現場でのニーズと活用例
医師の業務の半分はデスクワークともいわれており、医療現場は文書で溢れています。
本記事では、情報の収集という面に焦点を当て、①臨床のために参照する「ガイドライン・添付文書」、②研究・学習のために参照する「論文」、③院内のオペレーションのために参照する「マニュアル」、という3種類の活用例に関して、現場の課題・ニーズ、およびその解決策を紹介します。
弊社では医師向けの生成AIプラットフォーム「MedGen Japan」を提供しています。是非ご確認、ご登録ください。
ガイドライン・添付文書
課題・ニーズ
医師の皆様は、臨床にあたってガイドラインや添付文書などの文書を迅速に参照する必要があります。しかし、これらの文献は非常に多岐にわたり、必要な情報を見つけ出すのは時間がかかります。
例えば、ガイドラインは100ページ以上のPDFから必要な場所を探し当てる必要があります。また、添付文書も検索をして、PMDAや製薬企業のホームページなどから参照する必要があります。
下記の記事では、半数近くの医師がガイドラインを読む時間がないことが示されています(閲覧にはログインが必要です)。
臨床現場では、即座に正確な情報を取得することが求められます。さらに、これらの文献は定期的に更新されるため、常に最新の情報を探しに行く必要があります。多忙な医師にとって、この作業は大きな負担となっています。
生成AIを活用したソリューション
生成AIの活用例の1つは、長文から欲しい情報を抽出・要約することです。文献をPDF等の形式で生成AIにアップロードし、その内容を迅速に要約することが可能です。これにより、医師は診療に必要な情報を効率よく取得でき、迅速な意思決定が可能となります。
また、RAG(Retrieval-Augmented Generation)モデルという検索と生成を組み合わせたモデルを使用すれば、インターネット上や特定のデータベース上にある情報内で検索を行い、情報を要約できます。この手法では、下記の様なメリットがあります。
1つ1つPDFを探し、ダウンロードした上で、生成AIにアップロードする必要がない
複数の文書に同時にアクセスして、要約を行える
RAGモデルを個人で構築することは、エンジニアでなければ少しハードルが高いかもしれません。また、CopilotやPerplexityなどの汎用的なモデルでは、適切な医療ソースに絞って回答を得ることが用ではありません。
弊社で提供している医療情報プラットフォームでは、医療用にカスタマイズされたRAGモデルを提供しています。詳しくは、前回記事をご参照ください。
脱線:効果的なプロンプトの書き方
シンガポールのプロンプトエンジニアリング大会で優勝したSheila Teoさんが、「COSTAR」というフレームワークを使って効果的なプロンプトを書いたことが話題となっています。
Context(文脈):質問・タスクの背景を提供します。
Objective(目的):モデルが注力すべき質問・タスクの目的を明確にします。
Style(スタイル):回答の書き方・スタイルを指定します(辞書的に、教師の様に、等)。
Tone(トーン):回答の書き方の感情面を指定します(情熱的に、機械的に、等)。
Audience(利き手):聞き手を指定します(中学生にわかるように、専門家の同僚に話すように、等)
Response(回答形式):特定の回答形式がある場合に指定します(コードで、Xの形式で、など)。
例えば、患者向けのクリニックだよりを書く際のCOSTARプロンプトは下記の様になります。
Context(文脈):クリニックの患者さん向けに、最新の健康情報や予防医療に関するアドバイスを提供するニュースレターを書いています。今回は、夏季の熱中症予防について取り上げます。
Objective(目的):クリニックの患者さん向けに、最新の健康情報や予防医療に関するアドバイスを提供するニュースレターを書いています。今回は、夏季の熱中症予防について取り上げます。
Style(スタイル): 簡潔で親しみやすいスタイルで、わかりやすく説明します。医学的な用語は避け、一般の方が理解しやすい言葉を使用します。
Tone(トーン): 親しみやすく、温かみのあるトーンで書きます。患者さんに対して親身になり、健康を守るためのパートナーとしての姿勢を示します。
Audience(利き手):主に高齢者や子供を持つ親を含む、一般の患者さんを対象とします。医学的な専門知識がない方でも理解できる内容にします。
Response(回答形式):ニュースレター形式で、見出しや箇条書き、図や写真を用いて視覚的にもわかりやすく構成します。
論文
課題・ニーズ
私たちが行った調査では、医学論文を読む際に9割近くの医師の方が何らかの課題を抱えていることが垣間見え、その中でも言語面や検索における課題が多くを占めます。
論文においても、先述のガイドライン・添付文書と同様、検索や要約のニーズがあります。それに加えて、翻訳作業や、(自身が論文を書く際の)草稿段階での壁打ちや推敲などがニーズとしてあがってきます。
生成AIによるソリューション
重要な論文は、英語文献がほとんどである中、原文を読み始める前に概観を把握するために生成AIを活用して翻訳することが考えられます。また、論文を書いた際の翻訳や英語チェックにも活用できます。事実、生成AIベースでの翻訳は、従来型のGoogleやDeep Lの翻訳よりも精度が勝ってきています。
論文を書く際に生成AIをどの程度使用していいかは、学会誌などによって規定が割れるところだと思いますが、アイデア出しや内容に関わらない部分の記述、文法のチェックなどでは活用が増えてきているようです。
院内マニュアル
課題・ニーズ
病院やクリニック運営のためのマニュアルや事務資料も多く存在します。特に病院では、何十・何百という部署で運営されており、複雑なオペレーションが組まれています。
これらは、現場で働く医療従事者の皆様にとって重要な情報源ですが、新人の方が、マニュアルのどこを見ればいいのか分からず、また、周りの人にも迅速に質問できない状況も多いです。これはコミュニケーションの問題でもあり、多くの人が動いている中、職場の雰囲気や人間関係にも影響しています。
また、マニュアルの更新やバージョン管理も大きな課題です。特に大規模な医療機関では、マニュアルの内容が頻繁に変更されるため、最新の情報を全てのスタッフに迅速に共有することが求められます。
生成AIによるソリューション
生成AIは、RAGモデルを活用し、マニュアルの必要な部分を迅速に検索し、適切な情報を提供することができます。例えば、ユーザーが質問を入力すると、モデルがマニュアル内の関連するセクションを特定し、その情報を提示します。これにより、院内の誰もが迅速に必要な情報を得ることができ、業務の効率化と職場の円滑な運営に貢献します。
さらに、生成AIはマニュアルの更新管理も自動化し、最新の情報を常に提供することが可能です。マニュアルのバージョン履歴を追跡し、新しい情報が追加された際に自動的に更新します。
医療現場では、間違いが重大な事故につながるケースもあるので、ただAIが生成をするのでは、ハルシネーションのリスクを払拭できません。RAGモデルでは、疑問に対して回答を生成するだけでなく、ソースとなる文書を明示して、常にダブルチェックを可能にするのことで、万が一の事故を防ぎます。
これらのツールの導入には、もう一点メリットがあります。ただマニュアルを用意するだけでは、1人が参照したらおしまいです。他方、ツール内で質問を受けることで、質問内容のデータを蓄積できます。それにより、どの様な点が疑問に持たれやすいのか、マニュアルが不十分な部分があるか等を継続的に観察し、改善に繋げられます。
結語:生成AIは現場の効率と質を上げるためのツール
上記で取り上げたもののほかにも、医療の様々な場面で生成AIの活用事例が表れています。電子カルテへ記載の補助、院内会議のノートテイキング、そして、診断の補助にまで及んでいます。
生成AIの導入は、医療従事者の皆様の業務負担を軽減し、患者さんへの迅速かつ適切な対応をサポートする強力なツールです。医療現場での生成AIの活用は、今後ますます重要性を増し、医療の質向上に寄与することでしょう。
私たちは、医師のための情報収集プラットフォームの開発、および、病院・クリニック・企業への生成AIシステムの導入支援(院内資料について質問できるチャットボット開発など)を行っています。お気軽にお問い合わせください。
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