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2022 魚座の言葉 杉本博司 ┃眼には見ることのできない精神を物質化する、アートという技術

占星術における12サインは、12か月の季節の移り変わりに照応し、その時期に感じやすい心のテーマがあります。心理占星術家nico (ニコ)が、古今東西の著名人の言葉から12サインそれぞれの象徴を見出し、心理的葛藤と成長を考察したエッセイ。

2022魚座期は、写真、現代美術、建築、執筆などジャンルの垣根を超えて活躍するアーティスト、杉本博司に注目。いわゆる占星術的な魚座解釈「美やロマン」という像から離れ、「悲観論者である魚座」だからこそ時間を超えた長期視点や知性がもてる、その源泉についての考察。

心理占星術家nicoが選んだ今月の言葉は...

人類史のなかで、アートはその時代時代の表現を模索して、来るべき時代を示唆する道しるべとなってきた。その意味では、どの時代においても、アートはその時代の現代美術であった。しかし、現代美術が常に来るべき時代の行く末を提示し得た時代は去った。私たちは今、後期資本主義社会の中で、地球規模での拡大再生産と高度経済成長という破滅のスパイラルの中に巻き込まれ、人間の欲望が制御不能であるという、人類史上の新局面を抑えている。

 人類史は折々の難局を乗り越えてきた。氷河期も、大洪水も、文明時代に入ってからは疫病や、革命や、戦争も。そして人類の想像力はその都度に発揮されて、一つの困難を乗り越えた暁には、より鋭利な知性が獲得されてきた。しかしこの期に及んで、人類の命運に関する報告書には、永続的な成長が不可能であることを示す、暗澹たる数字が羅列されている。しかし、さらに驚くべきことは、そんな数字を横目でちらりと見ながら、人類はそ知らぬ顔で、我が世の春を謳歌しているように見えることだ。
 
 人類の想像力はアートとして表現されてきた。今、読めない先を読むためには、ふりかえらなければならない時がきたのだ。人類の想像力を遡るためには、人間の意識の起源を辿らなければならない。アートが今できることは、思い出すことかもしれない、人が人となったころの記憶を。

 「アートの起源」展は、人類の精神史を辿る試みである。アートとは、技術のことである。眼には見ることのできない精神を物質化するための。アートは人類意識の文明開化の流れのうちに、それぞれが深く関わりあいながら分化していった。この展覧会では、便宜上、科学、建築、歴史、宗教、というテーマに分けて展示することとした。

杉本博司著「アートの起源」より

魚座の言葉


 今回は、言葉というより、長いテキストを引用した。このテキストを丁寧に読み込んでいただければ、魚座がもつうんざりするほどの予言的な能力も、魚座が切望するロマンも避けがたい不安も、マクロ的な視点や知性もすべて理解してもらえるだろう。私の解説など不要なくらいだ。

 魚座は、ある意味かなりの悲観論者である。未来の出来事に対し、最悪のシナリオまでも含めた悪い結果を予想し、ときに控えめに、ときに大げさに嘆く。

 精神科医、心理学者であるアドラーは、自ら築き上げた個人心理学について、「二重の意味で預言的である。何が起こるかを予言するだけではなく、それが起こることのないよう予言もするからである」と説明したが、彼が2012年に残した上記のテキストには、まさに、この二重の予言が書き記されているではないか。

 成長にも生産にも希望が見いだせない今、「新しい資本主義」を求め、さまよい続けている世界に向けて、杉本博司は、この時点で「何が起こるかを予言し、それが起こることのないように予言」もした。

今、読めない先を読むためには、ふりかえらなければならない時がきたのだ。

杉本博司著「アートの起源」より


 魚座は嘆く。そして、嘆くばかりではなく予言もする。そして、最悪から生まれる希望を求め、二重の予言の中で希望のための創造もする。

 杉本博司はこうも言う。

人間を取り巻くリアリティは限定されてしまった。私のアーティストとしての夢想は、現代という知識の枷を嵌められてしまったのだ。

私に唯一残された夢想の場は、今ではなく未来になってしまった。未来は確定されていないからだ。私はアーティストとして、最悪の未来を夢想する。そしてそれが私の心の楽しみとなってしまった。暗い未来が私の今を輝かせてくれるのだ。今、生きている喜びは、いつか来るであろう終末によって保証される。私は今ここに、私の想像しうる未来の姿について、最悪のシナリオを記す。

杉本博司著「アートの起源」より

 こうして、一つ前の柔軟サイン、楽観論者である火エレメントの射手座から歩みを進めた魚座は、最後の水エレメントとして、まずは、ひたすら悲観し続けることになるだろう。魚座的人々の多くは、もしかしたら悲観的なビジョンの中で人生の大半を過ごすことになるかもしれない。「読めない先の」何かよからぬ不安や恐れの中で、最悪のシナリオに圧倒され、身動きが取れなくなってしまうかもしれない。そして、やがてそのうち、もしかしたら、最悪のシナリオの中から、生み出すべき希望を見出したくなる日がくるだろう。

 その時、杉本博司の言葉を思い出してほしい。

 人間の意識の起源を辿らなければならない。アートが今できることは、思い出すことかもしれない、人が人となったころの記憶を。

杉本博司著「アートの起源」より

 数万年前の人と同じように水平線を眺め、石の感触を確かめ、自分の血の中にカンブリア紀につながる記憶を感じてみる。元居た場所に、自分の存在の在りかを探しだしてみる。そうしたら、もしかしたら私たちは「読めない先を読む」ことができ、それが起こることのないよう予言し、どんな形であれ、希望ある未来を作り出すことができるのかもしれないのだ。

 そのためにも、「眼には見ることのできない精神を物質化するため」にもやはり、まず補完関係にある乙女座・水星的な技術や知識を磨く必要があるだろう。

 2022年魚座期、私たちはどんな未来を読むことができるだろうか。その際、どんなに悲観的であったとしても、未来を予感し、今、自分の手にしている技術で、なんとか未来を物質化していかなければならない。私たちには、今こそ、アートという技術が必要なのだ。


杉本 博司
1948年2月23日東京生まれ。魚座に太陽をもつ。

写真家、現代美術作家、建築家、演出家。『海景』『劇場』『建築』などの代表作は世界有数の美術館に収蔵。『海景』のシリーズは「人類が最初に見た風景は海ではなかっただろうか」「海を最初に見た人間はどのように感じたか」「古代人の見た風景を現代人が同じように見ることは可能か」という問題提起を立てた作品である。2017年10月、約20年の歳月をかけて建設された文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープン。人類とアートの起源に立ち返り、世界、宇宙、自分の距離を図る場所として、「1万年後まで続く未来の遺跡」目指し、造られた。

wikipedia


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