「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-」クリアレビュー
※ネタバレ有り
↓前作の感想記事
はじめに
当アカウントでも度々レビューを投稿している”英雄伝説 軌跡シリーズ”の13作目にあたる最新作、『英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-』をようやくクリアしたので、今作も感想を書き綴ろうと思う。
前回のレビューから重ね重ねにはなるが、この”軌跡シリーズ”はシリーズ第一作『空の軌跡FC』から本作『界の軌跡』まで同一の世界、連続した時間軸で進む物語であるため、前作までの作品をプレイしていたほうが話を理解しやすい。というよりも本作に関しては前作までのほぼ全てのタイトルをプレイしないと間違いなく話に付いていけないだろう。筆者も過去のシリーズ作品は全てプレイ済みであることを先に述べておく。
また今回も『黎の軌跡』と同じくPS4版とPS5版が同時に発売されたが、PS5版でのプレイレビューとなることを承知いただきたい。
率直な感想を言えば、本作をプレイし終えたあとに残ったのは失望や諦めといった感情だ。確かに、アクションの表現は飛躍的に向上しているし、本作で明らかになった「ゼムリア世界」に関する設定はかなり多くそれらの点は満足できた。しかしだからこそ、閃Ⅲ~黎Ⅱで明かされた設定の薄っぺらさはなんだったのかという印象を抱いてしまったし、もう何年も各所で指摘され続けているテキストの稚拙さは相変わらずで直そうという気概すら感じられない。そして肝心のメインストーリーも無味無臭だ。
当たり前だがRPGに求める物・そして土台となるものは引き込まれる物語や世界観であって、キャラクターの魅力やアクションなどといった要素はその次に存在するものである。SFCやPS時代の往年の名作JRPG、そして本シリーズの『空の軌跡』のような作品が今も色褪せないのはそれらの基礎がしっかり作られているからだということは忘れてはいけない。
”軌跡シリーズは長期シリーズであること、追い続けているファンがいることに胡座をかいている。”本作に対してはそう思わざるを得なかった。厳しい目線からのレビューとなってしまうがぜひ最後まで読んでいただければ幸いだ。
良かったところ
アクション表現の向上
『創の軌跡』以降導入されたモーションキャプチャーが存分に活かされており、カメラワークなども飛躍的に良くなっている。各キャラクターのクラフトはほぼ全てかつてのSクラフトのようなケレン味のあるかっこいいアクションとなっており、特にモーションキャプチャーがなかった時代の作品に登場していたリィンやクロウのクラフト、そして前作・前々作から演出が改善されているシズナやフィーのクラフトはかなり満足できた。
『閃の軌跡』シリーズでの3Dアクションの演出は同時期の他社の作品と比較してお世辞にも良いとは言えなかったが、本作に関しては引けを取らないどころか優れているとさえ感じられ、シリーズの進化を実感した。ダンジョンの最奥で待っている敵側のキャラが予測出来た時は、「この組み合わせならバトルのカットシーンもあるかな?」と期待してしまうほどだった。
盛りだくさんの新たな設定・伏線の数々
本作では"天蓋"や"グランドアーカイブ"、"古代遺物の正体"などシリーズを通して描かれてきた「ゼムリア世界」の根幹に纏わる多くの情報が明かされた。コネクトイベントでもその限りでは無くキャラクターの深掘りと同時に新たな繋がりや一面を見ることができ、シリーズを追い続けてきた人間としては驚きがあり退屈しなかった。
とはいえ前述した通り、本作で明かされた情報量は前作までの近年の作品と比較すると、多すぎてむしろ今までの作品の必要性を疑ってしまい、それと同時に伏線というより取ってつけた後付け設定のように見えてしまったのは否めない。
ゼムリア世界がループしていることや大陸の外が存在しないことのような仄めかしは『閃の軌跡Ⅳ』の時点で既にあったし、あれから現実では6年の月日が経っており3作も出ているのに前作までで出た新しい情報は庭園やマルドゥック社など話を進めていく上で最低限のことばかりだった。結社の執行者、アルテリア法国の法王、ギルドのS級の重鎮などは有名人であろうことは容易に想像できるにもかかわらず、今作まで全く情報が出ず「ポッと出」となってしまっていて、こういう展開になることが最初から決まっているのであればもっと前からちょっとずつ情報が明かされても良かったのではないかと思う。要は印象の問題だ。(本当にその場しのぎで後手に回りながら設定を決めているなら目も当てられないが)
先の読めない展開
本作のメインストーリーは大まかにヴァンルート、リィンルート、ケビンルートと分かれていたが、それぞれが異なる目的のもと行動しており、かつて一丸となって協力した仲でも敵対に向かって進んでいたりなど適度な緊張感があり目が離せない展開が続いた。
これらはプレイアブルキャラクターの視点では語られない結社、黒月、CID、A∴D、教会、ハミルトン博士、エルザイム王家なども同じで、『黎Ⅰ』でのオラシオンのデスゲームの時のように、それぞれの勢力の思惑が複雑に絡み合って動いていて先が読めず、どの勢力とどの勢力が繋がっているか、何を目的として動いているかなど考察しながら進めるのが楽しかった。
プレイアブルのキャラクターでもそれぞれの敵対しないと見えない表情も見られ、今まで散々やってきた「プレイアブルキャラクターみんなで協力」や「トンデモ道具で洗脳されて敵対」も無かったのが逆に新鮮に感じられた。
悪かったところ
キャラクターの成長や精神的変化が無い
これはクリフハンガーで何もかも中途半端な状態で終わった作品に言うのは酷かもしれないが、改善する見込みもなさそうなのでしっかりと挙げておく。
本作には多くのキャラクターが登場するが、どれも葛藤を乗り越えたり精神的な成長を遂げるエピソードが無く、エンディングに到達した時に情緒を動かされることがなかったことに気が付いた。
ヴァンは4spgをやりながらA∴Dの謎を追っていただけで、リィンも新機体テストの寄り道で重大な情報を知ってしまっただけだった。ケビンに至っては『空the3rd』での精神的成長が無かったことになっている。
これは前作など他の軌跡シリーズ作品でも同じなのだが、主要キャラクターが壁を乗り越えるエピソードは主人公一行と出会う章でほぼ終わってしまうので、その後は何かあるたびにただ一言喋るだけの仲間になってしまうのだ。リゼットやジュディス、エレインといった大人組のキャラは元から精神が成熟しているので成長の見込みも少ない。
唯一大人組の中の例外がヴァンで、『黎Ⅰ』でハードボイルドを気取りながらトラウマを持つが故に人と深く関わるのを避けていたのが、アニエスとの出会いをきっかけに変わっていく過程が作中で描かれていて、その締めくくりがラストの演出だった。『黎Ⅰ』が近年の軌跡シリーズの中では評価が高い部類なのはこの辺りが大きな理由だと思う。
キャラクターの成長や変化というとかなり曖昧な表現だが、個人的にはかなり重要な要素だ。上で述べた『黎Ⅰ』のヴァンもそうだが、『碧の軌跡』では結社の計画やクロスベルの地政学的事情やクーデターを背景にロイドが死んだ兄に追いつくまでの成長、そしてキーアの葛藤が描かれていたし、『創の軌跡』の≪C≫ルートは『閃Ⅳ』までヴィランとして好き勝手やっていたルーファスが、ラピスと出会い父を越えられなかったというコンプレックスや汚い貴族社会で陥った人間不信を克服し仲間を頼るようになる過程を描いていた。
本作で一番精神的に変化があり主軸に置かれていたキャラクターと言えばアニエスかもしれないが、そもそも前作までヒロインがアニエスなのかエレインなのかをあからさまに曖昧にしていて心理描写に力が入っていたわけでも無かったし、アニエスは元から心優しく自己犠牲のできる人間だったので、自分にしかその役割がこなせないなら役割を全うしようとするのは想像に難くない。要するに、初登場時から人格や能力が出来上がっていたので主役を張れるような成長や変化など無いのだ。
これらの要素が欠けている筋書きは物語ですらなくただキャラクターが動いているのを見させられているだけだ。その上本作の前半は意図的に匂わせ発言や見るからに怪しい人間を追及せず、庭園とかいう便利なものがあっても情報交換をしようとしないなど、わざとらしい挙動をする。
本作はもはや物語ではなくキャラを動かして情報をだんだん開示させていく、という筋書きをなぞるだけのゲームであり、前項で長所として挙げた「先の読めない展開」は言い換えればただ単にクイズが少し難しいというだけなのだ。
構文
『閃の軌跡Ⅲ』の頃辺りからずっとネットで言われ続けている軌跡シリーズでやたら多用される稚拙なテキスト、通称「軌跡構文」だが、今作も救いようが無いほど酷い。前作のレビューでは面倒臭くなって詳細に書くのを省いていたが、もう7年以上改善されておらず、改善しようというフリすら無いようなので代表的な具体例をいくつか挙げようと思う。
①「改めて」「方面」
例:フフ、改めてになるが、ファルコム方面の文章力、見届けさせてもらおう。
②みんなで一言タイム
ゼムリア世界では何かに遭遇した時にみんなで一言ずつ喋らないといけないルールがあるらしい。
③軌跡倒置法
軌跡倒置法とは「〜ためにも」や「〜という意味でも」で締める文章になるように語順を入れ替える文法である。
改めてずっと放置されているのを見ると、これでも問題ないと思っているのだろうか。少なくともここ数年のネット方面の反応を見る限り、プレイヤーに否定的に受け取られているのは間違いない――読みづらいという意味でも。
final chapterとはなんだったのか
前作『黎の軌跡Ⅱ』のアップデート後に追加されたシナリオのラストで、ハミルトン教授とディンゴの関係を匂わせながら「to be continued... KURO NO KISEKI final chapter」と表示されていたのだが、今作で完結しないどころか全てが中途半端のクリフハンガーで終わってしまった。本作発売前の社長インタビューでも今作で完結するかどうかははぐらかされており、蓋を開けてみればコレだったので不誠実な対応のように感じた。
「黎では無く界だからセーフ」という屁理屈だとしたら尚更不誠実である。
クリフハンガーは今に始まったことではなくシリーズ最初の作品からやってきたことだが、だからといって未完成の作品を買わせて良い理由にはならない。そもそもシナリオもテキストもレベルが低すぎる。『黎の軌跡Ⅱ』は『黎の軌跡』の内容がまだ良かったし、『共和国編』のクライマックスが次に待っているだろうからと辛うじて我慢できたが、2作続けてこういった低品質で未完成の作品が出てくると、やはり失望を禁じ得ない。
まとめ
酷評になってしまったが、それだけ『界の軌跡』に期待していた気持ちが大きかったと言えばご理解いただけるだろうか。
私はこの軌跡シリーズを『零の軌跡』が発売された頃からずっと追いかけていた。『閃の軌跡Ⅲ・Ⅳ』の出来にはがっかりしていたものの、『創の軌跡』のCルートや、『黎の軌跡』の内容が良かったが故に、やっと名作JRPGとして返り咲けるのではないかと本作にはかなり期待していた。
しかし世に出てきたのはこれだった。シリーズ全作をプレイしていないとわからない内容な上、答え合わせ以外中身が無く分割商法で後半も買わないと完結しない。前作の「Final chapter」が嘘だった以上今作の「to be continued van's final chapter」も嘘である可能性が否定できない。あまりにファンに甘え切っている。
私は一年振り返り記事でも書いているようにJRPGに限らず様々なゲームを遊んでいるが、年々全体のクオリティが高くなっているように感じている。FFやゼルダ、サイバーパンク、ユニコーンオーバーロードなどここ数年で発売された名作を挙げ出したら枚挙にいとまがない。
そんな数々の作品と、本作のように特にシナリオやテキストの問題やクオリティが一向に改善しないゲームが同じフルプライスで並べられているのは理解に苦しむ。
このゲームを買うのに7920円も使ったことをかなり後悔している。
最後に、当アカウントでは『黎の軌跡』『黎の軌跡Ⅱ』『界の軌跡』と3作に渡ってシリーズ作品のプレイ感想を投稿してきたが、それも今回で終わりとなる。本作をもって私は軌跡シリーズを追うことを辞めるつもりだからだ。もし3作全てのレビューに目を通された方が居れば、この場で謝意を述べたい。
丁度インフレし続けるPS5を見限ってPCに完全移行するつもりだったので、本作が良いきっかけを与えてくれた。今後新作を買うとしても、評判を見てから、更にPC版でセールになってからになるだろう。
ああ、軌跡に出会わなかった回にグランドリセットしたい…。