ラジオドラマ「年取ってなんぼ」

概要:関西の某ミニFMの番組内のラジオドラマ用に執筆(諸事情によりO.A.ならず)。登場人物は女性三人という条件。尺は約15分。2014/07/19作。

〇ログライン
 娘からおばちゃんと言われた主婦のヤスコが、自分より若々しいカズミに対抗して若作りしようとするが、カズミの苦労を知り、無理せず年相応でいるのがいいと気付く話。

〇登場人物
ヤスコ(43)
トモヨ(43)
カズミ(45)


   SE 小鳥の鳴き声

ヤスコ「ああ、忙しい忙しい! ったく、朝は主婦の戦場やでほんま。それ
 にしても、サヤカのやつ~。親に向かっておばちゃんなんて言って、なん
 やねん! あげくカズミの方がええって? なんでカズミなんかと比べら
 れなあかんのよ、もう!」

   SE ベランダの網戸を開ける音

ヤスコ「あっつー! これからの季節、洗濯物干しに出るのもしんどいわ
 ~」
トモヨ「(オフ)ヤスコ、ヤスコ!」
ヤスコ「ん? この声は隣のトモヨ。なに~?」
トモヨ「(オン)あんなぁ、おいしいクッキーもらってん。一緒に食べよう
 や」
ヤスコ「えっ、ほんま?! 食べよ食べよ」
トモヨ「ほな、そっちお邪魔するわ」

   SE ポットのお湯を注ぐ音

ヤスコ「(クッキーを食べながら)人の話全然聞かんし、グチグチ文句ばっ
 かやし、ブクブク太ってみっともない、そんなおばちゃんが自分のお母さ
 んなんて嫌やねんって娘のサヤカが言ってくるねんで! どう思う? し
 かも、カズミさんみたいな上品で、素敵な女性がお母さんやったらとか、
 まったくあの子はカズミばっかり……って、聞いてる?」
トモヨ「(コーヒーを飲んで)ああ、やっぱ家事の合間のコーヒーはおいし
 いわ~。で、何の話やっけ?」
ヤスコ「(ため息)もう、全然聞いてへんやん」
トモヨ「(笑いながら)聞いてる、聞いてる。またサヤカちゃんのカズミび
 いきやろ。でも、カズミもカズミやで」
ヤスコ「うちらより二歳上やのに、見た目年齢十歳くらい若く見えるし。だ
 から、ウチらの方がおばちゃんて思われんねん」

   SE ドアチャイムの音

トモヨ「噂をすればカズミちゃう?」
ヤスコ「(インターホンに出て)はい、あ、カズミさん? うん、入って(
 インターホン置いて、嫌そうに)ほんまや」

   SE 扉の開く音

カズミ「お邪魔しまーす。急にごめんなさいね。あら、トモヨもいたんや。
 ちょうどよかった。ほら、おいしいケーキ持って来たで」
トモヨ「あっ、これ、こないだテレビで紹介されてたやつ」
カズミ「サヤカちゃんがね、食べてみたいって言ってたから買ってきてん」
ヤスコ「サヤカが? でも、これってめっちゃ高いんとちゃう」
カズミ「そんなん気にせんでええよ。私とサヤカちゃんのよしみやし。ほら
 、沢山買ったから、皆で食べて」
ヤスコ「でも……」
カズミ「あ、それからこれ、ウニのパスタソース。初めて二人とあのスーパ
 ーで会った時、売り切れてたやん? あれから二人とも来てないみたいや
 し、買うといたで」
トモヨ「あ、ありがとう……」
カズミ「私、これからエステの予約があるねん。もう、若さ保つのお金かか
 ってしゃあないわ~。ほな、またね」

   SE 扉の閉まる音

ヤスコ「なんなん、あれ。嫌味?」
トモヨ「あれ、金持ちやからできるんやで。綺麗な服も化粧品も、エステ通
 いもお金かかるもん」
ヤスコ「ほんなら、ウチらもお金かけたらええねん」
トモヨ「えっ?!」
ヤスコ「ウチらもな、カズミみたいにお洒落すんねん。お洒落して綺麗にな
 ったら、おばちゃん言われんやろ。ほら、あれ、女子力ってやつ?」
トモヨ「女子力って何よ」
ヤスコ「ほらこう、キャピキャピしてて華やかなって感じのやつ? まあ、
 とにかく、昔みたいにお洒落して、女子力回復させるんや」

   SE 繁華街の雑踏

ヤスコ「ああ、デパートなんかバーゲンで来たっきりや。トモヨ、あんたも
 ちゃんとお金持って来た?」
トモヨ「うん。へそくり持って来た」
ヤスコ「よし! ほら、デパートあそこや。行こか」

   SE 賑やかな店内の喧騒

トモヨ「えーと、ミセスの服は七階みたいやな」
ヤスコ「トモヨ、何言ってんの。今日のウチらはその階ちゃうって。五階の
 若い子向けのフロア行くで」
トモヨ「はぁ?」

   SE 軽快なリズムの店内BGM

ヤスコ「やっぱこれこれ。この華やかさがウチらには必要やねん」
トモヨ「なぁ、ヤスコ。ちょっとここの服は、ウチらにはもう若過ぎるんち
 ゃう?」
ヤスコ「そんなこと言ってたら、若さは保たれへんで」
トモヨ「まあ、そうかもしれへんけど……そもそもウチらに合うサイズある
 んか?」
ヤスコ「あっ、このスカートかわいい! なんぼやろ? これ」
トモヨ「(ため息)えっとな、一万九千八百円やって」
ヤスコ「一万九千八百円?! ……パートで稼いだお金、一気に飛ぶわ」
トモヨ「ヤスコ! すぐ値段気にするのおばちゃんみたいやで」
ヤスコ「トモヨ、見て! この靴、めっちゃヒール高いやん」
トモヨ「昔はこんなヒールばっか履いてたよなぁ」
ヤスコ「今履いたら、絶対足ぐねるで」
トモヨ「ムリムリ! 今はもう動きやすいのが一番やわ……って、なんかウ
 チら、ちゃちゃいれてばっかやな」
ヤスコ「折角お洒落しようって来てるのに、余計おばちゃんになった感じ…
 …やっぱ高くても何か買って帰らな。よし! これとこれと……あ、これ
 も」
トモヨ「ちょっとヤスコ! あんた、それ全部買うん?」
ヤスコ「えっ? そうやけど?」
トモヨ「そんなフリフリのスカートに胸元の開いたTシャツ、高いヒールっ
 てあんた……」
ヤスコ「昔いけてたんやから、今もいける! トモヨ、あんたは?」
トモヨ「え、私? え~と、じゃあ、これとこれで……」
ヤスコ「あんたLLサイズのTシャツにジーパンって、普段と変わらんや
 ん」
トモヨ「え、でも、一応若い子の店で買ったから、ちょっとくらい若々しい
 かなぁって……」
ヤスコ「ま、ええわ。早速着替えて出かけるで!」
トモヨ「えっ? その服で?!」
ヤスコ「そうや! 流行りのパンケーキの店行こ!」

   SE 街の雑踏

ヤスコ「ああ、足痛いわ、膝痛いわ。やっぱ歩きにくいわ、このヒール」
トモヨ「大丈夫? 靴だけ履きかえたら?」
ヤスコ「あかん! お洒落は我慢! カズミに負けるわけにはいかんねん」
トモヨ「そうやけど……」
ヤスコ「ほら、カズミみたいに颯爽と歩くで! あっ!」

   SE 派手にこける音

トモヨ「ヤスコ! 大丈夫?!」
ヤスコ「いったぁ~……ううっ、動かれへん……あ、足が……」
トモヨ「え、ちょ、こりゃあかん! 誰か! 救急車~!」

   SE 救急車のサイレンの音
   SE 病院の待合室の喧騒

トモヨ「大丈夫? ヤスコ」
ヤスコ「まあなんとか……テーピングしてもろたし」
トモヨ「やっぱり、無理できんな……あっ! あれ、あそこにおるん、カズ
 ミちゃう?」
ヤスコ「えっ? あ、ほんまや」
トモヨ「カズミさん! カズミさん!」
カズミ「(オフ)あっ! ヤスコ、トモヨ」
トモヨ「カズミさん、どしたん? こんな所で」
カズミ「(オン)え、あ、いや……」
ヤスコ「今日はエステの予約あるって言ってたのに。それめっちゃ持ってる
 ん湿布?」
カズミ「あ、こ、これは、その……」
トモヨ「カズミさんもどっか怪我したん?」
カズミ「(ため息)見られてしもたらしゃあないな……」
ヤスコ「カズミさん?」

   SE カラスの鳴き声
   SE ポットのお湯を注ぐ音

カズミ「(コーヒーを飲んでため息)ここしばらく、身体中が痛くてなぁ。
 ワンサイズ小さい服着ようと、コルセットで締め付けたり、高いヒール履
 いたりしてたのが原因みたいやわ」
トモヨ「えっ?! カズミさん、そんな無理してたん?」
カズミ「だって、ウチの旦那、いつまでも若いままでおれよって、毎日のよ
 うに言ってくるんやで。昔っから若い子好きやったし、こっちも必死で顔
 のシワのばしたり、野菜苦手やのに毎日スムージーにして飲んだり、美容
 に良いってものは何でもやって……でもなぁ……最近思うんよ。何やってる
 んやろって。こんな苦労してまで、若さ保つ意味ってあるんやろか?」
ヤスコ「えっ?」
カズミ「だって、無理やり若作りするのって、年取った自分を否定し続けて
 るみたいやん。そんなことするより、年相応な恰好した方が、今よりずっ
 と楽しい気がするねん」
ヤスコ「年相応ねぇ……」
カズミ「だって、ヤスコとトモヨを見てると、めっちゃ楽しそうやもん。実
 際、こうやって二人とお茶しながらお喋りするん、めっちゃ楽しいし。毎
 朝挨拶してくれるサヤカちゃんの存在も嬉しかったんよ」
ヤスコ「サヤカが?」
カズミ「犬の散歩してる時によく会うねん。ウチ、子供いないでしょ? な
 んかサヤカちゃんが自分の娘のように思えて……ヤスコにこんなん言うん
 変やけど……」
ヤスコ「いやいや、そんな……それにしても、カズミさんもいろいろ苦労し
 てたんやな。全然知らんかったわ」
トモヨ「見た目のことにしか目が行ってなかったもんなぁ。ん? どしたん
 ? ヤスコ。何見てるん?」
ヤスコ「いや、ほら、あそこの鏡に映ってる自分の姿見てな。改めて、無理
 してるなぁって」
カズミ「そんなん言ったら、私も無理し過ぎ。もう、こんなん止めよ。この
 歳になってまで、周りの目気にするのは窮屈やわ。もうおばちゃんは、自
 分に素直に楽しく生きたらええねん」
トモヨ「そうや! 年取ったからこそ、着れる服ってあるし、立ち振る舞い
 かてそうや。べつに図太かったってええやん」
ヤスコ「今度は、ウチらの年齢に合った服買いに行こか」
カズミ「私も一緒に行ってもええ?」
ヤスコ「何言ってんの? ええに決まってるやん。なぁ。トモヨ」
トモヨ「うん、当たり前やん」
カズミ「ヤスコ、トモヨ……」

   SE 携帯電話の着信音

トモヨ「あ、私か(電話に出て)もしもし? あ、ここおるで。かわるわ(
 ヤスコに)ヤスコ、サヤカちゃんから」
ヤスコ「サヤカから? (電話に出て)もしもし? え? 入院? 入院な
 んかしてへんで。今、カズミさんの家やけど? トモヨから連絡? ちょ
 、ちょっと待ってよ(トモヨに)なぁトモヨ、何言ったんや?」
トモヨ「あ、ごめん。あんたが救急車で運ばれた時、サヤカちゃんにちょっ
 と大げさに言ってもうたわ」
ヤスコ「はぁ?! (電話に)もしもし、サヤカ? お母さん、足くじいた
 だけやから大丈夫や。ほら、そんな泣かんと……うん、うん……えっ? 当
 たり前や。お母さんは、これからもあんたのお母さんや。心配せんでええ
 からな……うん、ほな、あとでな」

   SE 携帯電話を切る音

ヤスコ「(ため息)あの子、お母さん、ずっと元気な私のお母さんでいてよ
 って……(嬉しそうに)ったく、今朝はカズミさんがお母さんやったらい
 いのにって言ってたくせに。もう」
カズミ「サヤカちゃんが?」
ヤスコ「そうやねん。もうあの子はカズミさんにメロメロやで」
カズミ「あら、嬉しい! でも、サヤカちゃんはやっぱりヤスコが一番好き
 なんやね」
トモヨ「そうそう、ヤスコの事、めっちゃ心配してたんやから」
ヤスコ「(照れ笑いして)やっぱり、私は私のままでええねんな。うん、そ
 うや」

                               (了)

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