今年最初の雪
明日は雪が降る。テレビの天気予報にかじりついているわたしを見て、母も兄も、犬みたいだと笑っていた。わたしは、雪が大好きだ。自分の名前だからってのもあるかもしれないけれど、何より、雪が降れば、雪だるまを作れるし、雪合戦が出来るし、とにかく雪の日は最高に楽しいのだ!
朝の会で、早苗先生が、「今日は、今年最初の雪が降りますね。みなさん、これから気温が下がってくるから、暖かい格好をしてください」と言った。大丈夫、大丈夫! 今日は、久々にくまモンのセーターにタイツに、手袋にマフラー、耳当てもあるし、バッチリ!!
朝の天気予報では、雪が降るのはお昼頃からとのこと。窓の外は、まだまだぜんぜん晴れているけれど。。「雪ちゃん、雪ちゃん」何回か呼ばれたような気がした。「おいっ!!」肩を叩かれた。振り向くと、佐伯くんが鉛筆で前を指している。ハッとして前を向くと、「雪ちゃん、雪が楽しみなのは分かりますが、授業を聞きましょう」早苗先生が言うと、クラスのみんなが、どっと笑った。
給食が終わっても、雪は降って来ない。お昼休みにSケンやりながら、空を見上げても、青空に太陽。
5時間目は、ほとんど授業に身が入らず。6時間目はイライラの限界。
帰りの会が終わると、わたしは一気に校庭に飛び出して行き、メリーウェーブでグルグル回って、飛び降りて、空に向かって叫んだ。
「この嘘つきやろー!! 雪降らないじゃないかよー!!」
プリプリしながら家に帰ると、リビングに昭子さんがいた。昭子さんは、わたしに駆け寄り、「この間はごめんね」と、わたしの手にペットボトルのコーラを渡してきた。「ぜんぜん気にしてないよ! まだコーラ、冷蔵庫にあったし」わたしが笑いながら言うと、「いや、そっちのことじゃなくてさ」と、昭子さんはモジモジしながら、ソファに座る兄を見て、キッチンにいる母を見て、「ちょっと来て!!」と、わたしの腕を掴んで、わたしを近くの公園へ連れて行った。
「雪降らないなぁ...」わたしは、夜空に手を振った。早く降ってこい! 雪!
昭子さんは、ジャングルジムにもたれ掛かりながら、「あんなこと言ってごめんね。雪ちゃんにとっては、大事な家族だもんね。お母さんと海斗は」と元気なく話し出した。ああ、昭子さん、あのこと気にしてるんだ。海斗兄ちゃんをシスコンとかマザコンて言ったことを。
「あの日、わたしの誕生日で、海斗とデートの約束してたの。だけど、海斗、当日になって急に行けなくなったって電話してきてさ。妹がいま大変だからって」昭子さんの言葉に、わたしは驚いていた。あの日、授業公開の日、兄が来たのは、母に頼まれたからだと兄は言っていた。だけど、本当は、雅哉くんのことで、落ち込んでたわたしを心配して様子を見に来てくれたんだ。
「わたし、海斗にも酷いことたくさん言っちゃったの。本当はすごくすごく好きなのに」昭子さんは、左手の薬指にある指輪を右手でなでながら話していた。兄が、あの日、デパートにわたしを付き合わせて、女の子に人気のアクセサリーショップで買ったものだ。最初、兄は恥ずかしがっちゃって、わたしにレジに行かせようとしてたんだけど、わたしが断固拒否。自分で行けっ!と、わたしは兄をレジに突き出した。あの指輪は、昭子さんがずっと欲しがってた指輪なんだって。
「海斗のことが好きなのに、海斗はいつも素っ気ない態度ばかりで、何考えてるか分からないし。わたしのこと、本当は好きじゃないのかな? とか考えると、不安になってきて。こんなわたしの気持ちを分かってくれない海斗のことが憎くなってきて、傷つけたくなってきて...」昭子さんは、指輪をぎゅっと抱きしめた。
「好きなのに、傷つけたくなるの?」わたしは、首を傾げた。昭子さんは、少し微笑んで言った。「そうよ。その人のことを好きになればなるほど、その人には、自分だけを見て欲しいって、その人にとって自分だけが特別な存在でありたいって思っちゃうの」昭子さんはちょっと恥ずかしそうに頭をかいた。
「だから、それが叶わないと、どうしてだよー!! って思って、相手が傷つくこと言いたくなっちゃうし、わたしと妹どっちが大事なのよー!!ってね、海斗のこと、困らせたくなっちゃうの。そんなの選べるわけないのにね」昭子さんは少し泣いていた。
わたしは黙って、昭子さんを見ていた。本当に綺麗なお姉さん。こんなに綺麗な人なのに、自分のことをさらけ出して、ライバル心むき出しで、わたしに向かって来たんだ。わたしに海斗兄ちゃんを取られたくないって思って、必死な顔して怒ってたんだ。
なんか、かわいい人だな。昭子さんて。本当に、海斗兄ちゃんのことを愛してるんだ。人を好きになるって、綺麗な気持ちも醜い気持ちも、どっちもたくさん現れてくるってことなんだね。本気でその人のことが好きだから。
わたしは、ぶるっと身震いした。昭子さんが、「ちょっと寒くなってきたね、もうおうちに戻ろう」と言った。その時、暗い空からハラハラと白いものが。
「雪が降って来た!! やったー!!」
続く
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