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わたしはシャーマン? の巻

わたしの死んだはずの祖母が、占い師の月浜可憐として、いきなりわたしの目の前に現れたのが、いまから三年前。

月浜可憐は、横浜中華街の母として生きていた。

代々続く山梨系シャーマン家系に生まれたらしいわたし。

月浜可憐に再会したその日から、わたしのシャーマン修行が始まった。


「まずは、高尾山の役牛角禅師を訪ねなさい。そして、通信教育で、あたしの講座を受けて、月に一回はスクーリング」

月浜可憐は、テーブルに教材を並べた。『降霊術入門』『ドイツ魔女に学ぶ 恋のおまじない入門編』『一度は行きたい恐山』『決定版 死後の世界』『山伏入門』『シャーマン向け 生命の不思議』『中国四千年 健康茶ソムリエになるために』『初心者でも簡単 薬草・アロマ・呪術入門』『京都 安倍晴明神社に行ってみよう』『山梨 歴史紀行』『みんな大好き ほうとうレシピ』『温泉ソムリエがゆく 山梨 信玄の隠し湯巡り』

「こんなに?!」わたしは、あまりの教科書の多さと分厚さに悲鳴をあげた。

「まだまだあるぞよ! とりあえずは、5級からじゃ!」「なに?! 5級て?!」「山梨系シャーマン検定5級!」

月浜可憐は、満足そうに教科書を揃えると紙袋に入れ、渡してきた。

「山梨系とか言ってさ、ばあちゃん、栃木出身じゃん!!」まだまだ疑心暗鬼なわたしは、月浜可憐に食ってかかった。

「あたしらは、分家ズラ」「え? ズ、ラ?」

「そう、分家ズラ。あの武田家滅亡の折に、あたしら月浜家は、全国に散り散りになった。それまでは、武田家専属の陰陽師として仕えていたのじゃ」

月浜可憐は、得意げに言った。

「うそくさっ!!」

月浜可憐は、悲しげな表情でわたしを見ると、「恵子も、そう言った。そう言って、あたしを精神病院に連れて行った。精神病院では、デパスとリスパダールとナンチャラとかいう薬が処方された...あのバカ娘め...」と言い、目をショボショボさせた。

「分かったよ! 信じるよ!」

ハルカが、わたしの袖を引っ張って、「も、もう帰ろうよ。わたし、なんだか不気味で」と耳打ちした。


帰りがけ、月浜可憐は、「よいか! 玲奈の運命の人は、隣にいる! それを忘れるでないぞ! はい、千円ポッキリ!」と、手を出してきた。

「孫から金取るのかよ!」「こっちも、商売ズラ!」


高尾のマンションに辿り着くと、隣の部屋の玄関が開いていた。玄関に荷物がビッシリ。腕時計を見ると、23時をとうに過ぎている。

「こんな時間に引っ越し? バカじゃないの?」わたしは、独り言を言いながら、自分の部屋の玄関に鍵を差した。すると、

「ちわっす! ちわっす! どうも! はじめましてです!」と言う声が、夜の高尾の町に響いた。びっくりして横を見ると、

「どうも!」

背の高いイケメンが立っていた。頭は金髪を水爆させ、顔はケバい化粧。服装は、上は黒革のノースリーブベスト、右肩から腕にかけてはタトゥー。下はピチピチの黒革のパンツに黒い革靴。腰にジャラジャラ巻いていて、背中にはギター? まさにビジュアル系バンドのメンバー風な装い。

わたしの時間が止まった。

「どうもですぅ!」イケメンバンドメンバーは、わたしの顔の前で、手をワイパーした。「ハッ!」と、わたしは我に返り、

「そ、それは、ギターですか?」と、イケメンバンドメンバーが背中に背負ってるモノを指差した。

イケメンバンドメンバーは、ニッコリして、「ああ、これは、チェーンソーですよ!」と言い、チェーンソーのスイッチを入れてみせた。

ブィィィ〜ン!! ブィィ!! ブィィィ〜ン!!

真夜中の高尾の町に、奇怪な音が鳴り響いた。

「オレ、彫り師なんで!」イケメンバンドメンバーは、白い歯をキランとして見せた。「刺青の?!」わたしが聞くと、イケメンバンドメンバーは笑って、「チェーンソーで入れ墨したら、死んじゃうよ」と言い、その場でお腹を抱えて、笑い転げた。ツボに入ったようだった。

しばらく、イケメンバンドメンバーは一人で爆笑し続けていたが、五分も経つと立ち直り、「木彫りやってんです!」と言った。「ああ、彫刻家ね」「そうそう」

「あ、よろしく! オレの名前は、雲坂雅哉!」イケメンバンドメンバーが手のひらを出してきた。おそらくは、握手を求めているのだろう。笑顔が眩しすぎた。

「マジ、タイプ...」「え?」


つづく

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