22C 第1話

もっと時間がかかると思ってたし、かけようと思ってた。それくらい大事な日のはずだから。
でもいざ手続きが始まると、あまりにも事務的すぎて
そんなもたもたしちゃいけないのかなとも思い、途中から機械的に右手の親指を動かしてたら思いの外すいすいと進みいつの間にか終了していた。

自分の命日を決めた。来年の誕生日にする事にした。

人生が始まった生まれた日と、終わるはずの死ぬ日が同じな事は昔から特別な意味を感じていたし、もし残された両親や私の事を思い出してくれる友人がいるのであれば、何かと覚え易くて良さそうだと思った。

"計画死"を利用した事は家族にも誰にも言ってはいけない決まりがある。
昔より個人のプライバシーが完全保護されている時代、
18歳で成人してからは1人の大人として扱われるため
親でさえ子の人生に干渉しなくなる。

私は今日から1年、どんな苦しい事悲しい事があっても
「どうせ次の誕生日に死ぬしいっか」と私的鋼のメンタルで乗り越える事が出来ると思うと楽しみであり、
他人にはない"死の覚悟"があるという事だけで私は強い気がしたし、優越感に似たような気持ちさえ覚えた。

この1年は私中心の1年になるはず。終わりが見えたからこそやりたい事も全部やる。
今までの人生は最悪だったけど、本当に悔いの残らない1年、人生にするぞっと心から思った。
人生最後の1年を楽しむ、希望にさえ満ち溢れている最高の1年の幕開けだ。



風(フウ)「話がある」

良く晴れた金曜日の昼休み3年1組の教室、週末で皆が浮き足立って騒がしい中いつになく神妙な面持ちで風が話しかけてきた。

風「ここ(学校)で話す事じゃないから、今日部活後3人で帰ろうぜ。今日は皆部活だろ?」

清(セイ)「急になに?俺明日模試だから今日部活休んで勉強しようとしてたんだけど」

碧(アオ)「清は部活休んでもどうせ勉強しないんだから、3年最後の大会も近いんだし練習出なよ。なにより風から声掛かるなんて滅多にないんだし」

清「は?碧お前、模試の点数低かったらお前のせいだって俺の母さんに言うからな」

碧「どうぞ。清のお母さん、君には怖いかも知れないけど何故か僕には信頼置かれてるからね、点数低いのは僕のせいじゃないってわかってくれるでしょう。」

清「おまっ、、」

風「まあ清が部活の数時間、ちょっと勉強しただけでそんな点数変わらんよ。毎日の積み重ねが点数になる。
という訳で部活終了後校門で。くれぐれも部活仲間連れてくるなよ、3人で話したい」

清「風まで、、、」

碧「了解。あ、茜ちゃんには声かける?」

風「、、、茜は、茜には声かけないで」

清「茜仲間外れかよ!」

風「その、、茜についての話なんだ、、だから3人だけで、、、」

清「、、、ほう。じゃまた放課後」

風「おう。」

そう言うと風は雑踏とした廊下の人混みの中に消えてった。2人はその背中を見送る。
どうやら昼練習のため格技棟に向かったようだった。

清「遂に自分の気持ちに気づいたんですかねえ」

碧「え?どうゆうこと?」

清「とぼけんなって。急なライバル出現で焦ってんのか?まあ俺はちょっと前からもしかすると風も?と思ってたけどまさかこれは大胆に宣戦布告じゃね?
お前もうかうかしているとあっという間に風に取られるぞ」

碧「だからなんの話?僕も部会あるから図書室行ってくるね、、」

清「おう!あんま気い落とすなよーー!」

碧(さっきまで1番乗り気でなかったのに急にテンション高くなって、清って変なの。
風も茜についての話なんて何かあったのかな?まあ幼馴染3人で帰るのも久しぶりだし積もる話もあるかあ。)

なんの話をされるのか検討も付かず、僕の心は小躍りしているくらいだった。
この後、あんな話を聞くとも思わず。


22世紀地球、改善されない環境破壊。
途上国の人口増加に反比例して少子高齢化の一途を辿る先進国。
国内はおろか国際単位で縮む事のない貧富の差。
もうこの星に逃げ場がないのは明らかだった。

そんな中これらの問題解決に長い時間取り組んでいた国際機関だが、非協力的な人間にのせいで問題が何百年と改善に進まない事に対し遂に音を上げた。
様々な協定を出しても生産性を重視するあまり協力の色を示さない企業、無くならない少数派差別や紛争。
21世紀、科学技術の進歩は目覚ましかったが、人が自然を思いやる気持ちや、人同士の争いに解決策は見出せなかった。
これらの問題解決を出来なかった人間を悪の生物と仮定し、地球上から人間の人口を減らす目的で
"自由に死んでもいい"という表向きの思想の下"計画死"が発案された。
人間に期待をせず、見切りをつけた上での判断である。

この制度が導入されてから直ぐは元々、自殺願望があった者達が飛びつき、申請し、次々に薬が投与され亡くなった。
計画死で身近な者を亡くした人達はこの制度に対して反対の声が上げていたが、
時間が経つにつれこの制度は思いの外、人々に受け入れらる様になった。
そもそも傲慢な人類は自ら死を選択する人が少なかった。
僅かな生きる事に嫌気が差した人、人生に失望した者たちが薬一粒で苦しまずに死ねるこの制度を利用したものの、一定数達すると利用者は減衰したのだった。

その為長年の地球問題の直接の解決には至ってないが、各国の自殺者が激減した。
計画死と自殺は似て非なるもので、申請してから半年以上経たないと薬が投与されない等の細かな規定があるため、衝動的に死ねる自殺とは一線を画す。

世の中は何事も表裏一体。
誰にでも誕生日があれば命日があり、計画出産があるなら計画死もある。
こうしてこの制度は現代まで残り続けている。



碧「茜ちゃん、今日は一緒に帰れないや」

沈みかけてる夕日、部室を出た廊下の窓ガラスは西日の光をより眩しくさせる。
逆光と眩しさで開けない目のせいで茜の顔はよく見えない。

茜「なんで!珍しい!」

彼女の声はいつも明るく、鈴の音を思わせる様な澄んだ綺麗な声をしている。
表情がわからなくとも声色で茜が楽しそうなのはわかる。

碧「風に誘われて清と3人で帰るの。茜ちゃん、気をつけて帰るんだよ。」

茜「へ〜いいね、3人で帰るなんて珍しいね。私は仲間外れ?」

碧「そんな訳ないじゃん!なんか風が3人で話したい事があるらしい。」

茜「大丈夫、わかってるって!私はいつも通り
凪(ナギ)ちゃんと帰るし気にしないで!」

碧「うん。凪ちゃんにもよろしく言っておいて」

凪ちゃんは今、職員室へ部室の鍵を返しに行ってくれている。
文芸部の3年生は僕と茜ちゃんと凪ちゃんの3人だけ。
1年生の頃から部活の日はずっと一緒に帰ってる。
2年生は5人、この4月に1年生も3人入部してくれた。
少子化が加速した現代はどこの部活動もこんな感じの人数だ。
人数が必要な団体競技の運動部や吹奏楽部は設部されている学校がそもそも少なくなってきた。

風「清おせーよ、いつまでかかってんだよ」

清「ごめんごめん、大会近いからギリギリまで練習で。これでも着替え急いだんだぜ」

陸上部の清は今月末、高校最後の陸上大会がある。
その大会が終わると陸上部は引退らしい。
清は幼い頃から走るのも逃げ足も早かった。

碧「清が明日模試だから早く帰そうとしてくれてるんだよ、風は。さあ早く帰ろう」

茜「お、本当に3人で帰るんだ。君たち3人いつまでも仲良くて、見てて安心する」

風「なんだそれ」

清「茜に凪ちゃん!久しぶり!元気だった?
今度は一緒に帰ろうね」

凪「バイバイ」

茜「また来週〜」

風「おう!2人共気をつけてな!」

碧「バイバイ〜」

茜と凪を校門から目で見送る。



風「よし、大事な話だ。ゆっくり話たい。
  いつもの公園に行こう。」

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