ダメだダメだダメだ。
『 梅 斉藤雪
梅は咲くといい香り
梅の木に顔を近づけて目をつぶって匂いをかいだ
まるで、わたしの顔をなでてくれたようないい香り
だけどわたしは、梅が咲き終わった後に、梅の実がなるのを見たことがない
梅が咲き終わったら、実がなるまで待っていよう
そして、梅干しにして食べよう』
「おまえ、随分と花に執着してんなぁ。そんなに花好きだったっけ?」兄が後ろから、わたしの書いた詩を覗き込むようにして言った。わたしは、ジロリと兄を見上げると、「お兄ちゃんさ、ランドセルの子に、『芸能人は歯が命』って言った?」と聞いた。
兄は、きょとんとした顔をしていたけれど、そのうち思い出したのか、「言った! 言った! なに、おまえ! あいつと知り合い?」と言って手を叩いて笑った。「なによ! 芸能人は歯が命って?!」わたしは、兄に食ってかかった。兄は驚いたようにわたしを見ながら、「しらねぇよ! 昔の一発屋芸人のギャグかなんかじゃないの?」と言った。「おまえ泣いてんのか?」兄がポツリと言った。「おまえ、、、この詩いいよ」兄はポツリと褒めてくれた。
朝から一言も喋らないわたしを、佐伯くんはヤキモキしながら見ていた。時々目が合うと、ニカッと胡散臭い笑顔をしてきた。わたしが大きく溜め息をつくと、佐伯くんも溜め息をついた。
しびれを切らしたのか、業間休みに佐伯くんの方から話しかけてきた。「なぁ、なんだか、なんでそんなに怒ってんだかよく分からないんだけどさ、、、もっとポジティブに考えようぜ!」佐伯くんは、言葉の割に、ネガティブな表情でわたしの様子を伺っていた。
そして、「雅哉さ、あの後、俺と2人になったら、頭抱えてうずくまっちゃったんだぜ。ダメだダメだダメだってエンドレスに言い続けてたんだぜ、あいつ、、、」と佐伯くんがボソボソ言った。
「そういう意味じゃない」って雅哉くんは言うけど、「もっとポジティブに考えようぜ」って佐伯くんは言うけど、あの雅哉くんの詩を、どうそういう意味じゃなく考えたら、そういう意味じゃなく思えるのだろうか。どうポジティブに考えたら、ポジティブな詩に思えるのだろうか。だってあの詩は、明らかにわたしの兄のことを。。
それに、ビンビンらーめんのことをああやって言われたら、わたしの大切な思い出全てをけなされた気持ちになった。ビンビンらーめんは、わたし達家族が、この町で再出発した日に行った大切な思い出の店なんだ。
悲しい思い出も楽しい思い出も、すべて飲み込んで、3人でビンビンのラーメン食べてたら、美味しくて涙が出たんだ。「これから3人で頑張ろうね」って母が、わたしと兄のラーメン皿に、チャーシュー1枚ずつ分けてくれて。「いいよ、いいよ、これはお母ちゃんのチャーシューなんだから!」「いいのよ、いいのよ、これから大きくなる子達が食べなさい」って3人でチャーシューあげたり、戻したりしていたら、ビンビンのおやじさんが、「サービスだよ!」って餃子を出してくれて、3人でちょうど2つずつ。すっごく美味しかったんだ。
確かに、ビンビンらーめんは、外観も店内も古びてはいるけれど。。。
だけど、なぜ、雅哉くんは、ビンビンらーめんに行ったのだろう?
続く
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