星の園に散る美姫
漆黒の美姫、アレナリア。
その瞳は星のごとく燃え、豊かな髪は荒々しい風雲を呼び寄せ、繊細な指先は獰猛な炎を吹き出し、ひと目その姿を見た者はかの女に平伏し、忠誠を誓うという。
しかしアレナリアは血を好み、平伏した者どもの首をも掻き切ることでもまた、名を知られていた。
そしていまや、美姫アレナリアは自らの血の海でのたうち回っている。
名将ギルソニエルは、その旗艦『アレナリア』においてまさにアレナリアの名にふさわしく数々のいさおしを挙げ、勇猛果敢なこと正に漆黒の炎のごとくあり、その名を全宇宙に轟かせていた。
その操艦を支えたのが老年の艦長ボルデアンプである。もともとは商船乗りであったが、まだ若かったころ同郷のギルソニエルとの篤い友情に結ばれ、かれが大将としてアレナリアを与えられたとき、操艦の巧みさを買われて異例の引き抜けを受けたのであった。
以来数十年、不敗の美姫アレナリアは国をきっての名艦となり、かれらこそが銀河に平和をもたらし、伝説を創り上げるものと詠われていた。
しかし、いかな伝説にも終わりはある。
最初の釦の掛け違いはボルデアンプが察知した。船乗りとしての勘が、これ以上は深入りであると告げたのである。しかしギルソニエルは自らの経験を信じ、かれの箴言を一顧だにせず、進軍を続けた。そしてこれが第二の掛け違いとなった。
突如通信兵が悲鳴を上げた。
「敵艦多数、上空ニアリ!」
「敵艦多数、左右・後方ニアリ!ソノ数不明!!」
こうして絶望的な戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
「ワレ、操舵不能!ワレ、操舵不能!」
配下の艦艇が次々と打ち破られ、銀河に眩いばかりの花が咲き、そして命とともに散っていった。
そして最後に、血と炎にまみれた旗艦アレナリアが残ったのである。
ギルソニエルはよく指揮し、ボルデアンプも必死で操艦したが、いまにして思えば、アレナリアは敵軍に売られたのである。ボルデアンプは副艦長がいち早く脱出ポッドで敵陣に逃げ行くのを見ながら、苦々しい思いで歯噛みした。いかな名艦といえども数倍の敵の包囲網にかかれば、毒々しい、太った蜘蛛の巣にかかった美しき蝶である。
ボルデアンプの目は美しい星の園を背景に迫りくる敵艦どもを目に映していた。斯くなるうえは、いかに敵艦を引き付け、自爆するかであった。
ギルソニエルは地上への最期の交信を終え、すでに自害し果てている。
アレナリアの花言葉は『死』。
ボルデアンプはアレナリアの首に手をかけた。
………
この作品は『1200文字のスペースオペラ賞』に参加させていただきました。
読んでくださってありがとうございます。