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【読書レビュー②⑥終】尾八原ジュージ「巣」

こんばんは、PisMaです。
この長らく続いたレビューも最終回。今回も少々長くなってしまいました。霊能者御一行と内藤親子の行く末をお見届けくださいませ。

前回は二階堂が霊障に蝕まれ、「身代わり」として貰っていたぬいぐるみが無くなったところで終わりました。怪異の影響で床に座り込んでいた二階堂をなんとか立たせた黒木は、冷気が登ってくる嫌な気配に襲われつつ志朗に指示を仰ぎます。


「し、志朗さんどうしましょう!?」
「外出た方が良くないですか!?」

『いや、桃花ちゃんを連れて出たい。その場でもう少し待って。近くにいる』


冷静に指示を出す志朗。
いつまでここにいたら良いのか。二階堂も震えた声で怯えており、黒木は慌てた様子で志朗に問いかけ続けます。ふとイヤホンから

「いかないで」

と、聞いたことのない女の声が響きます。
突如切れる通話。

こつん。

洋間の外から音がし始めます。
こつん、こつんと響くこの音はおそらくあの人形の音でしょう。二階堂と黒木が息を殺して様子を伺っていると知らない番号から電話が鳴るので出てみると、応対したのは志朗です。

『通話、スピーカーにして!』

と志朗の指示が飛びます。
黒木がなんとかスピーカー設定にすると、美苗の呼びかけがスピーカーから飛び出します。知らない電話番号だったのは、美苗がかけていたからかもしれませんね。

『桃花、うさちゃんだっこして!』

二階堂が「ぎっ」と妙な声をあげます。


「来た来た来た」
「何!?」


狼狽する黒木をよそに、「入った!黒木くん外に出て!」とようやく志朗の撤退指示が出ます。
動きがままならなくなった二階堂を担ぐも、想像以上の重さ。黒木は二階堂に加え桃花が乗っていることをうっすら実感するのでした。

リビングを出て廊下に出ようとドアノブに手をかけようとすると…廊下からまたこつん、と音がしました。

このまま廊下に出てはいけない。
直感でまずいと感じたのか、ドアノブから手を離す黒木。廊下からはひっきりなしに音が鳴り続け「なにか」がいると主張します。

『五つカウントする』

『ゼロでドアを開けて、スマホを前に突き出して。廊下は見ないように』

「は、はい」

簡潔に伝わってくる志朗の指示。背中に二階堂と桃花を背負いながら、減っていくカウントのなかで呼吸を整えます。
黒木は志朗の『ゼロ!』の合図で、廊下にスマートフォンを突き出します。

『どぉ――――――――――――――――――――――――ん』


いつぞや聞いた大音量。魔を退けるその音は廊下にいた「何か」を霧散させます。

「は、走って!出て!」

逃げることを急かす女性の声。
急いで黒木はリビングから廊下へ飛び出します。
背後で、またひとりでにドアが閉まりました。

そのまま廊下を走り抜け、玄関からマンション共有の廊下まで飛び出してきた黒木たち。二階堂を担いだまま尻餅をつくと、生き返るような思いがしました。

二階堂の腕からは二匹目のサルが消えており、またもや部屋に取られてしまったようでした。
美苗からの電話は非常に心配そうで、「大丈夫ですか!?タクシーを呼んだので一階に降りてきてください。そのまま病院に…」とそこまで話したところで、美苗は今回の件で最も重要なことを尋ねます。

「桃花、連れてこられたんでしょうか」

二階堂は「だいじょうぶ、ウサちゃんが良かったっすね」と、作戦の成功を伝えます。
二階堂は桃花に憑かれていて顔色が悪かったため、美苗や鬼頭と共に桃花のもとへ向かうことに。そして黒木は未だ姿が見えない904号室に居る志朗のもとへ向かうことに。

本来であれば一緒にエレベーターで降りてくるはずでしたが、黒木が904号室に着くと志朗は耳を押さえたまま部屋に転がっています。

鬼頭の大音量を間近で聞いてしまった志朗。
耳が衝撃で一時的に聞こえないようで、しばらくしてからなんとか椅子に座ることができました。超過敏な志朗の聴覚と、鬼頭の大音量対魔ボイス。相性が悪い意味を理解する瞬間でした。

志朗が倒れているうちに桃花ももとの肉体に戻り、無事に目を覚ますことができました。苦節七年の悲願が果たされた瞬間でした。
これから桃花は苦労することも多いと予測できるものの、本人から「ありがとう」と感謝の言葉もいただけたので万事オッケーとしましょう。

ひととおり桃花の報告を受け、志朗と黒木は安堵します。しかしまだまだ604号室が危険なことについて黒木が言及し、志朗が軽く答える。そんないつもの雰囲気で会話をしていると、どこからともなくスリッパを履いたような足音がします。

「他に誰かいるんですか?」
「誰もいないよ」

パタパタと歩き回る足音。
黒木は話を続けようとしますが、志朗は黒木の耳元で「美苗さんを探してるんだよ」と囁きます。

桃花の件がひと段落した鬼頭が戻ってきた連絡を受けて、志朗は管理人室に向かいます。鬼頭は何か用事があるようでした。
声の件もそうですが、今回の作戦は「獣の巣をつついたようなもの」。鬼頭は志朗に何かしらの弊害があるのではと心配していました。

鬼頭は一体のぬいぐるみを志朗に渡し、「気をつけて」と念を押して帰っていきました。

帰宅のため904号室へと向かう志朗。

その部屋に入ると、誰もいない部屋から「おかえりなさい」という声。
声に返事せず足早に巻物を回収し出ていこうとすると、スリッパを履いた足音がパタパタと音を立てて近づいてきます。

肩越しに鬼頭から貰ったぬいぐるみを部屋に放り込んで、扉を閉じ鍵をかける。志朗は部屋を出てから忘れ物を思い出したりしましたが、部屋に戻るという選択肢はないようでした。
スマートフォンを取り出し電話をかけ始めます。

「もしもし、二階堂くんまだ管理人室? 時間いい? あのね、ダメです。904号室。そう、ダメになっちゃった。なるはやで元の部屋に引っ越していい? 悪いけど。はい」


904号室は再び怪異に侵食され、次に住めるようになるのはいつになるのか目処が立ちません。志朗に出来るのは少しずつ怪異の力を削ることだけで、その手段に徹すること以外にも道はありません。
904号室の新しい入居者に部屋を追い出されてしまった志朗は、今日は駅前のビジネスホテルに泊まるそうです。



本日はここまで。
今回で「巣」のレビューは終了となります。

2.3ヶ月に渡る長いレビューでしたが、長らくお付き合いいただきありがとうございました。1月より続いてきた連載レビューもここで最終回となりますが、本を完読したら不定期にnote更新しようと思っていますので、どうぞのんびり引き続きお付き合いくだされば幸いです。

お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
わたしと一緒に暮らしましょう。


おやすみなさい。






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