冬空
冬の空気に吐き出すタバコの白い吐息、
駅前のセブンで買ったコーヒー、
空っぽの心で見上げた曇り空、
あの頃を思い出す
今以上にまだ何者でもなかった頃。
頼れるのはお互いの虚勢だけで
社会に空虚なパンチを打ち込んでた。
毎日。
至らない心
やって来ないヒーロー
優しくも卑怯な大人たち。
なりたいものなんてなかった。
理想の大人なんてのもいなかった、
出会わなかった。
変わってしまった今
あそこから本当に道が続いているのかと思うほど。
少しならお金も手にしたし、
分別くさい顔をすることにも違和感を覚えなくなった。
あいつは元気でやってるかなって
消えていった人ばかりの中で
思い出す。
あの笑顔に
本当に心を動かされたっけ
真実なんて一つもなくてよかった。
君は違う誰かの元へと帰っていくと知っていたけれど
背伸びして吸ったタバコと
生ぬるいインスタントコーヒー。
あの朝は消えない。
心の中に浮かんでくる風景
ポロックの絵のように心像を映し出す。
あのニューヨークの美術館で見た絵のように。
ドリッピング画法、消えない傷、都会の喧騒、忘れられない風景、
言の葉、
消えていく記憶。
いつか全部忘れていくんだろうね、
そう言った横顔は寂しくなんかなかった。
今は生きれず、過去は忘れて、未来は見えない。
たぶんそうやって生きていくことだけを共有してた。
懐かしさが込み上げる。
それ以外には何にも。
田舎の駅舎を見ていると
帰る場所があったことを感じる。感じるだけ。
きっとこんな風景が頭か心か体の中の
きっとどこかにあったのだろう。
でも、詩人は緑色に染まって死にました。
熱く赤い血をその全身の内側に滾らせて。
いつかはきっと
真っ白のキャンバスに戻ることもできず、
思い出すことも忘れるんだろう。