映像シナリオ「君の印」
概要:某コンクール応募作品として執筆。落選作品。尺は約12分。2009/09/06作。
(万葉集が題材なのでどのコンクールかわかるかも。著作権に関しては調べてもわからなかったので、おそらく落選作品は大丈夫かと投稿。NGなら消しますのでお知らせください。)
”思はぬに妹が笑まひを夢に見て 心のうちに燃えつつぞ居る”
(大伴家持)
訳・思いがけず君の笑顔を夢に見て恋の炎が抑えきれなくなっている
〇登場人物
葉山サトシ(24)フリーター
工藤シズル(24)サトシの幼馴染
安部カズユキ(24)サトシの幼馴染
工藤トキエ(56)シズルの母親
葉山エツコ(58)サトシの母親
上司
他
〇 サトシの部屋(夕)
薄暗い一人暮らしの部屋。
コンビニの弁当のゴミや求人情報誌で散らかっている。
テレビの天気予報が流れており、関東の天気を説明している。
天気予報士「気温が下がり、明日から関東では雪が降る模様です」
ベッドに寝転がり、ぼーっと天井を見つめている葉山サトシ(24)。
サトシの携帯電話が鳴る。
サトシ、携帯電話を手に取り、めんどくさそうに出る。
サトシ「もしもし?」
サトシ、電話の向こうの声を聞き、驚いたようにベッドから起き上が
る。
サトシ「えっ……シズルが……?!」
驚いた表情になるサトシ。
〇 電車内
奈良へと向かう電車の中。
数人の乗客の中に、サトシが暗い表情で、窓の外の景色をぼーっと眺
めている。
サトシの足下には旅行鞄。
上着のポケットから携帯電話を取り出すサトシ、携帯電話を操作して
留守番電話を聞く。
音声ガイドの声「保存されたメッセージは一件です」
ピーという音の後に聞こえてくる工藤シズル(24)の声。
シズル「もしもし……サトシ? シズルです。サトシがこの町を出て以来、
久しぶりやね。実はちょっと話したいことがあって、一度会われへんかな
と思って……連絡待ってます……」
そこでシズルからのメッセージが切れる。
静かに携帯電話を閉じるサトシ、暗い表情で再び窓の外を眺める。
〇 工藤家・居間
仏壇に手を合わせ、シズルの遺影を見つめるサトシ。
工藤トキエ(56)、所々錆付いた長方形の大きな箱を持って入ってく
る。
トキエ「あの子の物片付けてたら、こんなん出てきたんよ」
箱をわたすトキエ。
サトシ、じっと箱を見つめる。
〇 同・縁側
サトシ、縁側に座り、トキエから貰った箱を開ける。
中には写真やノート、考古学に関する本や資料が入っている。
制服姿のサトシ、シズル、安部カズユキの三人が笑っている写真。
使い込んだノート。
懐かしそうに眺めるサトシ、その中から最もよく使い込まれた一冊の
ノートを手に取り、パラパラとめくる。
中には考古学について勉強した跡が残っている。
サトシ、ふとノートの最後のページをめくると、歌が一首書かれてい
るのに気づく。
“思はぬに妹が笑まひを夢に見て 心のうちに燃えつつぞ居る”
それをじっと見つめるサトシ。
〇 平城京跡・資料館(回想)
展示品をじっと眺めているサトシ(18)とシズル(18)。
シズル、楽しそうに眺めているサトシの横顔を見つめる。
視線に気づきシズルの方を見るサトシ、シズルと目が合うと首を傾げ
ながら微笑む。
シズル、慌てて視線をそらす。
サトシ、不思議そうに首を傾げ、再び展示品を楽しそうに眺める。
少し嬉しそうにしながら、ちらっとサトシを見るシズル。
〇 工藤家・居間
シズルの遺影をじっと見つめるサトシ。
サトシ、シズルの遺影に向かい、静かに話しかける。
サトシ「話って何やったんや……なぁ、シズル」
そこへ安部カズユキ(24)が入ってくる。
サトシと共にシズルの遺影をじっと見つめるカズユキ。
カズユキ「交通事故とはな……まさか、あのシズルがこんな早く逝くなんて
……なんか呆気ないよな……」
サトシ、無言で遺影を見つめたまま。
そんなサトシを見て溜息をつくカズユキ。
〇 平城京跡・資料館(回想)
シズル、一人夢中になって展示品を見ているサトシを遠目でぼーっと
見つめている。
手に持っていたノートの最後のページに歌を書き込むシズル。
カズユキ(18)がシズルの後ろからノートを覗き込む。
カズユキ「思いがけず君の笑顔を夢に見て恋の炎が抑えきれなくなってい
る……か」
驚いて後ろを振り返るシズル。
カズユキ「こんなに想ってる子がおるのに、あいつは何してんねん」
遠くのサトシを見て呟くカズユキ。
シズル「いいねん。あいつは子どもん時からあんなんやったし……それでい
いねん」
シズル、恥ずかしそうにしながら、サトシをじっと見つめる。
〇 近鉄奈良駅前(夕)
多くの人が行き交う駅前。
カズユキから少し遅れて歩いているサトシ、カズユキに話しかける。
サトシ「なぁ……」
カズユキ「ん?」
立ち止まり振り返るカズユキ。
サトシ、立ち止まり思いつめたような表情でカズユキに尋ねる。
サトシ「……シズルって何者?」
カズユキ「はぁ?! 何をいきなり言ってんの?」
驚いた表情でサトシを見るカズユキ。
サトシ「いや、なんか俺、シズルのこと何も知らん気がして……あいつ、今
まで何してたん?」
じっとサトシを見るカズユキ。
カズユキ「それはお前が探し出すべきことちゃう?」
サトシ「え……?」
カズユキ「俺が説明するべきではないってこと。じゃあな」
カズユキ、さっさと去って行く。
サトシ、呆然とカズユキの後ろ姿を見つめる。
〇 葉山家・居間
サトシの実家。
居間にあるソファに寝転がりぼーっと天井を見つめるサトシ。
葉山エツコ(58)が入ってくる。
エツコ「アンタ、いつまでフラフラしてんの? 仕事は?」
サトシ「辞めた」
エツコ「辞めたってアンタ、いい加減にしなさいよ!」
ブツブツ小言を言うエツコ。
サトシ、うるさそうに起き上がり、居間を出て行く。
〇 近鉄奈良駅前(回想)
サトシ、大きな鞄を持って歩いている。
その後ろから急いで走って来るシズル。
シズル「待って、サトシ! 何でなん?!」
シズル、サトシの腕を掴む。
その手を振りほどくサトシ。
サトシ「もっと上を目指したいねん。ここでおるより、もっと良い方法があ
るはずや」
さっさと歩いて行くサトシ。
シズル「そんな……」
シズル、サトシの後ろ姿を悲しそうに見つめ立ちつくす。
〇 工事現場(回想・夜)
東京の中心部の道路工事現場。
上司に怒られながら働いているサトシ。
上司「そこのバイト! トロトロ動いてんじゃねぇよ!」
サトシ「すみません!」
汗だくになりながら必死に働くサトシ。
〇 サトシの部屋(回想・夕)
薄暗い一人暮らしの部屋。
コンビニの弁当のゴミや求人情報誌で散らかっている部屋で一人、ぼ
ーっと座っているサトシ、携帯電話の着信履歴を見ると、シズルから
の着信履歴がある。
暗い表情のサトシ、携帯電話を閉じると、そのままベッドに寝転が
る。
〇 住宅街・道
不機嫌そうな表情で俯きながら歩くサトシ、思いつめたように顔を上
げる。
〇 工藤家・玄関
一人玄関に立つサトシ、中からトキエが来ると会釈をする。
トキエ、サトシを中へ快く案内する。
〇 同・シズルの部屋
綺麗に片付けられた部屋。
サトシを案内するトキエ。
トキエ「どうぞ、ゆっくりしていって」
サトシ「すみません」
サトシ、頭を下げる。
トキエ、軽く微笑み部屋を出て行く。
サトシ、部屋を見わたすと壁に写真が数枚飾られているのを見つけ
る。
その中の一枚に、遺跡発掘調査の現場で撮影された集合写真がある。
数名の調査員の中で微笑んでいるシズルの姿。
その写真を手に取り、じっと見つめるサトシ、写真を戻そうとした
時、写真の裏に何か書かれているのに気づく。
写真の裏には、シズルの字で“こっちでも楽しいことはある”と書かれ
ている。
サトシ、それを見て一瞬寂しそうな表情になるが、すぐに微笑んで静
かに呟く。
サトシ「そうやな……そうやったんやな」
〇 平城京跡・広場(回想)
発掘調査をしているところを見学しているサトシとシズル、楽しそう
に笑い合う。
〇 工藤家・シズルの部屋
壁に写真を戻すサトシ、窓の方を向く。
シズルの部屋の窓から見える遺跡を見つめるサトシ、明るい表情をし
ている。
(了)