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男の中のかわいげ
男のひとのことを、
男、という女のひとがいて、
にこはそれにすこし、あこがれる。
まだそこまで言ってのけるには、早い気がするのだ。
いつかきっとそう言える日が来ると分かっていて、でもそれにはまだ早い、と、時期尚早だ、と、まじめにも、思っているのだ。
だからにこは、
男のひと、という。
女のひと、ともいう。
それからあとは、子ども、と、おとしより、と、どうぶつ、いきもの。
さて、男のひとは、そんなにこから見て、
どうにも子どもだ、と思う。
子どもだったときは、
おとなの世界、だったのに、にこがおとなになってから、
おとなたちは随分と子どもなのだと知った。
特にそう思うのが、男のひと。
やるせなくなるくらい、
みっともないくらい、
ばかげている。
それでいて、傲慢で、嘘めいていて、
みんなで一世一代のおとなごっこをやり遂げている。
にこは、誰を知っても、やっぱりそう、と思う。
本当にごくわずかにいる、
そうではない男のひとたちのことはむしろ
欠損している、とすら思う。
重要な男のなかのかわいげを、欠損している、と。
そう、かわいげなのだ。
それがもう、かわいげと思う以外に、女たちにしてやれることはない、とにこは思っている。
もうまるきり理解してあげて、つつみこんであげるしかない。
にこは、男のひとたちに好かれることが、きらいではない。
好意を持って見つめられることも、
言葉を寄せられることも、
誘いを受けることも、きらいではない。
(それに応えるかどうかはさておいて)
だって、
いつか、泣いたひとがいたのだ。
小さな暗い照明の一室で、
ことを終えて汗だくになって倒れこんだベッドで、
そのひとは泣いた。
さみしいのだと言った。
声もなく、涙だけが流れていた。
妻も子どもも、あるひとだった。
男のひとは、どうしようもないのだ。
わかってやるしかない、と、にこは思う。