夢の巻
目覚めると、そこは明るかった。
わたしは、硬いベッドで、黒いシーツに包まれていた。
シャッシャッシャッと音がする。
大きな背中。黒革のベストからむき出す、筋肉隆々の太い腕。
「雅哉さん?」
大きな背中が振り向いた。後光が差していた。まるでお釈迦様が、ヘビメタバンドのボーカルになったようなお顔。
「起きた?」
「ハッ?!」わたしは起き上がり、自分の身体を確認した。ズボンは履いている。もちろん、その下にパンツも履いてて、靴下も。ブラは? している。ブラウスは...第1ボタンまで閉まっている。
「あれ?」
確か、わたしは、雲坂雅哉から唇にキスされて、首筋にキスされて...?
「気絶しちゃうんだもの」
雲坂雅哉は笑った。
「き、気絶した?!」「そう! 気絶しちゃったの! 玲奈ちゃん」
雲坂雅哉は、そう言うと、「ぶっ!ふぅ〜!!」と吹き出し、腹を抱えて笑い出した。わたしの気絶シーンが、相当ツボだったらしく、雲坂雅哉は、しばらく涙を流して大ウケ。
5分くらいすると、ようやく落ち着いてきて、でもちょっとまだ笑いを引きづりながら、彫刻刀で、何かを彫り始めた。
「こっ?! これは?!」
わたしは、悲鳴に近い声をあげた。
「え?」
雲坂雅哉の部屋に何体も置かれた木彫りの生きもの達の中に、わたしがっ?!
「わ、わわわ、わたしが気絶している間に、脱がしたのね!!!」
わたしは、ベッドから飛び上がると、「いやあああああっ!!」と叫び、両手で顔を覆って、床に砕け落ちた。
「え? これ? 違うよ! 玲奈ちゃん!」
雲坂雅哉が、わたしの肩を抱いてきた。
「いやいやいやいや!! 雅哉さんなんて、大っ嫌い!!!」
わたしは、両手で顔を覆ったまま、いやいやをした。雲坂雅哉は、わたしが気絶している間に、服を脱がして、全裸にしたんだわ。いやいや、恥ずかしい。寝ている間に、いったい、わたしに何をしたのよっ!!
まあるい頬っぺたに、膨らんだはんぺんみたいな胸。ポンポコポコポンといい音がしそうな、まあるいお腹に、ふくよかなお尻。
そっくり?! 瓜二つ?! うますぎるよっ?! すんげぇ〜リアルだよっ?!
あんたは、ホンモノの生きもの彫刻家だよ〜!!
「うおぉぉーーーっっっ!!」
「だから、違うって、玲奈ちゃん! これは、たぬきっ!!」
「え?」
わたしのいやいやが止まった。
「これは、たぬきだよ!」
「た、たぬき?」
「そう、たぬき。ほら! ここにあるだろ!」
雲坂雅哉の指差す方向には、たんたんたぬきのナンチャララが?! これは、たぬきの彫刻。
目が点。
「そんな気絶したレディを襲うなんて、そんな下品な男、そうはいないでしょ? あれ? どっかにいたっけ?」雲坂雅哉は、天井を見て考えていた。
「いやだ、わたしったら、大騒ぎしちゃって恥ずかしいわ」わたしは、熱くなる両頬を押さえた。熱い。恥ずかしい。
「それに、なんで、玲奈ちゃんはそうなんだろう? 自分をこんなたぬきと間違えるだなんて。玲奈ちゃんは、こんなに素敵でかわいいのに! なんで、そんなに自分を卑下するんだ! コラッ!」雲坂雅哉は、そう優しい声で言いながら、わたしのたこ焼きみたいなホッペを、指でスリスリした。
「大好き。雅哉さん」
それから毎晩、雲坂雅哉は、チェーンソーで壁をぶち破いて、わたしの部屋に夜這いに来た。
寝ているわたしにキスをして、キャミソールの紐を肩から腕へ下げて...
だけど、そこまでは分かってる。だけど、その先が思い出せない。
そこまでなのか? いつも。いつも、一つになる寸前で、記憶はなくなる。
チェーンソーで開けた壁の穴も、朝にはきれいに、跡形もなく、消えている。
雲坂雅哉が、わたしを愛しているのは、夢?
ただの夢なの?
つづく