夢十夜 第十一夜

こんな夢を見た。
 山奥で横たえ昼寝をしていた。まだ日の翳る前、十三時頃だった。正午というのに艶のある白玉はまだ消えず、頬を濡らして落ちていく。紺碧の空をふと眺めつつ、これからどうしようかとぼんやりと考えていた。ふと目線を傾け左を見ると、椿の香り漂う黒髪娘が鼻緒切らして泣いていた。下駄は履いた試しがなく、鼻緒の直し方がわからない。泣き声が止まぬまま考え事などできないと悟り下町の履物店で直してもらいに山を下ることにした。黒髪娘を背中に負ぶり、下駄を持ちながらゆっくりと山を下った。黒髪娘を負ぶっていると背中がじんわりと温まり春を運んでいる気がしてならなかった。春の心地よさは皆心を落ち着かせる。だが何故だか私の心臓の鼓動は止むどころか速くなる一方。ああ、これが恋というものなのか。そう考えていると、黒髪娘が「なぜ」と一言口にした。

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