映像シナリオ「透明夫婦」
概要:シナリオ学校の課題にて執筆。条件は短編もの。尺は約12分。2016/08/28作。
〇ログライン
喧嘩の末、妻の姿が見えなくなった夫。夫は仲直りしようと妻を探し求めるが、妻は気楽に生きている話。
〇登場人物
坪田直樹(28)サラリーマン
坪田香織(26)直樹の妻
他
〇 坪田家・居間(夜)
夕食を食べる坪田直樹(28)と坪田香織(26)、お互い険悪な表情。
直樹「(味噌汁をすすり)薄……」
直樹、香織に睨まれるが気づいていない。
直樹「お前ってほんま、味付けも存在も薄い奴やな」
香織、箸を叩きつけるように置き、部屋を出る。
直樹、一瞥して食事を続ける。
〇 同・寝室(朝)
眠そうな目で目覚まし時計を見る直樹、飛び起きる。
〇 同・居間(朝)
スーツ姿で慌ただしく入ってくる直樹。
誰もいない部屋に、二人分の朝食の用意がされた食卓。
直樹「香織?」
恐る恐る部屋を見わたし首を傾げる直樹、時間がない事に気づき、慌
ててパンだけ取って出ていく。
朝日に照らされ浮かび上がる香織の影。
〇 会社・屋上
缶コーヒーを飲みながらスマホを見つめる直樹。
スマホの画面には、直樹と香織の笑顔のツーショット写真。
ため息をつく直樹。
〇 坪田家・玄関(夕)
恐る恐る入ってくる直樹。
直樹「ただいま~……」
静まり返った家の中。
〇 同・居間(夕)
恐る恐る入ってくる直樹。
誰もいない部屋に、二人分の夕食が用意された食卓。
直樹「香織~? おらんの?」
部屋中を探す直樹。
パタパタとスリッパの足音が背後から聞こえ、振り返る直樹。
誰もおらず、首をかしげる直樹。
突然、テレビがつく。
驚く直樹、次々とチャンネルが変わり、天気予報のニュース番組で止
まるテレビを呆然と見つめる。
突然、台所の水道から水が出る。
驚く直樹、恐る恐る近づき水道を止める。
直樹が離れると、再び水が出る水道。
驚く直樹、再び蛇口をひねって止める。
直樹の目の前で勝手に流れる水道。
驚く直樹。
宙に浮いた包丁が直樹に向けられている。
直樹、恐怖のあまり腰を抜かす。
香織「ちょっと! 使ってるんやから勝手に止めんといてよ」
包丁の方から聞こえる香織の声に驚く直樹。
直樹「か、か、香織?」
香織「もう! そんなとこ座り込んで、邪魔邪魔」
困惑する直樹、辺りを見回すが誰もいない。
香織「どこ見てんの、直樹?」
見えない何かに顔をぐいっと前に向けさせられる直樹。
向いた先には、宙に浮いた包丁。
直樹、包丁を凝視。
香織「あれっ? もしかして……」
直樹、宙に浮いた包丁が勝手に動き、まな板の上に置かれるのを目で
追う。
香織「私の事、見えてへん?」
恐怖の表情の直樹、香織の声がする方を見るが、焦点が合っていな
い。
× × ×
食卓で夕食を食べている直樹。
誰も座っていない香織の席の夕食も少しずつ減っている。
直樹、困惑した表情でその様子を見ている。
直樹「なんでこんな事に……」
香織「……べつにええんちゃう?」
直樹が見ていた方とは違う方から声が聞こえ、ビクッとなる直樹。
直樹「はぁ?」
背後から物音がして、ビクッとなる直樹。
香織「どうせ私は、味付けも存在も薄いんですから」
直樹の反応を楽しむかのように、部屋中の物が勝手に倒れたり動いた
りする。
物音がする度、ビクッとなる直樹、疲れた様子でため息をつく。
直樹「お前、そんな事、根に持ってたん? あれはただ……」
部屋の明かりが突然消えて、驚く直樹。
香織「(ため息)もうええ……あんたとはもうしゃべらん」
直樹「香織?!」
静まり返った部屋。
しばらくして扉が勝手に開き、乱暴に閉まる。
ため息をつく直樹。
〇 同・寝室(夜)
開いている扉から出ようとする直樹、急に扉が閉まり顔を打つ。
顔を抑えうずくまる直樹。
〇 同・廊下(朝)
直樹、トイレの明かりが点いたままなのに気づき、スイッチを消す。
トイレの中から、香織の小さい悲鳴が聞こえる。
〇 同・居間(夜)
テレビでスポーツ番組を観ている直樹。
突然、テレビのチャンネルが勝手にドラマに変わる。
直樹、スポーツ番組に変える。
再び、勝手にチャンネルがドラマに変わる。
しばらく、見えない香織とチャンネルの取り合い。
直樹「ええ加減にしろよ!」
チャンネルがスポーツ番組のまま変わらず、勝ち誇った表情の直樹。
直樹、飲み物を取りに席を立ち、戻ってくるとチャンネルがドラマに
変わっている。
ため息をつく直樹。
〇 同・居間(朝)
静まり返った部屋。
直樹、向かいの香織の席を気にしながら、朝食を食べている。
直樹、食卓の上の醤油を取ろうとする。
直樹に取られまいと勝手に動く醤油。
直樹、何度も取ろうとするがなかなか取れない。
諦める直樹、香織のお皿からウインナーを全部食べる。
勝ち誇った表情でご飯を頬張る直樹。
突然、背後から頭を叩かれる直樹。
直樹、驚いて振り向くが誰もいない。
直樹、向かいにいるであろう香織を睨む。
〇 同・玄関(朝)
靴を履く直樹、少し家の中を気にするが、誰もいない。
寂しそうに出ていく直樹。
〇 同・居間
勝手に動いて部屋中を掃除しているモップ。
掃除が終わると、テレビが勝手につき、テーブルの上のお菓子の袋が
勝手に開く。
次々と変わるテレビのチャンネル。
ボリボリと減っていくお菓子。
時折、香織の笑い声が聞こえる。
〇 同・玄関(夕)
疲れた様子で帰ってくる直樹。
〇 同・居間(夕)
誰もいない部屋に入ってくる直樹。
食卓の上には、途中まで置かれた夕食。
直樹、ため息をつき、部屋中を見回すが誰もいない。
直樹、台所に向かうと、料理の途中でそのまま放置された様子。
次第に心配そうな表情になる直樹。
直樹「香織?」
直樹、不安そうな表情で部屋を出る。
〇 同・廊下(夕)
香織を探す直樹。
〇 同・寝室(夕)
直樹、寝室を探すが誰もいない。
〇 同・風呂場(夕)
直樹、風呂場を探すが誰もいない。
○ 同・廊下(夕)
直樹、トイレの前を通り過ぎるが、ふと立ち止まって戻ってくる。
恐る恐るトイレの中を覗く直樹。
誰もいないトイレ。
トイレを覗く直樹の背後を、きれいに畳まれた洗濯物が宙に浮いて通
り過ぎる。
直樹、気配を感じ、後ろを振り返るが誰もいない。
ため息をつく直樹。
〇 同・居間(夜)
不安そうな表情で入ってくる直樹。
食卓には、出来上がった夕食。
驚く直樹、部屋中を見わたし、香織を探すが誰もいない。
直樹、香織のお皿の料理が少しずつ減っているのに気づく。
直樹、ほっとした様子で自分の席に座る。
直樹「いただきます」
直樹、きちんと手を合わせて食べ始める。
直樹「(味噌汁をすすって)薄……」
うっすらと消えていく直樹、黙々と食べ続ける。
うっすらと現れる香織、直樹を睨んでいる。
(了)