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「違和感と愛する夫。」/ショートショートストーリー

「とにかく、怖い。自分じゃないみたいで。」

私は夫に自分の言葉がうまく伝わっているのかと心配になる。夫は私の顔を見ようともせず、ひたすらカルテに書き込んでいる。

私は今朝いつになく早い時間に目が覚めた。その時の自分への違和感が半端なかった。

「これは私の身体じゃない。」

私は恐怖でいっぱいだった。確かに私の身体なのに何かが違う。外見はかわっていない。でも、なんていうか細胞レベルで自分が変わってしまったという感覚がある。もう、元には戻れない。なにかが劇的に変化してしまった自分が怖い。

白衣を着た夫はやっと私の顔を見る。夫は私の主治医でもある。私の難病をなおすために新しい治療を研究している。

「大丈夫だよ。前回のときと数値は変わってないし。君は変わったと言うが私には変わったようには見えない。」

「だから、外側じゃなくて。なんていうか、細胞のひとつひとつが以前と違う感じなの。」

やはり私はおかしなことを言っているのだろうか。私の頭は難病の影響で、どうにかなってしまったのだろうか。夫の表情からは何も読み取れない。

「わかったよ。今日の薬出しておくから。それを飲んでゆっくり休みなさい。睡眠は大事だからね。」

私はもう一度反論したかったが、夫にもし頭がおかしいと思われたらどうなるのかと考えてみれば、今日は控えた方がよいのだろう。明日も違和感があったら、その時は納得するまで話してみよう。私のことを誰より大事にしてくれるのだから、わかってくれるに違いない。


彼女もだめだった。うまく身体になじめないのか。人間に限りなく近い人工生命体を創るために試しに亡くなった妻の遺伝子を注入しているのだが。たくさんの試作品が、妻とは違う顔が妻と同じ口調で言う。自分の身体じゃないようで怖いと。今回も廃棄するしかない。次の試作品を起動させよう。


私は部屋に戻って薬を飲んだ。明日はもとに戻っていることを願って。夫があんなに心配してくれているんのだもの。早く元気にならなくては。


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