返事がこないの。
大木雅哉くんに、わたしからの手紙は、もう届いているはずなのに、返事が全くこないの。
わたしは、今日も1組の廊下で、女子達に揉みくちゃにされている雅哉くんを、遠目から恨めしそうに見ながら、わたしの隣に立つ佐伯くんの左足を、グリグリと踏みつけていた。
チャイムが鳴り、わたしが教室に入ろうとすると、佐伯くんも一緒に入ろうとしてきた。なにをふざけているのかと、「なにやってんのよ! ここは4組だよ!」と冷たく言い放った。すると佐伯くんは、「俺は4組だよ!!」と怒った。
え?! 同じクラスだったっけ? すると、佐伯くんは、わたしの席の隣に座った。不思議そうに見ていると、「3学期から、ここの席ですぅ!」と佐伯くんが顎を突き出して言った。「おまえ、周りぜんぜん見てないのなっ!」
担任の早苗先生が、「今日は教科書の内容はやりません」と、みんなに国語の教科書をしまうように言い、原稿用紙を配り出した。そして、「今日から卒業式まで、みなさんには1週間単位で詩を書いてもらいます。テーマは自由。詩は廊下に貼り出します。そして、卒業式の日、詩集にして、みんなに渡します」と早苗先生は教室全体を見回しながら言った。「ええええっ?!」みんなの悲鳴が上がった。
わたしは頭を抱えた。わたしの一番苦手な分野だ。あっ!そうだ!お兄ちゃんに手伝ってもらえばいいんだ!!とニコニコしながら前を見ると、早苗先生がニコニコして、「誰かに手伝ってもらったりしてはダメですよ。自分の言葉を書いてください!ねー!雪ちゃん!」と言った。わたしはまた頭を抱えてしまった。
休み時間になっても頭を抱え続けていたわたしのところに、萌ちゃんと咲ちゃんがやってきて、「雪ちゃんさ、Sケンの時さ、最近力入ってないよね」「あ、やっぱ咲ちゃんもそう思ってた?わたしも最近、雪ちゃんどうしたのかな?って。いつもの雪ちゃんじゃないなって」と話し出した。
そこに口出してきたのが鈴木くんと遠藤くんで、遠藤くんは「なんかよぉ、斉藤さんさ、ドッヂボールも最近手抜いてる感じしない?」と後ろの席の鈴木くんに振り向き、その鈴木くんは「ドロケイの時だってそうだよ!」と同意していた。
わたしはうつむきながら、隣の佐伯くんを見た。佐伯くんはニヤニヤしながら4人の話を聞いていた。けれど、わたしと目が合った瞬間、引きつった笑顔になり、そのままそそくさと廊下へ出て行ってしまった。
「そんな怖い顔しないのよー、雪ちゃん」萌ちゃんが言った。「なんか悩み事があるなら、わたしら聞くから」そう言って、咲ちゃんがわたしの肩に手を置いた。
そうなのだ。わたしは最近、業間休みも昼休みも、遊びに身が入らないのだ。なぜなら、雅哉くんが見てると思うと、Sケンも、何人も突き飛ばして、敵の陣地に入り込むなんて、そんな下品なことは出来やしないのだ。
ドロケイだって、捕まえた泥棒役の男子のパーカーを引っ張って、引きづり倒すことなんて、もう出来ない。ドッヂボールだって、すごい形相で、豪速球を投げるなんてもう、そんなこと出来やしないのよ!! だって、雅哉くんが、あの6年1組の窓から、わたしを見ているかもしれないのだから。
それに、メリーウェーブだって。。
くまモンの青いセーターもオレンジ色のタイツも着れなくなった。雅哉くんのせいで! 雅哉くんが、わたしのことを見てるなんて言ったから! 雅哉くんが、わたしを絵に描いたりしたから!
わたしがわたしでなくなっちゃった。
どうして手紙の返事をくれないの? 本当は、雅哉くんは、わたしのことなんて、ちっとも好きじゃなくて、ただのわたしの勘違いだったのかも? わたしのおめでたい早とちり?
メリーウェーブやるもん! 雅哉くんなんか嫌いだもん! わたしは、久々に、放課後、メリーウェーブをやった。ビュンビュン回った。わたしの頭の中にいる笑顔の雅哉くんが消え去るように、激しくビュンビュン回った。
そうしたら、なんか気持ち悪くなってきちゃって。。ふと、6年1組の方を見上げた。そして、わたしは、思いっきり、あっかんべーっ!! をした。
続く
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