【高校生物】代謝と自己複製の起源

前回の記事で、生物の起源について考えました。
無機物が激しい環境の中で簡単な有機物になり、生命の部品である複雑な有機物になることを学びました。この流れのことを化学進化説と言います。

複雑な有機物ができても、生命になるためには次の3つの性質が必要です。
1.外界と膜で仕切られている
2.代謝する(中で化学反応が起きている)
3.自己複製する
1の「外界と膜で仕切られている」は有機物同士をくっつければ達成できそうですが、2の「代謝する」、3の「自己複製する」は難しそうですね。

今回の記事では原始生物の代謝と自己複製について解説していきます。
この記事を読むことで、原始生物の代謝と自己複製を説明することができるようになります。


代謝と自己複製の起源について考える前に、今の生物がどのように代謝と自己複製をしているのかを考えて見ましょう。

代謝とは、生物の中で起こる化学反応のことを指しますが、特別なことではありません。実際には、生物の中にある物質Aと物質Bが反応して物質Cができるだけで、この化学反応は生物の外でも理論的には起こり得ます。ただし、そのためには時間とエネルギーが必要です。
この化学反応を制御しているのが「酵素」というタンパク質です。酵素は触媒として働き、触媒とは「化学反応の際に自分自身は変化せず、反応速度を変えるもの」です。酵素のおかげで、通常は時間がかかる反応や高エネルギーが必要な反応も、体内で効率的に行うことができるため、代謝がスムーズに進行します。

・酵素:代謝の化学反応を触媒する、タンパク質

自己複製、つまり子孫を残すことです。人間なら子供を産むことです。
このとき、親から子供に受け継がれるのがDNAです。DNAは「核酸」と呼ばれる物質で、遺伝情報を持っており、体の設計図のような役割を果たします。私たちの体は、皮膚や髪、筋肉、酵素など、さまざまなタンパク質で構成されていますが、これらのタンパク質の作り方はすべてDNAに記されています。

・DNA:遺伝情報を担う、核酸

DNAからタンパク質になる流れは次の通りです。
DNA →複製→ DNA
↓ 転写
RNA
↓ 翻訳
タンパク質
↓ 触媒
生命活動

RNAというのは一本鎖の核酸で、DNAは二本鎖の核酸です。
こうしてできたタンパク質は酵素となり、代謝を触媒する役割を担います。

・転写:DNAの情報をRNAにコピー(転写)する
・翻訳:RNAの情報からタンパク質を作り出す
RNA:一本鎖の核酸

ここで重要になるのが、DNAを作るためにはタンパク質である酵素が必要だということです。しかしそのDNAを作る酵素(タンパク質)の設計図はDNAに書いてあります。
じゃあ最初にあったのはどっちなのでしょうか。

ポイントはRNAにあります。
DNA→RNA→タンパク質という流れですが、RNAいらなくないですか。
DNA→タンパク質なら簡単でいいじゃないですか。
RNAは一本鎖、DNAは二本鎖です。二本鎖のDNAの方が安定しています。なぜわざわざ不安定な一本鎖のRNAを作るのでしょうか。

・生物の謎
DNAが先か、酵素が先か
RNAを途中に挟むのはなぜなのか

この謎について考えることで、生物の代謝と自己複製の起源が明らかになりました。
1982年、チェック(アメリカ)はRNAの一部が酵素として働いていることを発見しました。この事から、RNAには触媒機能があることがわかりました。

1970年、テミン(アメリカ)、ボルティモア(アメリカ)は逆転写酵素を発見しました。逆転写酵素は、RNAからDNAを合成する酵素であり、これまで一方向だと考えられていたDNAからRNAへの遺伝情報の伝達が、RNAからDNAへも可能であることが示されました。これにより、RNAが遺伝情報を担う機能も持っていることが明らかになったのです。

この2つの発見をもとに、先ほどの謎に対する仮説が提唱されました。それは、RNAが先に存在していたというものです。RNAは、酵素が持つ触媒機能と、DNAが持つ遺伝情報の両方を兼ね備えていたため、酵素やDNAがなくてもRNAだけで代謝も自己複製も行うことができた、という仮説です。

・DNAが先か、酵素が先か
→RNAが先、DNAと酵素は後
・RNAを途中に挟むのはなぜなのか
→もともとRNAがいた

❌DNA→RNA→タンパク質→生命活動
⭕RNA→生命活動

このRNAが遺伝情報を担いながら、酵素としても働いていた時代は「RNAワールド(仮説)」と呼ばれています。

時代が進むと、RNAが持っていた触媒機能は、より効率的な酵素であるタンパク質に引き継がれるようになりました。つまり、RNAからタンパク質が生まれ、生命活動が展開されていったのです。

また、遺伝情報を担う役割も、より安定したDNAに移りました。これにより、現在の生物はDNAからRNAを経てタンパク質を作り、それが生命活動を支えるという形になっています。この遺伝情報をDNAが、触媒機能をタンパク質が担う時代のことを「DNAワールド」と呼びます。

RNAワールド:RNAが遺伝情報を担いながら、酵素として機能を行っていた時代
DNAワールド:遺伝情報はDNA、触媒機能はタンパク質が担う時代

DNAワールドになり、生物の代謝と自己複製の能力は向上しました。遺伝情報を確実に伝えることができるようになったため、ついに生物は進化を始めます。次回からは生物の進化を考えていこうと思います。


今回の記事で学んだことを活かして最初の問いについて考えて見ましょう。
「原始生物の代謝と自己複製はどのような形であったか」
原始生物においては、代謝も自己複製もRNAが担っていました。これは、RNAが化学反応を促進する触媒機能と、遺伝情報を伝える機能の両方を持っていたからです。この時代は「RNAワールド」と呼ばれます。
その後、時代が進むにつれて、より高性能なタンパク質が触媒機能を、そしてより安定したDNAが遺伝情報を担うようになりました。この時代は「DNAワールド」と呼ばれます。


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