ゆめにっき | 海で溺れて脚が。
2024年5月6日
なにかの夢の続きだが覚えていない。
いま私は海で溺れている。
小学生時代の親友が助けに来てくれた。彼は陸地から飛び込んで引き上げてくれようとする。しかし、引き上げる陸が無い。消えていた。
私達はもう成す術を無くし、お互いに抱き合いながら海を彷徨うしかなかった。水面から顔だけを出し、私は茫然としていた。友人はどうにか陸地を探そうと泳ぎ始めた。はじめは右前方から助けに来てくれたため、陸があるとすれば右側ではないか。しかし、彼は左側にどんどん進んでいく。しかし泳げど泳げど先は海しか見えない。
「ねえ、こっちで合ってる?もっと右側行った方が…」
彼は真っすぐ前だけ向いて無言で泳いだ。
雨が降ってきた。波が荒くなっていく。
海と天を繋ぐように細長いストームに遭遇するが、避ける間もなく真ん中を通り過ぎる。
視界が開けると、海の端が見えてきた。海の端といっても、陸があった訳ではない。コンクリート壁があるだけ。巨大な箱庭に居るようだった。
壁に着く前に海の流れは壁にそって右に急カーブしていく。体は流れに従う。いつの間にか流れは指数関数的に強くなっていき、既に大時化となっていた。2人はもう流れに逆らうことは諦め、そのまま抱き合いながら進行方向だけを見ている。
トタン屋根の一部のような鉄塊が目の前を通り過ぎた。その瞬間に頬に勢いよく感じた風に、この速さで当たったら人たまりもないなと、悪寒がよぎる。
流れがもっと早くなる。同時に波も急激に逆立った。波が立つと私達は何メートルか飛ばされて沈むのを繰り返した。そろそろ波に呑まれて死んでしまうかもしれないと思った矢先、今までで一番高い波が立った。同時に僕たちの体は上にすっ飛んでいく。高さ50~100メートルはゆうに飛んでいた。眼球が乾くほど猛スピードで前方に飛ばされた。
ゆく先には、幾重にも隙間なく並んだ鉄塔が立ちはだかっていた。
ああ、あれにぶつかったらもう生き残ることは出来ない。さっきのトタンなんて可愛いものだった。僅かなすき間を無事に通り過ぎる確率は0に近かった。ついに2人は諦めて、目をつぶって運命を待った。ぶつかる手前で、自分は反射的に足をぴんと伸ばした。友人はなにもしていなかったようだが、声をかける余裕もなかった。耳を劈く轟音とともに、不安をかき消すかように僕らは叫んだ。
抜けた。無事なようだ。
先程までの激しい雨風は鉄塔を境に、しんと落ち着きを取り戻す。しかし、麗らかな空模様を眺めている余裕などもちろん無く、ただただその先の未来を懸念する。
2人は空中で徐々に失速していた。あとは海に無事着水するだけかと思えた。しかし下を見ると海ではなく、陸地だった。ビニールテント、畑が見え、田舎の風景が広がっていることを知る。広大な畑にはフェンスが貼ってあり、その先に海はあった。海か?湖か?いや、プールか?そんなことはどうでもよかった。あとはその水に落ちればいい。それだけを考えていた。私達はあれほどまでに望んだ陸地を今度は恐れることになり、あれほど苦しめられた海をひたすらに切望していた。
しかし2人の願いは裏切られ、今まさに手前のグラウンドに向かっている。
水に届かない…。
目を閉じ、これで何回目かの運命を天に委ね、着地と同時に肩をすくめて受身を取った。砂埃に塗れてごろごろと転がっていく。自分は無事なようだ。
友人は…?
周囲を見渡すと、仰向けに倒れている人物を発見する。迷わず駆け寄って声をかける。息はある。
だが、嫌な予感がする。
下半身が少し小さい気が…。 恐る恐る視線を下半身へ移すと、右足が根元からすっぽり無くなっていた。おもちゃみたいな取れ方だったが、そんな筈はなく股関節の辺りから血がぽたぽた垂れている。恐らくあの鉄塔にぶつかったのだろう。取れてしまった右足の破片は、股関節のすぐ近くにあった。まるで着地した時にふと外れてしまったかのようだった。しかしそれはありえなかった。あの鉄塔にやられたに決まっている。
私は知っていた。空中で鉄塔を通り過ぎる時に2人は叫んだが、友人の叫びだけ、耳を蓋ぎたくなるほどまがまがしい金切り声だったことを。
自分を助けたばかりに自らも同じように大時化の海に溺れ、波に打ち上げられたかと思ったらついに片足をなくしてしまった友人。悲しくて仕方がなかった。
でも私は泣けなかった。これが夢だと気づいていたから。泣くふりをすることすらせず、ただ友人の隣で膝をつき、何をしていたかというと、これを夢日記に記すために出来事をさかのぼるのに必死だった。