閉じたままの パンドラの箱
私は時々、あるカサンドラ女性の言葉を思い出す。
妊活に励む中で乳がんを患った末に
アスペルガー夫と離婚した彼女。
ある時彼女は言葉少なに私に言った。
「妊活はね、パンドラの箱。」
思いもしないものが飛び出してくる、
決して開けてはいけない箱だと彼女は言った。
それ以上は何も言わなかった。
仕事終わりに帰路に着き、
最後は自分の家の前の道端にそっと座る。
毎日暗闇の中、自宅の電気が消える時を
ずっと遠くから息を鎮めて待つ。
それが、気丈で誰に対しても誠実な彼女の
孤独な結婚生活だった。(後から話してくれた)
私はと言えば、
当時妊活を予定していたのだけど、
結局はその出発点を目指すこともやめて、
関係を終わらせた。
私と彼のパンドラの箱をもし開けたなら、
一体どんなものが飛び出してきたのだろうか。
と、想像してみたり。