アンモニアの話

皆さまはじめまして。私は大学院で化学系の研究をしている者です。名前は二ヒコテとでも呼んでいただけると嬉しいです。国語は苦手なので文章作成にはあまり自信がないですが優しい目で気楽に読んでいただければ幸いです。

今回紹介するのはアンモニアです。アンモニアの分子式はNH₃。窒素1原子に水素3原子が結合してできた物質です。アンモニアの主な用途は硝酸の製造(オストワルト法)の原料と肥料、医薬品、爆薬としての利用です。

ここでアンモニアに関して復習です。いくつ覚えていますか?下の括弧いくつ埋めることができますか?(中に文字が入っているものは選択式です)

(1)アンモニアは( )色( )臭の気体。
(2)水に(溶けない・少し溶ける・すんごい溶ける)。
(3)気体を採集する方法は(水上置換・上方置換・下方置換)。
(4)アンモニアの立体構造は(直線・折れ線・正四面体・三角錐・正方形)型。
(5)( )色リトマス紙を( )色に変化させる。
(6)塩化水素と反応して( )が生じる。
(7)アンモニア分子に水素原子1個が( )結合してできる(陽・陰)イオンをアンモニウムイオンという。イオン式は( )。
(8)窒素と水素を用いてアンモニアを合成する工業的製法を( )法という。
(9)実験室製法ではアンモニウム塩と(強酸・強塩基)の混合物を(加熱・冷却)をすると得られる。

高校で理系化学をやっていないと全部は分からないかもしれませんが正解を発表します。( )14個中10個が合格点です(不合格でも特に何もないですが・・・)。

(1)無/刺激 (2)すんごい溶ける (3)上方置換 (4)正四面体 (5)赤/青 (6)白煙 (7)配位(共有)/陽/NH₄⁺ (8)ハーバー・ボッシュ (9)強塩基/加熱

今回メインで話したいのは問題(8)のハーバー・ボッシュ法です。知らない人のために少し解説。

ハーバー・ボッシュ法は窒素水素を原料とし、400~600℃の高温下、250気圧~400気圧の圧力下で四酸化三鉄(Fe₃O₄)を主成分とする触媒を用いて工業的にアンモニアを合成する方法の事です。N₂+3H₂→2NH₃という化学反応式で表すことができます(正確に言うと可逆反応なので左右の矢印にするのが正解です)。これは専用の装置が必要です。だって高温と圧力の装置がないとできませんし。そのため実験室では問題(9)のような方法でアンモニアを作ります。

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ではなぜハーバー・ボッシュ法の話をするのか。それはアンモニアが歴史を良い方にも悪い方にも動かした物質だからです。閲覧者「また歴史?」ワイ「うるせー!細けーことはいいんだよ!」

まずは良い方の歴史の話からです。19世紀はヨーロッパで産業革命の成功で人口が爆発的に増加した時代です。そのため、食料生産がこれまで通りでは間に合わない可能性がある、そのため肥料をたくさん使って食料を急ピッチで作る必要があるのです。故にアンモニアの工業化、難しい言い方で空中窒素固定の実現に向けた研究が盛んに行われるようになりました。

ハーバー・ボッシュ法確立前は南米から輸入したチリ硝石(NaNO₃)を使ってアンモニアを作っていました。チリ硝石は高価ですので取得できるアンモニアは限られていました。そのためアンモニアをもっと製造できるようにすることは極めて大事だったのです。

一方窒素は空気中に78%もあるのに反応性が乏しいため使いものになりませんでした。窒素と水素を合成すれば理論上はアンモニアは合成できるハズ、でも生半可な方法では窒素が反応してくれない。だから当時は正に机上論でしかありませんでした。

多くの研究者がアンモニアの工業化を目指して切磋琢磨した中、特に優れていたのがドイツの化学者ハーバー(左上)と同じくドイツの化学者ネルンスト(右上)です。両者が実験から得たアンモニアの測定値が大きく異なったので、対立しました(特にネルンストがハーバーについて散々文句を言ったそうです)。ハーバーももちろん黙ってはいません。後に東工大の教授となった化学者田丸節郎(左下)を自身の研究室に招き入れ、アンモニアの生成熱の測定、温度や圧力の条件を変えて平衡定数を正確に算出することに成功しました。田丸節郎によってネルンストの測定値よりもハーバーの測定値の方が正確だと世に知らしめました。田丸節郎がいなければ歴史はまた違った方向に動いていた可能性は大いにあります。

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更にハーバーの研究がより本格的になっていった際、ドイツの化学者ボッシュ(右下)の登場で長年の夢は遂に実現することになるのです。ボッシュが行ったのは触媒研究と高温高圧装置の開発です。高温高圧の条件を作るためにはそれに耐えることができる丈夫な装置が必要不可欠。ボッシュは装置を改良に改良を重ね、更に触媒を何パターンも試すことで比較的安値で安定したアンモニアを製造することを可能としました。つまりアンモニアの工業的製法であるハーバー・ボッシュ法は崇高な目標を実現したハーバーとボッシュの名前からそう名付けられているのです。ハーバーは1918年、ボッシュは1931年にそれぞれノーベル賞を受賞しています。でも忘れてはならないのが田丸節郎の存在です。教科書ではさりげなく消されています。これはいけない。

ここで1点お気づきになりましたか?田丸節郎以外は全員ドイツの化学者であると。何か意味はあるのでしょうか?大アリです。これが悪い方の歴史と繋がります。

実は始めにヒントを仄めかしました。アンモニアの用途に爆薬と書きました。原因はこいつです。ハーバー・ボッシュ法の成功は1913年。WW1は1914年から。関係性がないわけがありません。なぜならハーバー・ボッシュ法の確立を耳にした当時のドイツ皇帝ウィルヘイム2世が宣戦布告に踏み切ったのもアンモニアの安定した製造によって爆薬のマスプロダクションができたからです。更に化学兵器(主に毒ガス)としての利用の研究も行われました。いったい誰がそんなことを研究するのだろうか。それを熱心に研究したのは何とハーバーなのです!

続きは次の記事で。ここからの内容は毒ガスについてになります。

皆さまとの出会いに感謝、略してC₁₀H₂₂です!

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