映像シナリオ「河童探し」
概要:某コンクール応募作品として執筆。落選作品。尺は約30分。2012/10/22作。
(作中に場所が書かれているため、どのコンクールかわかるかも。著作権に関しては“入賞作品は主催者に帰属”とのみしか書かれていないので、おそらく落選作品は大丈夫かと投稿。NGなら消しますのでお知らせください。)
〇ログライン
それぞれ寂しい大人たちがいるはずもない河童を探して寂しさを紛らすコメディ。
〇登場人物
吉村慎一(32)番組ディレクター
山岡悦子(40)落ちぶれたタレント
伊藤健司(34)番組カメラマン
金沢勇(78)河童を探す老人、吉村の祖父
金沢千代(72)吉村の祖母
藤本和樹(28)役場の案内人
他
〇 河口湖・湖畔
湖に向かって立つ金沢勇(78)。
麦わら帽子にリュックを背負っている。
金沢、竹の竿の先につけた紐を湖面に垂らし、じっと見つめている。
〇 河口湖駅・駅前
河口湖駅前外観。
探検服姿の山岡悦子(40)、腕組みをしながら仏頂面で立つ。
カメラを構えて駅の外観を撮る伊藤健司(34)。
時計を気にしながら辺りを見まわす吉村慎一(32)。
吉村の手には、『ミニコーナー・山岡悦子探検隊・河口湖河童探しの
巻』と表紙に書かれた台本。
一台の車が吉村たちの前に止まり、藤本和樹(28)がへこへこしなが
ら降りてくる。
藤本に案内され車に乗り込む吉村たち。
藤本、車に乗り込み発進させる。
〇 車の中
藤本が運転する車。
助手席に座る悦子、後部座席に吉村、カメラを回す伊藤が座ってい
る。
悦子「河童探し名人って、どんな方なんですか?」
藤本「ただの偏屈なじいさんですよ。金沢さんっていうね」
吉村「金沢?」
吉村、眉間にしわを寄せ、首を傾げる。
〇 河口湖・湖畔
金沢、竹竿を垂らしながら、痛そうに腰をトントン叩く。
遠くに吉村たちの車が走ってくるのが見える。
金沢、竹竿をあげようとするが、水中の藻に引っかかりなかなかあが
らない。
金沢、必死に竹竿を引っ張るが、足を滑らせ、そのまま湖へ落ちる。
× × ×
路肩に止まる車。
車から降りる吉村、伊藤、悦子。
吉村、時計を見て辺りを見まわす。
藤本、運転席の窓から顔を出す。
藤本「じゃあ僕は役場に戻ります。何かあったら連絡ください」
吉村「ああ、ちょっと、名人は……?」
藤本、さっさと車を発進させる。
吉村、去っていく車を見てため息をつく。
伊藤、カメラを構え、河口湖の湖面を見わたす。
何かを見つけ動きを止める伊藤、隣にいる吉村の肩をバンバン叩き、
河口湖の方を指さす。
伊藤が指さした方を見る吉村と悦子。
バシャバシャと水しぶきをあげ、溺れている人影(金沢)。
吉村、慌てて悦子と伊藤に撮影開始の指示を出す。
カメラを回す伊藤。
悦子「あ、あれは何でしょう!」
吉村、悦子に行けと合図。
悦子、金沢の方へ慌てて走って行く。
悦子の後を追う伊藤と吉村。
湖のそばまで来て立ち止まる吉村たち。
吉村、口パクで「河童」と悦子に言う。
悦子「か、河童です! 河童が出ました!」
金沢「た、助けてくれ!」
悦子、困惑した表情で吉村を見る。
吉村、悦子に続けてと合図。
悦子「人です! 人が溺れています!」
金沢、吉村たちに手を振るように、助けを求める。
金沢「助けてくれ!」
悦子「なんということでしょう! 人が河童に引きずり込まれています!」
金沢「は、早く! あっぷ、助けてくれ!」
悦子、吉村を見る。
吉村、続けろと合図。
じっとカメラを回す伊藤。
悦子「恐ろしい! 河童の前で人間はなんて無力なんでしょう!」
金沢、溺れているような泳ぎをしながら、徐々に岸に近づいてくる。
金沢「な、何してる?! 早く助けろ!」
金沢、腹這いになって岸に上がる。
金沢「か、かっ、はぁ、かぱ、はぁはぁ」
金沢、うわごとを言いながら咳き込む。
金沢に駆け寄る吉村たち、金沢を取り囲み、覗き込む。
吉村「じいちゃん?!」
吉村、仰向けに寝転がる金沢に近づく。
悦子と伊藤、吉村を見る。
金沢の傍らに、竹竿に紐をつけた先にナスビがついたものが落ちてい
る。
〇 金沢家・台所
金沢千代(72)がキュウリの浅漬けを切っている。
千代の横に立つ吉村。
吉村「なんで言ってくれなかったの?」
千代、黙々と切ったキュウリを、すりおろした長芋をかけたご飯の上
にのせている。
吉村「河童探し名人。じいちゃん、いつからそんな……」
千代「慎一、待っとけよ。もうすぐできるからな」
吉村、千代の横顔を見てため息をつき、台所から出ていく。
〇 金沢家・居間
こじんまりした居間。
食器棚の上に、畑で子供の頃の吉村と麦わら帽子をかぶった金沢が写
っている写真がある。
小さなちゃぶ台を囲み、吉村、伊藤、悦子、金沢が座っている。
千代、お盆にかっぱめしをのせ入ってくる。
千代「はいよ、かっぱめしじゃ。食え食え」
ちゃぶ台の上に人数分のかっぱめしをどんどん置いていく千代。
吉村「ばあちゃん、ごめん、今撮影中……」
吉村、千代を止めようとするが、千代、お構いなしに置くと去る。
悦子、自分の前に置かれたかっぱめしを手に取りリポートを始める。
悦子「わぁ、これがかっぱめし。すごくおいしそうですね~」
悦子、かっぱめしを一口食べる。
悦子「ん~キュウリの浅漬けがサッパリしていておいし~い」
吉村「あの、悦子さん……グルメリポはいいです」
悦子「あら、ごめんなさい」
悦子、慌てて箸を置く。
吉村、ため息をつくと、かっぱめしをちゃぶ台の隅の方へ寄せる。
伊藤、カメラを構え金沢を撮っている。
金沢、首にタオルをかけ、煙草を吸う。
金沢「いやぁ、危ないとこじゃったわ」
悦子「あんな所で何を?」
金沢「河童をな、釣ろうとしたんじゃが」
金沢、傍らに置いていた竹竿を持つ。
金沢「これを使ってな」
竹竿についた紐の先にナスビがくくりつけられてる。
悦子「あれ? 河童といえばキュウリじゃないんですか?」
金沢、ちゃぶ台のかっぱめしを持つ。
金沢「キュウリはわしの好物じゃ。河童になんぞくれてやるか」
かっぱめしを食べ始める金沢。
悦子「え? あ、でもやっぱり河童の好物といえばキュウリですよね?」
金沢、かっぱめしのキュウリを箸でつまみ上げる。
金沢「べつにキュウリだけじゃねえ。アイツは何でも食うぞ」
悦子「他には何を?」
金沢「カボチャ、ゴマの茎……ああ、あと人間じゃな」
悦子「人間?!」
悦子、神妙な表情でカメラを見る。
悦子「どうやら河童は人を食べる……恐ろしい生き物のようです」
かっぱめしをかきこみ立ち上がる金沢。
金沢「さて、河童探し再開するぞ。ついてきなさい」
さっさと部屋を出て行く金沢を、呆然と見送る吉村、伊藤、悦子。
〇 金沢家・畑
金沢が育てている小さな畑。
キュウリやナスビなどの夏野菜が育っている。
ホースで水を撒く金沢の横に立つ悦子。
その様子を撮影する伊藤と吉村。
金沢「ここで昔、アイツが野菜を盗ってたのを見たんじゃ」
悦子「河童はどんな姿を?」
金沢「子供くらいの大きさじゃったかな。一瞬しか見えんかったがな」
悦子「それ以来、河童を捕まえようと?」
金沢、うなずく。
悦子「河童捕まえたらどうするんですか?」
金沢「飼うんじゃ」
悦子「か、飼う?!」
金沢「ばあさんと二人じゃここの生活が寂しくてな。それに河童膏ってのが
あってな」
悦子「河童膏? なんですか、それ」
金沢「どんなケガにも効く薬じゃ。それがあれば、もう医者いらず。安泰じ
ゃ」
豪快に笑う金沢、笑った拍子にホースの水が吉村の顔にかかる。
慌てて顔の水を拭き取る吉村を横目で見る伊藤。
〇 河口湖・湖畔
吉村、竹竿の紐の先にキュウリをくくりつけている。
金沢「コラッ! なにしておるんじゃ!」
吉村を怒鳴る金沢。
金沢、ナスビをくくりつけた竹竿を持っている。
吉村「キュウリつけてるんだけど……」
金沢「キュウリはわしが食べるもんじゃ! 勝手に使うな!」
金沢、吉村から竹竿を取りあげる。
吉村「だって、やっぱり河童にはキュウリじゃん。画的にもキュウリの方
が……」
吉村と金沢の喧嘩に興味なさそうに、撮影の準備をしている伊藤と悦
子。
金沢、地団駄を踏む。
金沢「だめじゃ!」
吉村「まあまあ、そう言わずに」
吉村、金沢をなだめる。
しかめっ面の金沢。
吉村「よし! さっさと始めましょう!」
悦子、湖を背にして立つ。
伊藤、カメラを構えて悦子を撮影する。
吉村、伊藤の横に立ち、悦子に合図。
悦子、神妙な顔つきでカメラに話す。
悦子「果たして、我々は河童を釣りあげることができるのでしょうか」
伊藤、カメラを湖の方へ向ける。
竹竿からキュウリを取りはずそうとしている金沢が映る。
吉村「じいちゃん!」
吉村、金沢に駆け寄る。
吉村「もう! いいじゃん、一本くらい」
金沢「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!」
ため息をつく吉村。
吉村「あとで、新しいの買ってあげるから」
吉村、金沢を両肩をポンポンと叩く。
金沢、渋々キュウリをくくりつけた竹竿を吉村にわたす。
× × ×
金沢、竹の竿の先につけた紐を湖面に垂らし、じっと見つめている。
疲れた様子で座り込んでいる悦子。
カメラのバッテリーを交換してる伊藤。
ため息をつき、腕時計を見る吉村。
無言で吉村を見る悦子と伊藤。
〇 お食事処・店内
河口湖の湖畔近くにある家族で経営している小さな食事処。
カメラを回す伊藤、その横にいる吉村。
悦子、金沢が席に着いている。
吉村たちのテーブルにかっぱめしを運ぶ店員。
店員「はい、かっぱめしね」
店員、てきぱきとかっぱめしを吉村たちの前に置いていく。
吉村、伊藤、悦子、それぞれ顔を見合わせる。
真っ先にかっぱめしを食べ始める金沢。
悦子、困った様子で吉村を見る。
吉村、渋々と頷く。
悦子、自分の前に置かれたかっぱめしを手に取りリポートを始める。
悦子「わぁ、これがかっぱめし。すごくおいしそうですね~」
悦子、かっぱめしを一口食べる。
悦子「ん~キュウリの浅漬けがサッパリしていておいし~い」
吉村、慌てて悦子にバツサインをする。
サインに気づき静かに食べ進める悦子。
金沢「腹減ってるじゃろ? お前らも食え」
吉村と伊藤にかっぱめしを勧める金沢。
吉村と伊藤、困ったように顔を見合わせる。
〇 河口湖・湖畔(夕)
がっくりと肩を落としている吉村。
金沢、竹竿を片付けている。
悦子、痛そうに腰をトントン叩く。
カメラを片付けている伊藤。
吉村、金沢に近づく。
吉村「ねぇ、じいちゃん。本当に河童は見つかるの?」
金沢、自信満々に頷く。
金沢「明日は凄いもの撮らせてやるぞ」
吉村、不安そうに金沢を見る。
〇 金沢家・居間(夜)
疲れた様子でちゃぶ台の前に座る吉村、伊藤、悦子、金沢。
千代、お盆にかっぱめしをのせ入ってくる。
千代「はいはい、お疲れさん。かっぱめしじゃ。食え食え」
ちゃぶ台の上にかっぱめしをどんどん置いていく千代。
吉村、伊藤、悦子、それぞれ顔を見合わせる。
真っ先にかっぱめしを食べ始める金沢。
吉村、伊藤、悦子、嫌そうな顔でかっぱめしを見つめる。
金沢「どうした? はよ、食え食え」
吉村「うん……」
吉村、伊藤、悦子、それぞれ苦笑いしながら顔を見合わせる。
〇 民宿・洗面所(早朝)
吉村、眠そうな顔で歯を磨いている。
伊藤、あくびをしながら吉村の隣の洗面台の前に立ち、髭を剃り始め
る。
吉村、口をゆすいだ後、濡れた手で顔を軽く叩き始める。
伊藤、髭を剃る手を止め、怪訝な顔で吉村を見る。
伊藤の視線に気づく吉村。
吉村「顔洗ってるんです」
伊藤、じっと吉村を見る。
吉村、念入りにタオルで顔を拭く。
吉村「顔に水かかるの嫌なんですよね」
吉村、苦笑い。
伊藤、横目で吉村を見ると、再び髭を剃り始める。
〇 河口湖・湖畔(早朝)
人気のいない湖畔にコソコソと走ってくる金沢。
周りに人がいないのを確認すると、割れた茶碗や皿の欠片を辺りにま
く金沢。
× × ×
撮影を始める吉村、伊藤、悦子、金沢。
金沢、落ちている皿の欠片を見つける。
金沢「こ、これは?!」
悦子「え? 何ですか?」
金沢、皿の欠片を拾い上げる。
金沢「河童じゃ……河童の皿じゃよ」
悦子「えっ、河童の?!」
金沢と悦子、しげしげと皿の欠片を見つめる。
金沢と悦子を撮る伊藤。
吉村、呆れたように腕組みをしている。
〇 天上山・森の中
先頭を歩く金沢、悦子を撮影する伊藤。
最後尾を歩く吉村。
金沢、悦子に気づかれないようにポケットからピンポン玉を取り出
す。
金沢「こ、これは?!」
金沢、急に座り込み、ピンポン玉を見つめる。
悦子「どうしました?」
悦子、金沢を見る。
怪訝そうな表情でピンポン玉を見つめる金沢。
悦子「これって、あの、えーと、河童が抜いた……」
金沢「尻子玉じゃ」
金沢、目を見開いてピンポン玉を見つめる。
金沢「見ろ! 尻子玉じゃ! おそらくこれは、この辺りの狸のものじゃろ
う」
悦子「本当ですか?!」
金沢と悦子、しげしげとピンポン玉を見つめる。
金沢と悦子を撮る伊藤。
呆れた様子で金沢と悦子を見る吉村、伊藤と目が合い、苦笑いする。
〇 金沢家・玄関先(夕)
玄関先でカメラを回す伊藤、腕組みをしている悦子、腕時計を気にす
る吉村。
金沢、家から大量の焼酎に漬け込んだバナナの罠を持ってくる。
金沢にカメラを向ける伊藤。
金沢「さあ、これを山の中に仕掛けるぞ」
悦子、顔をしかめて鼻を押さえる。
悦子「あの、我々は河童を探してるんじゃ……」
金沢「アイツは山にも潜んでるかもしれん。見たじゃろ、尻子玉を」
悦子「でも、その罠って……」
金沢、吉村やカメラを回している伊藤にもバナナの罠をわたす。
戸惑う吉村と伊藤。
金沢、大量のバナナの罠を持ち、無言で山の方へ歩いていく。
バナナの罠を持って立ちすくむ吉村たち。
悦子、鼻を押さえながらバナナの罠を指先で掴む。
悦子「ねえ、何を探してるの? 私たち」
バナナの罠を見て、ため息をつく吉村。
〇 天上山・森の中(深夜)
悦子、手にバナナの罠を持ち歩いている。
カメラを回す伊藤。
その後ろに、残りのバナナの罠を持って歩く吉村。
悦子「果たしてこの罠で河童を捕まえることが……きゃあっ!」
悦子、滑って尻もちをつく。
悦子「もうやだ~」
お尻をさすりながら立ち上がる悦子。
悦子「こんなことしても無駄よ!」
悦子、吉村にバナナの罠を押し付けると、プンプンといった様子で山
を下りていく。
ため息をつく吉村。
吉村「とりあえず、この罠だけでも仕掛けてから戻りましょう」
伊藤、カメラを止める。
× × ×
早朝。
ダルそうに立っている吉村、伊藤、悦子。
罠を仕掛けた場所から走ってくる金沢。
金沢「お~い、いたぞいたぞ!」
すかさずカメラを構える伊藤。
悦子「いたんですか?!」
身構える悦子と吉村。
金沢、両手にカブト虫やクワガタを持って自慢げに悦子に見せる。
呆れたように金沢を見る吉村、伊藤、悦子。
吉村、持っていた台本を地面に叩きつける。
吉村「いい加減にしてくれよ!」
金沢、手に持っていた虫を落とす。
吉村「やっぱり河童なんていないじゃん!」
暗い表情で俯く金沢。
気まずそうに顔を見合わせる伊藤と悦子。
〇 民宿・吉村の部屋(夜)
携帯電話で電話している吉村。
吉村「すみません、まだ良い画が撮れなくて、はい……はい……わかってま
す」
電話を切り、ため息をつく吉村。
〇 民宿・大浴場(夜)
吉村、シャンプーハットをかぶり、頭を洗い始める。
疲れた様子で入ってくる伊藤、風呂桶を持つ。
伊藤、吉村に気づくと持っていた風呂桶を落とす。
その音に振り返る吉村、伊藤に気づく。
吉村「ああ、お疲れ様です」
伊藤、変なものを見る目で吉村の頭を見る。
吉村、シャンプーハットを上目で見る。
吉村「え? 変ですか?」
伊藤、頷く。
首を傾げる吉村。
正面を向き鏡を見る吉村、じっと自分の姿を見てハッとする。
〇 河口湖・湖畔
人気のない物陰に集まる吉村、伊藤、悦子。
緑色の全身タイツに頭にはシャンプーハット、河童の仮装をした吉
村。
吉村「……大丈夫ですかね」
吉村、困惑した表情。
愛想笑いを浮かべる悦子、救いを求めるかのように伊藤を見る。
伊藤、自信なさそうに頷く。
悦子「子供の頃のあなたを河童と間違えたんでしょ? なんとかなるわよ」
悦子、伊藤を連れてさっさと去って行く。
不安そうに自分の姿を見る吉村。
× × ×
ナスビがついた竹竿を持って歩いてくる金沢。
金沢、湖のほとりに立ち、河童を釣る準備をする。
悦子と伊藤、金沢のそばで撮影の準備をする。
悦子、わざとらしく顔を上げ、金沢の肩を叩く。
顔を上げる金沢、悦子が指さす方を見ると、物陰から、河童の姿の吉
村が走って出てくる。
金沢、竹竿を放り投げ、河童の姿の吉村を追いかける。
金沢の後を追う悦子と伊藤。
〇 河口湖町
町内を逃げ回る吉村。
追いかける金沢、悦子、伊藤。
すれ違う人々が何事かと振り返る。
× × ×
役場前で洗車している藤本、走っている金沢、悦子、伊藤に気づく。
藤本「やあ! 撮影順調ですか?」
金沢たちが走っていく先を見る藤本。
河童姿の吉村が横切る。
藤本「河童?!」
藤本、ホースを放り投げ、金沢たちの後を追う。
× × ×
逃げる吉村。
追う金沢、悦子、伊藤、藤本。
その後に続々と町中の人々が加わっていく。
〇 河口湖・湖畔
吉村、湖畔に追いつめられる。
息を切らせ走ってくる金沢、悦子、伊藤。
その後ろには、町中の人々が続々と続いている。
じりじりと吉村に近づいていく金沢。
悦子「ついに、我々は河童を追いつめました!」
緊迫した表情でリポートする悦子。
カメラを回す伊藤。
湖の淵でオロオロする吉村、意を決した様子で湖に飛び込む。
悦子「あっ! 河童が! 湖へ逃げていきます!」
伊藤、驚いた様子でカメラのファインダーから目を離す。
水しぶきをあげて溺れる吉村、どんどん岸から遠ざかっていく。
金沢、湖に飛び込む。
金沢、溺れているような泳ぎ方で吉村を追いかける。
吉村と金沢の姿がどんどん小さくなる。
心配そうな表情の悦子と伊藤。
身を乗り出す藤本、後ろから町内の人々が押し寄せてくる。
藤本「危ないから押すな、押すな!」
押されて湖に落ちる藤本。
藤本「押すなって言っただろ~もう。ん?」
藤本のそばにシャンプーハットが流れてくる。
× × ×
人気のいない湖畔。
金沢、吉村を支えながら岸に上がってくる。
吉村の頭のシャンプーハットはない。
咳き込む吉村の背中をさする金沢。
吉村、気まずそうに金沢を見る。
吉村「じいちゃん、やっぱり河童は……」
金沢、吉村の肩をポンと叩き、微笑む。
吉村、金沢をじっと見つめ、微笑む。
〇 金沢家・洗面所(朝)
吉村、バシャバシャと豪快に顔を洗う。
タオルで顔を拭き、鏡を見る吉村。
〇 同・居間(朝)
千代、ちゃぶ台に三人分のかっぱめしを置いている。
居間に入ってくる吉村、ちゃぶ台の前に座る。
吉村「あれ? じいちゃんは?」
千代「いつものとこじゃ。すぐ帰ってくるじゃろう」
千代、ちゃぶ台の前に座ると、リモコンでテレビをつける。
テレビにはグルメリポートをしている悦子が映る。
悦子「カメラさん、こっちこっち。すごくおいしそうですね~」
カメラを構える伊藤が別のカメラに見切れる。
〇 河口湖・湖畔(朝)
湖に向かって立つ金沢。
麦わら帽子にリュックを背負っている。
金沢、竹の竿の先につけた紐を湖面に垂らし、じっと見つめている。
朝日に照らされた金沢の影が河童のように見える。
(了)