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君とは誰?

放課後、佐伯くんと一緒に早苗先生のお手伝いをした。詩集の表紙作り。画用紙を折りながら、早苗先生は好きな歌手の話をしていた。早苗先生は、26歳。今年度、よその学校から転勤してきた。

1学期の始業式の日。校庭で5年生のクラスのまま並んでいたわたし達の前に、4人の先生が並んだ。知らなくて、若くて、美人で、優しそうな先生がいた。あの先生のクラスがいい!! そこにいた新6年生は、みんなそう思ったことだろう。

1組から順に名前を呼ばれた。わたしは胸がドキドキしていた。ドキドキの原因は2つ。大木雅哉くんと同じクラスになれるかどうかと、あの若い美人な先生のクラスになれるかどうかだ。

大木くんが呼ばれた! 1組だ。1組の担任は、あのこわ〜いおじいちゃん先生の島田先生だ。大木くんと同じクラスになりたいけども、島田先生は嫌だ。わたしの心臓の鼓動は、ますます早くなった。

わたしは、1組には呼ばれなかった。1組になった女子が、大木くんに群がっているのを傍目に見ながら、わたしは神に祈った。大木くんと同じクラスになる願いを叶えて下さらないならば、せめて! せめて、あの美人な先生のクラスにしてくらさいっ!!

美人先生が、「斉藤雪さん、佐伯翔馬さん」と呼んだ!! やったー!!


「あっ、そっか。佐伯くん、あの時呼ばれてたね! そう言えば」わたしは、画用紙を折ながらそう言った。佐伯くんは、「なんだよ! 藪から棒に!!」と驚いていた。

早苗先生が、音楽をかけてくれた。ユーミンの『卒業写真』という曲。聴いたことはあったけれど、こんなにじっくり聴いたのは、初めてだった。

早苗先生が、「ユーミンは、自分のことを歌ってるのかなぁ」と言った。わたしは、ユーミンのことを、遠くから見守っている男の子のことを想像した。すると、その男の子の顔が雅哉くんになって、わたしの顔が急激に熱くなった。早苗先生が、「ふふふっ」と笑った。

「雅哉の詩、読んだ?」早苗先生とサヨナラして、廊下を歩き始めると、佐伯くんが言った。読めるわけないじゃない! 毎休み時間、1組の廊下は、雅哉くん目当ての女子達で、新宿より混雑してるんだから!

ふと、1組の廊下を見ると、ガランとしていた。いまがチャンス!! わたし達は走り出した。

「えーっと、雅哉くん、雅哉くん」「雅哉のはどこだ?」2人で、雅哉くんの詩を探した。あった!!

ちょっとしてから、佐伯くんが、「なんだ?! この詩!! ウケるな! な?」と笑いながら言った。「なぁ? どうしたんだよ! なに固まってんだよ」佐伯くんが、わたしの顔を覗き込んだ。「これは、、、ダメだ、、、」わたしは、ボソリと言った。

「これは、違うんだ!」後ろで声がした。「雅哉!」佐伯くんが嬉しそうな声を出した。「これは違うんだ! 斉藤雪さん、これは、そういう意味じゃなくて、、」「じゃあ、どういう意味? 雅哉くんて、わたしにはよく分からない人だよ!」わたしは、雅哉くんの目を見ずに言った。

その時、ザワザワと女子集団がやって来て、雅哉くんに気付くと、また騒ぎ出した。その中の1人の子が、「雅哉くん、この詩やだぁ! わたし、雅哉くんに、こんな汚いラーメン屋さんに行って欲しくないぃぃ!!」と言った。

わたしは、雅哉くんの表情を確認した。雅哉くんは、苦笑いしながら頭をかいていた。

「歌いたいもん歌ってなにが悪いんだ!! ブスッ!! この歌は、雅哉くんの歌だよ!!」わたしは、この言葉が頭の中だけで思っている言葉なのか、声に出して言った言葉なのか分からなくなっていた。

「おい、歌うってなんだよ。あ、詩だから歌うってことにしたの? さっきのユーミンの影響?」佐伯くんが耳打ちした。

「うわーん!!」と、わたしにブスと言われた女の子が泣き出した。女子達がザワつき始めた。

その時、「ブス、ブス、ブス!! ブス、ブス、ブス!!」と、雅哉くんが踊り出した。まるで、道化師みたいに、その泣いている女の子の周りを、クルクル踊りながら歌っていた。

「雅哉くん、かわいい!!」女の子達が笑い出した。泣いていた女の子も、泣きやんで笑っている。「帰る」わたしは、小さな声でそう言うと、1組の前の階段を駆け下りて行った。泣きたいのはこっちだ!

『君のすばらしいお兄さん            大木雅哉

古くて汚いラーメン屋のすばらしいお兄さん

ワンコインで食べれるラーメン屋

お客のみんなが友達

イエイイエイ

食べながら楽しい話

みんなが知り合い家族団欒

ラーメン食べ終わったら、ようじでシーハー

俺の方がすごいぜ! シーハー

ようじ10本でシーハーシーハー

「芸能人は歯が命」ってどこかで聞いた名言

うるさいな、俺の気持ちも知らないで

歯茎から血が出てるよ! ってうるさいな!

みんな友達

初めての俺も友達』


「てか、ワンコインじゃないしっ!! 80円足りなかったし!!」わたしは、高速マッハで校門を駆け抜けた。

続く


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