第2話 なぜシンガポールに残るのか
天井まで続く大きな窓から見えるマリーナの景色は、今日も色つきの宝石のように騒がしく輝いていた。セントーサコーブという名のマリーナに面したこのコンドミニアムは、このあたりには珍しい高層の建物で、11階のこの部屋からはマリーナと外洋が一望できる。鼠色の雲が幅を利かせていた雨季がようやく終わり、シンガポールにも春が来たようだ。軽装の人々を載せたパーティ船が出航していく。サングラスに裸足の彼らを見ながら、茉由は自分の眉間のしわをほどいた。気楽そうでうらやましい。
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