「夜のお客様。③じいちゃんのうれし涙。」ショートストーリー
私の結婚式の日が近づいてきた。準備は万端だ。私の場合は大和が婿養子にはいってくれるので嫁ならぬ婿を迎える立場だけど。
大学の友達は、ダブルどころじゃない。トリプルでありえない。冗談もほどほどにしてと婚約の話を連絡したときに言っていたけど。事実だから仕方ない。結婚式の招待状が届いたはずだから納得しただろう。
とにかく、うちの家族は大喜びだ。そりゃそうだ。大学卒業しても戻らないで就職すると宣言していたのだもの。それが、実家のコンビニに就職するわ。結婚相手も故郷でみつけるわ。その相手がお堅い(と思われる)交番のおまわりさん。そして、なんと婿養子なんてうちの家族どころか私でさえも想像していなかった展開である。
大喜びの家族の中でも、やはりじいちゃんは特に喜んでくれた。私とじいちゃんの間には「夜のお客さん」という、とても強い絆があるからだと思う。じいちゃんは、本当にいつもニコニコしている。そのじいちゃんは私が大和と結婚すると報告したときだけは嬉しさのあまり、泣きだした。私は、泣いているじいちゃんをはじめて見たような気がする。
神様仏様のようなと私が思っているじいちゃんの涙は、それはそれはきれいだった。うちの町の夜空の輝いているどんな星よりも。
「有紀。じいちゃんは嬉しい。有紀がうちのお店を手伝ってくれた時も、学校でて、ここへ戻ってきてくれた時も嬉しかったけどな。今が一番嬉しいな。」
「じいちゃん。ありがとう。じいちゃんのおかげだと思う。」
私も泣いていた。私はじいちゃん子だから、じいちゃんが大好きなのだ。
「有紀。じいちゃんじゃなくて夜のお客さんのおかげだ。」
じいちゃんがお店の床に落とした涙は、大和が贈ってくれた婚約指輪のダイヤとそっくりだ。あとで、いつものように念入りに清掃しよう。お客さんが転んだりしてはいけないから。
じいちゃんの涙は、お店の床にキラキラしながら転がっていく。