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ナイジェリアチンパン、桃太郎(外伝)

約15年前のある限界集落に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。息子と娘は結婚を機に集落から旅立ち大都会でおのおのの人生を謳歌しておりました。

日頃の日課の為、お爺さんは山へ、お婆さんは川へ向かいました。お爺さんは産業革命の契機ともいえる鉄産業から生まれた鉄製斧を持って向かい、そして山中湖周辺の木を伐採し始めました。その時、誤って1万円の鉄製斧を湖へ落としてしまいました。「困った、困った。婆さんにドヤされる。どうしようか。ヌルヌル秋山って言われる」ロダンの「考える人」が「地獄の門」を見ているかのように、湖を見ていました。突如、気泡と共にゴールデンチンパンジーが現れました。

「何かお困りですか」

「年金で買った斧をこの湖に落としてしまい困惑している最中なのです」

「なるほど。お爺さんの落とした斧はこちらの象牙から作られた斧ですか、それともこの鉄製の斧ですか」

「鉄製の斧です」

「正直者ですね。少々待っていただく必要がありますのでこのままお帰りください」

お爺さんはゴールデンチンパンジーの言われるがまま帰路につきました。

お婆さんの仕事は川で洗濯をすることです。「やっと着いた。洗濯でもするかね」その時、川の上流からチンパンジーが元気よく泳いできました。そのチンパンジーはお婆さんの元に着くと、洗濯物で身体を拭き始めました。

「はじめまして。ナイジェリアチンパンです」

「これはこれはどうもご丁寧に」

「あと、この斧をお爺さんに渡しておいて下さい」

「確かに爺さんの斧だね。わざわざすみません。お礼にご飯でも食べていって下さい」

「恐縮です」

お婆さんはナイジェリアチンパンと帰路につきました。

今晩は久しぶりの3人?での食事です。談笑しているうちにお爺さんとお婆さんはナイジェリアチンパンを飼いたくなってしまいました。

「どうだい、私たちの息子になってくれないかい」

「私はワシントン条約で保護されている身分ですのでそこの所はご理解いただけますか。ご理解いただけましたら、密約を交わしましょう」

「なんかよくわからないけど理解しました」

こうしてナイジェリアチンパンは息子となりました。

平和な日々を過ごしていた3人?のもとにニュースが舞い込んできました。この限界集落の近くの小さな島に鬼が住みついてしまったのです。ニュースではその島のことを「鬼ヶ島」と呼んでいました。その鬼ヶ島には菅原道真、平将門、崇徳天皇を筆頭に組織が構成されてしまったようです。

「私が鬼ヶ島に陣を構えている組織を壊滅しに行ってきます」

「なんと立派なチンパンジーでしょう。道中お腹が空くといけないからこちらのバナナを持って行きなさい」

「恐縮です」

次の日、ナイジェリアチンパンは鬼ヶ島に向かう為、フェリー乗り場に行きました。切符を買うために受付に行きましたがチンパンジー料金がないようです。どうしようか困っているところに陰陽師さんと神父さんに声をかけられました。「お困りですか」「鬼ヶ島に行きたいんですけど、チンパンジー料金がなく途方に暮れているところです」「そうなんですか。私たちも鬼ヶ島に行くところですのでご一緒しましょう。ペットとして貴方を扱いますがご了承下さい」

こうして無事にフェリーに乗ることが出来ました。助けていただいたお礼にナイジェリアチンパンはバナナをそれぞれに渡しました。到着まで約1時間、彼らは談笑し、その中で目的を確かめ合って意気投合しました。

「今回の敵は日本の三大怨霊ですので我々が派遣されたのです。申し遅れました、安倍晴明と申します」

「私はガブリエーレ・アモルトです」

「ナイジェリアチンパンです」

鬼ヶ島に到着した一行は精神を整え本拠地に向かいました。その城郭の壮大さに圧倒されながらも前に進みました。

「広い庭ですね。住居不法侵入になりませんかね」

「私は怨霊を倒した後に殺人罪で起訴されないか不安です。政府の要望なので大丈夫だとは思いますが、いきなり法治国家なのでと言われたらとびくついております」

「私は治外法権ということで」

内門までたどり着きました。「あれ、インターホンがありますね。押してみましょう」

ピンポーン。

「どちら様でしょうか」

「ナイジェリアチンパンです」

ご用件は、と聞かれましたので、貴方たちを退治しに来ましたと丁重に伝えました。そして、「わかりました、社長室までお越し下さい」と了承を得て門を開いて頂きました。

社長室には菅原道真、平将門、崇徳天皇が席についておりました。秘書は酒呑童子でしょうか。なかなかいい筋肉のつき方です。この中のボスは一体誰なのだろうと探る必要がありましたが、話をしているうちに上下関係が明らかとなり、崇徳天皇が親玉だと分かりました。

「さて、あなた方の要求は我々がこの島から出ていくことだと。そうですね」

「左様です」

「理由を詳細に伺えますか」

「あなた方は鬼を使い、人間から金品を奪い取っていますよね。そんな悪党は許せません」

「なるほど、正義感からですか。しかし、そちらの言い分は理にかなっておりません。我々は怨霊です。そしてあなた方は、一見するところ、チンパンジーと亡人ですよね。安倍晴明様とガブリエーレ・アモルト様は私どもと同じ世界観ですので百歩譲ってよしとします。しかしナイジェリアチンパン様は基本的人権の共有をしておりませんよね。その人権、例えば財産権を憲法で認められているのですか。そしてそれを侵害されたと」

「にゃにゃ⁇」

「何もお答えくださらないと。人間界のルールを我々怨霊に当てはめることが正義でしょうか。我々はこの人間界にすでに生を授かっていないからこそ、この人間界で貴重なものを奪っているのです。怨霊をご存知ですか。我々は人間に対しての復讐の化身です。もう少し具体的に話をしてみましょうか。野生動物に当てはめます。アフリカのジャングルで森林破壊が進み住処を奪われました。さらに食糧不足に陥ります。そして人間の居住区まで降りてきて畑などから食料を得ます。しかし、人間は野生動物を害獣として駆除しようとします。さぁ、野生動物と我々怨霊の違いは何でしょうか」

「弁護士も連れてきます」

「それがいいでしょう」



めでたしめでたし。







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ナイジェリアチンパン
バナナを購入したいと思います。メロンも食べてみたいです。