わたしを愛して! の巻
烏天狗は踊り続けた。
「ヨコヨコ、タテタテ、ヨコヨコ、タテタテ」
しかし、
「なんか、面白いっすね!」
玲奈は、おかわりしたカレーを食べながら、楽しそうに、烏天狗のヘンテコな踊りを見ていた。
烏天狗の踊りが止まった。そして、烏天狗は、月浜可憐の耳元で囁いた。
月浜可憐の顔が曇った。
「分かったわっ! じゃああっ! 次は、悪霊退散踊りじゃなくてぇ... 良い霊出てこい体操してみるわん!!」
烏天狗は、キュートな仕草で言うと、今度は、
「タテタテ、ヨコヨコ、グルっと回って、アヒルさんっ! はいっ! アヒル、カエル、マントヒヒ!」
と元気に体操を始めた。
しかし、
「なんか、ラッキィ池田みたいっすね! 頭になんか乗っかってるし!」
と、玲奈はばかウケしている。
烏天狗は体操をやめた。そして、また、月浜可憐の耳元でコソコソ話をしている。
「え?! 生霊?!」
月浜可憐が素っ頓狂な声をあげた。
月浜可憐と烏天狗は、玲奈をマジマジと見た。そして、
「あんた! 尻出しな!!」
と言い、月浜可憐は、いきなり玲奈の尻を、素手でパンパン叩きだした。
「痛いっ! 痛いっ! やめてよ!」
「あらあら! 可憐ちゃん! そんなに強く叩いたら、玲奈ちゃんがかわいそうよぉ〜」
烏天狗はオロオロしている。
「い、生霊なんかに取り憑かれたら、大変なことになる!!生霊の力は強い!! 玲奈など、簡単に乗っ取られてしまう!!」
そう言いながら、月浜可憐は、玲奈の尻を叩き続けた。
「痛いよー?! ばあちゃん、やめてよ!!」
「そうよぉ〜、玲奈ちゃんだって、口で言えば分かるんだからぁ!」
烏天狗は、月浜可憐を止めようとした。
「ん? 玲奈かい?」
月浜可憐の手が止まった。
「そうだよぉ〜、わたし、なんにも悪いことしてないのにぃ〜」
わたしは、お尻をさすりさすり立ち上がった。
「玲奈ぁぁぁっ!!」
月浜可憐は、わたしに抱きついて泣いていた。
「どうしたの? ばあちゃん?」
「どうしたもこうしたも〜」
烏天狗が涙を拭っていた。
「いいか、玲奈! これを飲むんじゃ!!」
わたしの前に置かれたのは、オロナミンCにリポビタンDにチョコラBBにタフマンスーパーに鹿児島の黒酢ニンニクに、酵素ドリンク。
「こんなに飲んだら、鼻血が出るよ〜!!」
「何を言っとるか!! おまえは、生霊に取り憑かれているのじゃぞ!! おまえの体力は確実に落ちている。ちゃんと栄養摂って、体力つけんと、生霊に身体を乗っ取られてしまうぞよ!!」
月浜可憐は、そう言いながら、わたしの目の前に鰻丼をドーンと置いた。
「いやんっ!! エッチ!!」
烏天狗がマイッチングポーズをした。
「鰻丼は食べるけどさぁ...」
「しっかり食べれ!! ほれ!! 卵に、蜂の子焼酎も!! ヘビの生き血もあるぞよ!!」
「いやだよ〜!!」
「好き嫌い言うんじゃありませんっ!!!」
わたしが鰻丼を食べ終えると、ゆっくり休むようにと、月浜可憐と烏天狗は帰って行った。
「わたしの中に雅哉さんがいる?」
月浜可憐が言うには、彼は自分が生霊だという自覚もなく、わたしの中にいるらしい。
きっと、彼には、わたしを取り殺すつもりも、わたしの身体を乗っ取るつもりもない。
たぶん、彼は、なぜ自分が生霊になってしまったのかということさえ、分かっていないのかもしれない。
けれど、彼がわたしに取り憑いている限り、わたしの体力は、間違いなく、どんどん落ちていき、最後には...
「わたしはもう、雅哉さんに会えないの?」
わたしは、胸に手を置き、目を閉じた。
彼に抱きしめられ、肌に触れられたことを想像した。中心が強く疼いた。
「わたしを愛して! 」
つづく