てんかけ 或る男の述懐(※ネタバレ有)
※この記事はマーダーミステリー「天使のエルと時計じかけの国」のネタバレを含みます。
※二次創作です
ここはヨルの国。
暗闇に支配された、先の見えない国。
そしてこれは、その暗闇に一筋の光が差す物語。
わたくしは罪人
闇に包まれるこの世界にあって、なお深い闇をその身に宿す者。
許されざる罪を犯し、問われるべき罪を隠し、
それでも未だに生き永らえている。
『醜悪』
自身をその一言で表すより他になかった
真実を受け止めることすらできない弱いわたくしは、生家を逃げるように後にし、なんの因果かそこで救いを得てしまう。
なんと小さき指でわたくしに触れるのか
なんと穏やかな眼差しでこちらに微笑みかけるのか
頑是なき赤子であったあなた様は、目を瞠る速度ですくすくと成長なされた。
亡き王妃様にだんだんとその面影が近づいていくのを見守ることは、身に余る光栄と言う他ありません。しかしそれは同時に、残された時間が僅かであるのを示している
そんなことがあっていいのだろうか?
他の誰より尊きこの方が大人になることはなく、この国で最も罪深き自分がその何倍もの時間を生きている
ああ、この世界に神などいないのだろう
ならばわたくしが、その不条理に抗しよう
罪過に染まったこの手にも、まだできることがあったとは
その笑顔のためならどんなことでもいたしましょう
その歩みを止めぬために全てを捧げましょう
それがきっと、わたくしが生き続け、あなた様に巡り合えた意味であるでしょう
ですからどうか、笑っていてください
あなたらしい、陽の光を思わせるその笑顔で。
わたくしが望むものは、ただそれだけです
ここはヨルの国。
暗闇に支配された、終わりへと向かう国。
そしてこれは、その暗闇にひとつの光を見出した男の物語。