毒のある言葉と視点の毒の底にあるもの
「幸せそうな人を見ると、殺したくなる。勝ち組に見えたから」と電車内で起こった刺傷事件は昨年、現実に起こりました。
幸せそうでも、幸せでないかもしれない。勝ち組でないかもしれない。加害者にはそう見えただけ。本人や、その方を知っている人にはそうでないかもしれません。
事件には、事実と真実がありそれは複数で一致しないこともあります。立場によって、視座によって捉え方、心の在りようで、見え方が違います。
あのときそうだったけど、今は違うということもあります。
本書は、視点となる人物が複数います。第3者からみたもの、本人が語るもの、どこに真実があるのでしょうか。
レットクローバー まさきとしか
ヒ素という猛毒の他に、毒がいっぱいのミステリーです。まず、言葉の毒がすごい。これにやられて気持ち悪くなりました。相手を傷つけ、自分も傷つけています。親子だから、親だから、子どもに何を言っていいはずはなく、その度、心が死んでいて心は何度でも殺されています。
海道灰戸町という、閉塞的な地域社会の毒。この町に限らずどこにでもあるのかもしれない、と思うと怖くなります。地域格差、タワマンでの上階とそうでない階。
彼女たちでなくっても、怒りはだれでも抱えているし、「むかつく」「ざまあみろ」という暗い感情に動かされてしまうことだってあります。自分の中にも毒があります。
彼女たちの毒は、身を守るための毒でした。
心を何度も殺されたから。
殺されるより殺す。
自分のことで精一杯で、欲張りで自己中心的で欲望に忠実なだけ。
自分が生きるために。
毒ばかりではなく、真実を求める雑誌記者の冷静な視点があることで優しさが加わり、解毒になっているのかもしれません。
レッドクローバーは、本書では赤井三葉のことですが、ムラサキシロツメクサで、ハーブティーとして用いられホルモンバランスの調整に効くそうです。
毒、ではありません。