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バレンタイン㊙︎大作戦!!

わたしは、お財布の中身と陳列棚に並ぶチョコレート達とを何度も何度も交互に見ながら、ずっと悩んでいた。わたしのカエルのガマブチに入っているのは、784円。

「ああ、りぼん買っちゃったからなぁ」と後悔しつつ、あっ! りぼんに手作りチョコのレシピが載っていたんだった。それに、今月の付録は、あーみんデザインのバレンタインチョコ用ラッピングシートだったんだっけ。

「この700円のチョコじゃ勝てない...。かと言って、わたしの手作りじゃ、雅哉くん、お腹壊しちゃうかも...」わたしは、去年のバレンタインを思い出していた。去年、兄に手作りチョコをあげた時のこと。

兄は恐る恐るラッピングを開け、わたしの顔を伺いつつ、薄笑いを浮かべて、それを口に運んだのだった。しかし、「おまえ、これ、硬くてかみきれねぇーよ!!」と。「石かよ! これ!!」と。「飴みたいに舐めてればいいのよ」と母。「おまえ、どうやったらこんな岩石みたいなチョコ作れるんだよ!」と兄は、わたしに罵詈雑言浴びせかけ放題。

そんな苦いチョコ作りの思い出。

チョコを買っても作っても、わたしは、あの子達に勝てない。

わたしは、毎休み時間に、1組の廊下で、雅哉くんを神輿のように崇め奉っている女子達の姿を思い浮かべては、大きな溜め息をついていた。


休み時間に、早苗先生に群がって、チョコの相談をしている女子達に、早苗先生は、「みんな、ドイツっていう国知ってる? ドイツでは、バレンタインの日、男性から女性にチョコレートや花束などのプレゼントを贈って、愛の告白をするんだって」と、とても耳寄りな情報を与えていた。「すてき〜!!」女子達からは、深い溜め息混じりの歓声が上がった。

「チョコくれ〜、チョコくれ〜」わたしはふざけて佐伯くんを追い回した。廊下まで追いかけていくと、わたしは、ニヤッとして、「あんたさ、早苗先生に恋してるでしょ?」と佐伯くんに耳打ちした。佐伯くんは固まってしまった。

「なんの内緒ばなし?」振り向くと、そこには雅哉くんが!! 「斉藤雪さんは、チョコが好きなの?」雅哉くんは、ニコニコして言っている。わたしは固まってしまった。

わたしの呪いが解けた佐伯くんが、「じゃっ、俺はトイレ行ってくるわ」と言って、わたしは、雅哉くんと廊下に二人きりになってしまった。胸がドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ?!

今日は珍しく、雅哉くんファンクラブの女子達がいない。なぜだ? そうか、バレンタイン前だから、みんなライバル心でメラメラで、いまは団結出来ないのか。バレンタインは個人プレーだもの。わたしは勝手にそう考えた。

「斉藤雪さんて、ラーメン好きなの?」「へ?」「僕も、あんなおいしいラーメン作れたらいいのだけど...」雅哉くんは、頭をかきかき話していた。「斉藤雪さんて、花が好きなの?」「うん? たぶん?」わたしは、雅哉くんがなんでそんな質問ばかりしてくるのか分からず、戸惑いながら頷いた。すると、雅哉くんは満面の笑みで「やっぱりそうか!!」と手を叩くと、「じゃあね!」と手を振り、1組に戻って行った。

「うまくいった?」佐伯くんがニヤニヤしながら近付いてきた。「チャック開いてるよ!!」「ぎゃあ?!」「うっそー!!」キンコーンカンコーンとチャイムが鳴った。


バレンタイン当日、わたしはトイレで唸っていた。「うー、うーん、うー」結局、雅哉くんへのチョコは用意できず。昨夜、作ってはみたものの、去年より更に硬く仕上がったものが、今朝冷蔵庫の中で。「おまえ!! 早くしろよ!! いつまでたてこもってんだよ!!」ドアの外で兄がキレていた。

今日が早く過ぎることを、わたしは神に祈っていた。だって、雅哉くんが女の子達にチョコ貰って、デレデレしてる姿なんか見たくないもの。

佐伯くんは、朝からニコニコご機嫌だった。「あんた、まさか、早苗先生からチョコもらえるとでも思っているのかい?」わたしが不機嫌マックスな顔で佐伯くんを見ると、佐伯くんは、「えへへっ」と頭をかいた。なんと、ポジティブな性格なんだろうか?!

しかし!! 佐伯くんの願いは、信じられないことに叶ってしまったのだ!! 早苗先生は、帰りの会で、みんなにチョコを配った。もちろん女の子達にも! わたしは嬉しくって、貰ったチョコを何度も何度も抱きしめた。だって、すごーく美味しそうだったから。隣の佐伯くんは、顔の緩みが止まらないようだった。「やめなよ! その顔!」と言っても、止まらず。

放課後、そっと1組に行ってみた。教室にはもう誰もいなくて。

わたしは、1組の廊下の掲示板を見上げた。雅哉くんの今週の詩は?

『ショコラーデ                           大木雅哉

僕が死んだら、神様になって、君の願いを叶えてあげたい

僕は空から君を見ていて、君が大好きな雪をたくさん降らすよ

それに、君が大好きなラーメンも

君が大好きなお兄さんも、たくさんたくさん降らしてあげる

チョコの雨も、たくさんの花束も

君の願いを全部叶えてあげたい』


わたしは胸がズキンと痛んだ。

雅哉くん...。お兄ちゃんがたくさん降って来たら、わたし、嫌だよ。それに、ラーメンだって、空から降って来たら、アチチチッ!!てなって大変だから。それに...

続く

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