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わたしのことが好きな人。

わたしの最近の悩みは、わたしの彼のこと。

わたしの文通相手でもあり、わたしの彼氏でもある6年1組の大木雅哉は、学年一のモテ男。

そんなモテ男に、なぜ、こんなわたしが近づけたかって? それは、わたしにとってもとても不思議な夢のような出来事だった。

あれは確か、校内美術展の日。わたしは、6年1組の廊下で女子が群がるのを、遠目から冷ややかに見ていた。

どーせ、あれでしょ? 大木くんの絵を見て、女子達みんな騒いでるんでしょ? あ?! あの子何やってんの? 学校にスマホ持ってきていいわけ? 大木くんの絵の前で記念写真かよ。 ケッ!! 全くどいつもこいつも。

そう思いながら、下校の放送がかかるのを、わたしは辛抱強く待っていた。ところが、下校の放送より早く、1組の担任の島田先生が、きゃーきゃー騒ぐ女子達を昇降口へと誘導してくれ、6年のクラスが並ぶC棟3階は、さっきの黄色い雑音が嘘のように、静かに。

4組の教壇机の下から、そろりと立ち上がったわたしは、抜き足差し足忍び足で1組の廊下まで、息もせずに歩いて行った。その時のわたしの心臓の高鳴りと言ったらもう! なにか悪いことをしているような後ろめたさと、好きな男の子の絵を見ることが出来る夢心地とで、わたしはもう、さっき食べた給食の全てを吐き出しそうだった。

見上げた視線の先にあったのは、一人の女の子が、校庭の遊具で遊ぶ姿。この学校で最も危険と言われ、来年春には撤去予定の『メリーウェーブ』につかまって、ビュンビュン激しく回っている女の子。え? これってわたし?

くまモンの青いセーターに赤と黒のチェック柄のミニキュロットスカートにオレンジ色の毛糸のタイツ。そして、ヒョウ柄の耳当て。このセンスの悪い格好をした女の子は、わたししかいないのだ。

このセーターとタイツは、うちのお母ちゃんの手編みで、わたしがくまモン好きだからと、クリスマスにプレゼントしてくれた。しばらくは恥ずかしくて、タンスの肥やしにしていたが、日に日に寂しそうな表情でアピールするお母ちゃんを見ていたら、4組の男子のからかいなど、ぶっ飛ばして蹴散らしてしまえ! と腹をくくれた。学校に着て行ってみたら、案外みんな素通り。誰もわたしの服装など気にもとめてはいないようだった。

くまモンセーターは暖かくて、寒空でも外でわんぱくに遊びまわるわたしには、とても重宝した。だから、しょっちゅう着るようになって、それに気を良くしたお母ちゃんが、次に編んだのが、蛍光オレンジの毛糸で編んだタイツなのだった。

それについても、誰からも指摘はなかったのに、誰だよ!! わたしは、その絵を書いた主の名前を見ようとした。金色の折り紙が名前の横に。確かに絵は上手い。校庭の木々や夕暮れの空の色。淡い色の水彩絵の具で描かれたその絵は、まるで有名な外国の画家が描いたようだった。

納得するように頷きながら、金賞の紙の横にある名前を見て、わたしは腰を抜かしたのだった。

続く

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