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ワイン県で戦った武士の巻
わたしの彼で、わたしの隣の住人、雲坂雅哉は、闇を抱えた動物木彫りアーティスト。
「マジ、マジ、ほんとに、ほんとに、タ・イ・プゥ〜♡ うふうふ」
「気持ち悪いねぇ、さっきから、独り言言っては、ニヤニヤして」「うわーっ?!」
わたしの祖母で、わたしのシャーマン師匠の月浜可憐が、またいきなり遊びに来た。
「そうやってさ、いつも急に現れるのやめてくれる?!」「いーじゃん、いーじゃん」
月浜可憐は、ドサッと座布団に座ると、「で? 勉強は進んどるかのぉ?」と、わたしを見上げた。
「ま、まあね! ぼちぼちかな!」「嘘をつけっ!!」
わたしは、ふてくされて、月浜可憐の前に座ると、「ハッ!」と思い出した。
「ちゃんと修行してるよ! 昨日だって、ニコちゃんが、わたしに取り憑いたしっ!」と自慢げに言った。
「バカめがっ! このバカめがっ!」月浜可憐は、わたしのおでこをぴしゃぴしゃ叩いた。
「いったいなぁ!」月浜可憐は厳しい顔で、わたしを見ると、「霊に取り憑かれることが、どういうことか、おまえには分かっとらんのじゃ! それに、ニコりんが取り憑いただなんて、おまえは、あの世で幸せに暮らしてるニコりんに、まだ心配かけておるということなんじゃぞ! それでも、山梨系シャーマンの後継かっ! 情けない!」
「うるさいなぁ。わたしだって、好きでシャーマンの後継になったわけじゃないしっ!」わたしは、ちゃぶ台にひじついて、さらにふてくされた。
「好き嫌いの問題じゃない! これは、おまえの生まれ持った宿命なのじゃぞ!」「めんどくさい、宿命!」パシッ!!「イテッ!!」
月浜可憐は、持ってきた風呂敷包みから、ガサゴソ何かを取り出した。
「呼んでみるがよい」月浜可憐が指差す先に、幕末の志士の写真が。
「ひゃっ?! マジマジ、かっこいい!!」
わたしは、座布団にあぐらをかいて座ると、目を瞑り、意識を天に向けた。
そして、呪文を唱え始める。呪文は、適当。とにかくは、その人に会いたい気持ちを天に集中させるのみ。
「深大寺、天然理心流、池田屋事件、壬生寺、遊郭、容保&慶喜、勝沼戦争、酒蔵、板橋、電光石火!!」
目の前が、カッと光った。わたしは、薄っすら目を開けた。
つづく