不思議✨骨董招き猫せんきっつあん物語番外編No.3「つじ丸姐さんの切ない時間」
わたくし未熟な招き猫のつじ丸と申します。
わたくしの名前は飼い主である、元売れっ子芸者のつじ丸姐さんが、
その名を捨てる時にわたくしに付けてくれたものでございます。
つじ丸姐さんは産んだ子供を取り上げられ、失意のうちにお座敷から遠ざかりその名を捨てられました。
その事は前にもお話しさせて頂きましたが、つじ丸姐さんは一切どなたにも辛い気持ちを語らずに、華やかな世界から身を引かれたのです
そして身を引かれた翌日、自慢の黒髪をバッサリと切り、どんな時でも着ていた着物をやめ、洋装をするようなったのでございます
美しい姐さんは洋装姿も魅力的で、
その姿に皆が振り返る事もしばしばでした
ある時写真館の主人に頼まれて、
姐さんは洋装写真のモデルになったのでございます
その時姐さんが選んだ洋装は、
姐さんの大事なお方が好きな藤の花がモダンにデザインされたワンピースで
それはそれはお似合いでした
写真館の外に飾られた写真は大評判となり、野次馬まで出る騒ぎでございました
その日は珍しく写真館の前が静かでした。
そこに一台の立派な四輪車が止まり、姐さんの写真を見るなり、
「つじ丸、元気そうでよかった。
お前に会う事はもう許されないが、
愛しい気持ちは変わらない。
つじ丸、つじ丸、私のつじ丸」とつぶやく紳士がいたのでございます
愛し合っていても、どうにもならない切ない時代でございました