なんのプゥ〜?の巻
「プゥ〜?!」
お尻から音を立てて出た風で、はっきり目覚めたわたしは、じっとりと背中と脇下に汗を感じた。
「え?!」という顔の彼の横顔。わたしを抱える彼は、「え?!」という顔をしたまま、わたしを見た。彼の顔は、まるで歌舞伎役者が雨に濡れたように、目の周りの黒い縁取りが、あっち行ったりこっち行ったりしていた。
「ご、ごめんなさい...」と、わたしは言いながら、すかしっぺでなかったことを、神に感謝した。昔、祖母が言っていたのだ。
「音の出るおならは臭くないのよ」と。
「アンアンッ!!」「ん?」
わたしの頬っぺたがヒヤッとした。ペロペロされてる。彼ではない。これは?!
「ニコちゃん?!」「アンアンッ!!」
ニコちゃんは、わたしの前でニコニコ尾っぽを振っている。呆気にとられているわたしを、首を傾げて見ている。
わたしは、彼の腕から起き上がると、「ニコちゃん」と言って、ニコちゃんに抱きついた。「キュウ〜ン」
彼を見ると、まだ「え?!」という顔をしている。
「雅哉さん! これが、ニコちゃん!」わたしは、彼に、抱いたニコちゃんを見せた。
「う、うん。いまね、玲奈ちゃんのおならと共に、ニコちゃん出てきたよ! まるで、アラジンのランプから出てきたみたいに、玲奈ちゃんのお尻から、プゥ〜!と同時に。プゥ〜!と鳴った瞬間。プゥ〜と玲奈ちゃんが...」「もう、分かったから!!!」
ニコちゃんは、「ヘッヘッヘ」と舌を出して笑ってる。
そう言えば、さっき、わたしは、彼がチェーンソーで、熊の木彫りを傷つけた時、人間語を話してるつもりが、犬語を話してた。人間語が出てこなかったのだ。
「あ! ニコちゃん! もしかして?!」ニコちゃんは、尾っぽを振って、わたしの鼻をペロペロ舐めている。
「ニコちゃんが、守ってくれたんだよ。玲奈ちゃんのこと。俺が、あんな乱暴なことしたから、ニコちゃん、玲奈ちゃんが心配で、玲奈ちゃんを守るために、玲奈ちゃんに憑依したんだよ」彼が、しゃがんで、ニコちゃんの頭を撫でた。
ニコちゃんは、彼の鼻をペロペロ舐めた。
「ごめんな、ニコちゃん。あんなことして。玲奈ちゃんを怖がらせてしまった。ごめん」彼はニコちゃんを抱きしめた。
彼の涙もメイクも、ニコちゃんがペロペロきれいに舐めていた。メイクが落ちた彼は、
「やっぱり、わたしのタイプ...」
つづく
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