映像シナリオ「青い春に楽しむ音」
概要:シナリオ学校の自由課題にて執筆。尺は約48分。2009/02/25作。
〇登場人物
豊島茜(17)淀山高校三年生・トランペット担当
渡辺千尋(17)同・コントラバス担当
徳井直人(17)同・ピアノ担当
岡下健一(17)同・ドラム担当
宮川奈美(16)淀山高校二年生・アルト&テナーサックス担当 真美の双子
の姉
宮川真美(16)同・バリトンサックス担当 奈美の双子の妹
山本京子(17)淀山高校三年生・トロンボーン担当
松村エリカ(17)同・元フルート担当
田中(56)楽器店・店長
茜の父母
茜の担任
〇 淀山高校・全景(夕)
夕日に赤く染まる校舎。
放課後、部活動に専念する学生たちの声が響いている。
〇 同・階段
階段をかけのぼる渡辺千尋(17)。
〇 同・廊下
廊下を走る千尋、教室の扉の前に来ると息を整え、静かに扉を開け教
室に入る。
教室のプレートには音楽室の文字。
〇 同・音楽室
静かに入ってくる千尋、室内を見わたす。
誰もいない音楽室。
教壇の近くにグランドピアノが置かれ、机が整然と並べられている。
教室の前方にある隣の準備室につづく扉が少し開いており、中からメ
トロノームの音が微かに聞こえてくる。
机の上に鞄を置き、準備室の扉に近付く千尋。
〇 同・音楽準備室
準備室をそっと覗く千尋。
こじんまりとした室内、棚には楽譜や楽器が並んでおり、少し埃っぽ
い。
その中で、机と椅子を並べ座ってうたた寝をしている豊島茜(17)が
いる。
傍らに譜面台を置き、譜面台の上には教則本があり、机の上にはトラ
ンペットとメトロノームが置かれている。
メトロノームが時計の秒針と同じ速さでカチカチと鳴っている。
茜にそっと近付く千尋。
千尋、譜面台の上の教則本を手に取り、それで茜の頭を叩く。
ビクッとして飛び起きる茜、痛そうに頭をさする。
茜「いった~! もう何すんねん!」
からかうように笑う千尋。
千尋「あんたが練習もせんと寝てるからやろ~」
茜、眠そうに目をこすり欠伸をする。
茜「だって、ずっと一人で基礎練ばっかやってたら眠たくなるで」
千尋「それでも基礎練は大事やで」
千尋、棚からコントラバスの弓を取り出し、弓の毛を張る。
頭をさすりながら憮然とした表情の茜。
茜「……なぁ、千尋。うちら、このままでいいんやろか?」
千尋、無言で茜の方を見る。
真剣な表情の茜。
茜「今年でもう卒業やん。今まで好き勝手にやってきたけど、やっぱり二人
じゃ限界がある……もっと部員集めてさ、最後に合奏の一つや二つでもし
ようや」
困惑した表情の千尋。
千尋「そうやなぁ……でも、今さら見つかるかなぁ」
茜「いや、意外と楽器できる人は多いやろ。中学の時、吹奏楽部やった人と
かおるはずやって。初心者でもこの際かまへん。まあ、問題はうちらの部
の認知度やな……」
苦笑いする茜、腕を組み考え込む。
千尋、準備室にある楽器を見わたす。
トロンボーン、サックス、ドラムセット等、様々な楽器が置いてあ
る。
それぞれの楽器はケースに入っていたりカバーがかけられているが、
うっすらと埃がかぶっている。
千尋「楽器はこんなにあるのになぁ……それにしても、ほんま埃っぽいな
ぁ、この部屋」
千尋、咳き込みながら、準備室の窓を開け外を眺める。
運動場では野球部が練習している。
千尋、ぼんやりとそれを眺めていると、徳井直人(17)がギターを背
負って一人でとぼとぼ歩いているのを見つける。
千尋「……なぁ、徳井ってギターやってたん知ってた?」
茜「え~? 知らんで、そんなん」
トランペットの手入れをしている茜、少しめんどくさそうに答える。
千尋「ほら、あそこ」
千尋、窓の外を指差す。
茜、窓に近付き外を見る。
茜「あ、ほんまや。徳井のやつ、いつの間に始めてん!」
ぼーっと徳井の姿を眺める茜と千尋、思いついたように顔を見合わせ
ると、ニヤリと笑う。
〇 同・廊下
次の日の放課後。
帰り支度をした生徒たちで賑わっている。
三年三組の教室からギターを背負った徳井が出てきて帰ろうとしてい
る。
そこへ突然、茜と千尋がやって来て、徳井を捕まえる。
茜「徳井、確保!!」
徳井「えっ?! 何っ何っ何っ?!」
茜と千尋、徳井を引っ張って行く。
何もわからず連れて行かれる徳井、オロオロしている。
〇 同・音楽室
茜と千尋、徳井を連れて入ってくる。
徳井「何すんねん! お前ら」
徳井、少し怯えた目で茜と千尋を見る。
茜と千尋、ニコニコしている。
千尋「なぁ、あんたが持ってるそれ何なん?」
徳井が背負っているギターを指差す千尋。
徳井「え、ギターやけど……」
茜「いいもん持ってるやん。ちょっと弾いてみてくれへん?」
徳井「え~、何で弾かなあかんねん」
嫌そうにする徳井。
茜「ええから弾けって」
茜、徳井を睨み、低い声で脅す。
徳井「はい……」
怯える徳井、ソフトケースからギターを出す。
中から出てきたのはアコースティックギター。
徳井、おぼつかない手つきで弾き始めるが、聞くに堪えない音。
不快そうに顔をしかめる千尋と茜。
一通り弾いてみせた徳井、不安そうに茜と千尋を見る。
徳井「……どう?」
茜「いや……どうって言われても……ねぇ」
茜、困った顔で千尋の方を見る。
苦笑いをする千尋。
徳井「……やっぱりあかんのやろ? はっきり言ってくれてええで」
重々しく話し始める徳井。
徳井「実はな……昨日、彼女の前で歌うたいのバラッドを弾いてみてん。で
も、こんな調子やから彼女ドン引きでさ……振られてしまったわ……ピアノ
習ってたから、ちょっとは自信あってんけどなぁ……やっぱりギターは向
いてへんのかなぁ……」
しょんぼりと俯く徳井。
黙って聞いていた茜と千尋、気まずそうに顔を見合わせる。
沈黙する三人。
はっとする千尋、気まずい雰囲気を明るくしようと、引きつりながら
も笑顔で話す。
千尋「そ、そういえば、徳井ってピアノ習ってたんや。どれくらいやってた
ん?」
徳井「う~ん、幼稚園の時くらいから中学卒業までやってたから、八年くら
いかな」
茜「へぇ~、結構やってるやん。なあなあ、いっぺん弾いてみてや」
目を輝かせながら頼む、茜。
徳井「え~、しゃーないなぁ」
徳井、照れながらもピアノの所へ行き、弾き始める。
ギターと違ってかなりの腕前。
驚いた様子で顔を見合わせる茜と千尋。
徳井、得意気に茜と千尋の方を見る。
顔を見合わせていた茜と千尋、笑顔になり徳井の方を見る。
× × ×
ギターをケースに片付けている徳井。
徳井「吹奏楽?」
千尋「そうそう。うちらしかおらんくて困ってるねん。一緒にやらへん?」
徳井「えっ、でも俺ができるのピアノと……ギター……いや、ピアノだけや
で」
徳井、ギターを見て微妙な表情になる。
茜「大丈夫。この際何でもええねん」
徳井「何でもええって……」
苦笑いをする徳井。
茜「なっ! お願い!」
徳井「え~、でも俺、失恋してそんなことしてる気分ちゃうねん」
言い訳する徳井。
千尋、ニヤリと笑いながら言う。
千尋「徳井のピアノ弾く姿見たら、女子はイチコロちゃうかな~」
茜「そうやそうや! 絶対モテるで~。なっ! 一緒にやろうや!」
迷う徳井、少し照れながら言う。
徳井「う~ん、そうかぁ? まあ、それなら……」
茜・千尋「やったー!!」
茜と千尋、徳井が言い終わらないうちに喜ぶ。
徳井「でも、俺が入っても吹奏楽の曲するのは難しいやろ。トランペットと
弦バスにピアノ……せいぜいできてジャズっぽいのを適当にやってみるく
らいかなぁ」
千尋「それや! それでいこう!」
茜「ええなぁ、そういうのも。たしか、楽譜も準備室に結構あったし」
徳井「え……そんなんでええの?」
徳井の話も聞かず乗り気になっている茜と千尋。
置いていかれたように苦笑いする徳井。
千尋「そうなると、あとドラム叩ける人は欲しいよね。誰か心当たりな
い?」
考え込む茜と千尋。
徳井がぼそっと言いだす。
徳井「俺、ドラム叩ける奴知ってるで」
茜「ほんま?!」
千尋「誰なん誰なん?!」
徳井、ニヤリと笑う。
〇 同・体育館裏
次の日の昼休み。
茜、千尋、徳井の三人が体育館裏の壁にもたれている。
千尋「どんな人なん? その岡下って」
徳井「中学の時、吹奏楽部で打楽器やってた奴やねん。大太鼓しか叩かんっ
ていう変な奴なんやけどな、まあ、なんとかなるやろ」
茜「大丈夫なんか、そいつ」
茜、疑いの目で徳井を見る。
そこへ岡下健一(17)が不安そうな様子で近付いてくる。
徳井「お、来たで来たで」
岡下「何や~?」
のっそりと喋る岡下、警戒したように徳井や茜たちを見る。
徳井「ちょっと相談があるねんけどな」
岡下「え~、金なら持ってへんで~」
泣きそうになりながら答える岡下。
茜「いや、べつにあんたにたかってるんとちゃうよ」
岡下「そんなら、何や~?」
千尋「うちらでなんていうか、バンドしようって言ってるねんけど、ドラム
叩いてほしいなぁと思って」
岡下「え~? ドラム~?」
困った表情の岡下。
茜たち三人、岡下の喋り方にちょっとイライラしているが、それを顔
に出さないようにして引きつった笑顔になっている。
岡下「でも、僕、大太鼓しか叩かんって決めてるし~」
茜「ドラムやとスネアとシンバルも叩けるで。大太鼓ほどの大きさちゃうけ
ど、バスドラかてあるし、いろいろ叩けて楽しいやん」
岡下「え~、そんなになくてええわ。僕、大太鼓だけ叩けたらええねん」
困った様子の茜と千尋。
岡下「そういうことやから、僕、教室に戻るで~」
教室に戻ろうとする岡下。
徳井「ちょっと待て!」
徳井、岡下に近付き肩に手を置くと、じっと岡下の目を見て説得す
る。
徳井「お前が大太鼓一本なのは知ってる。でもな、お前それでいいんか?
もっと幅広くできてこそ、真の打楽器奏者とちゃうんか?」
茜、千尋に小声で話す。
茜「徳井のやつ、自分かて幅広くギターに手を出して、散々なことになって
るやん」
千尋「まあまあ、それはそっとしといたろ」
千尋、苦笑いしながら茜をなだめる。
茜と千尋に会話が聞こえてない様子の徳井、岡下の説得を続けてい
る。
徳井「悪いことは言わん。お前、この機会を逃したら、大太鼓をあほみたい
にドーンドーンって叩くしかできん、その程度の奴になるで」
岡下「え~、そうかなぁ~」
悩んでいる様子の岡下。
そんな岡下に強気で説得する徳井。
徳井「いいんか? そんな奴になってしまって。それで一生終わってしまう
んやで」
茜「私やったら嫌やなぁ、そんな一生」
千尋「うんうん」
追い討ちをかけるように説得に加わる茜と千尋。
岡下「え~」
困り果てる岡下。
〇 同・音楽室
放課後集まる茜たち。
それぞれ自分の担当する楽器の練習をしている。
その中に、ドラムセットを置いて練習をしている岡下がいる。
恐る恐る叩いている岡下だが、なかなか様になっている。
徳井「お前、結構上手いやん」
岡下、徳井に褒められて照れたように笑顔になる。
× × ×
練習を止めて机を囲み話し合いする茜たち。
千尋「とりあえず、今後の活動について話し合っていきたいと思うんやけ
ど、今後と言っても卒業までにできることで、皆なんかあるかな?」
勢いよく手をあげる茜。
茜「はい! 私やりたい曲あるねん!」
茜、鞄から楽譜を取り出し千尋たちに見せる。
楽譜の曲名にはアース・ウインド&ファイアーの『セプテンバー』と
書かれている。
呆れたように茜を見る徳井。
徳井「お前な、曲やるにしてもこの四人じゃ無理やろ」
茜「え~、でもやりたいもん」
徳井「そんなこと言っても無理なもんは無理や。まずは人数集めるのが先
や」
不満そうに徳井を睨む茜。
茜「じゃあ何か良い案でもあるん?」
徳井「い、いや、それはまだ考えてないねんけど……」
茜「はぁ? 何も考えてないのにえらそうなこと言える立場か!」
徳井「うるせ~!」
言い合いする茜と徳井。
千尋「まあまあ……」
茜と徳井をなだめる千尋。
岡下、ぼそっと発言する。
岡下「ま~、曲の練習は始めといて、人数集めるんやったら、ポスターとか
チラシを配ったらええんとちゃうかな~?」
黙って岡下の方を見る茜と千尋、徳井。
岡下「吹奏楽部の存在を知らせるのにも良いと思うし~……」
茜たちに見られ居心地の悪そうな表情の岡下。
納得したように顔を見合わせる茜と千尋、徳井。
〇 同・一年一組の教室
化学の授業中。
坦々と授業を進める化学教師。
真剣に聞いている生徒もいれば、居眠りやお喋りをしている生徒もい
る。
そんな中でこっそりと部員募集のフライヤーを書いている茜がいる。
〇 同・廊下
茜と千尋、フライヤーを廊下の掲示板に貼ったり、他の生徒たちに配
ったりしている。
徳井と岡下も手伝っている。
〇 同・音楽室
放課後集まる茜たち。
それぞれ自分の担当する楽器の練習をしている。
黙々とドラムを叩いている岡下、ふと視線を上げると、音楽室の扉が
開いているのに気付く。
その扉の隙間から、宮川奈美(16)が覗いている。
岡下「なぁ~皆……あれ~……」
岡下、扉の方を指差す。
茜たち、岡下が指差す方を見る。
恐る恐る覗いている奈美。
千尋「あの、何か用ですか?」
奈美「……吹奏楽部の方たちですよね?」
千尋「えぇ、まあそうですけど……」
もじもじしたように入ってくる奈美、手には部員募集のフライヤーを
持っている。
奈美「あのぉ……部員募集のフライヤーを見て、入部したいなぁと思っ
て……」
顔を見合わせる茜たち四人。
嬉しそうに奈美に駆け寄る茜、千尋、徳井。
岡下、それに遅れてのっそりと近寄ってくる。
茜、千尋、徳井、奈美を取り囲み、嬉しそうに質問攻めにしている。
その後ろから、岡下が覗き込んでいる。
茜「ほんま?! ぜひぜひ入って!」
千尋「経験者?」
奈美「はい、テナーサックスやってました」
徳井「マジで?! じゃあアルトと持ち替えできる?」
奈美「まあ、一応は……」
茜「やった!」
千尋「フライヤーの効果あったね!」
大喜びではしゃぐ茜、千尋、徳井。
真美「あ、でも私、自分の楽器持ってないんですけど……」
心配そうにする奈美。
笑顔で答える千尋。
千尋「ああ、そんなん大丈夫やで。準備室に腐るほど楽器あるから」
奈美、はしゃぐ茜たちを見て、次第に微笑む。
〇 同・廊下
掲示板に中間試験の順位が発表されている。
下位の方に茜の名前が書かれている。
〇 同・職員室
沢山の教師や生徒で賑わう職員室。
茜の成績表を見ながら注意する担任。
担任「おまえ、ちゃんと勉強してんのか? 今年受験やで」
茜、静かに担任の話を聞いている。
〇 同・廊下
一人とぼとぼ歩く茜。
放課後、部活動に専念する学生たちの声が響く中、様々な楽器の音が
微かに聞こえてくる。
茜、少し微笑み走りだす。
〇 同・階段
階段をかけのぼる茜、宮川真美(16)が上った先の廊下を横切るのを
見かける。
〇 同・廊下
急いで階段をのぼった茜、真美に駆け寄り声をかける。
茜「奈美ちゃん、もう練習始まってるで! さ、行こ行こ!」
真美「えっ? あの、ちょっと?!」
戸惑う真美の腕を掴み、強引に連れて行く茜。
〇 同・音楽室
真美を連れて、音楽室の扉を開ける茜。
練習している千尋、徳井、岡下、奈美が振り向く。
茜「ごめ~ん! 遅くなった……って、あれ? 奈美ちゃん?」
真美を連れてきた茜、練習していた奈美を見て驚く。
千尋、徳井、岡下、茜が連れてきた真美を見て固まる。
奈美「真美、どしたん?」
困惑した表情の真美、茜を見つつ話す。
真美「いや、ちょっと……」
奈美、驚いた表情の茜たちに冷静に真美を紹介する。
奈美「あ、双子の妹なんです」
真美「ども」
軽く会釈する真美。
驚く茜、千尋、徳井、岡下。
茜・千尋・徳井・岡下「えー!!」
× × ×
バリトンサックスを持たされて呆然と立ち尽くす真美。
真美「……なんで……ですか?」
真美を取り囲んでいる茜、千尋、徳井、奈美、にこにこと笑ってい
る。
その後ろでぼーっと立っている岡下。
千尋「ま、ええがな、ええがな」
真美「……はあ……」
気の抜けた返事をする真美。
〇 河川敷(夕)
淀山高校の近くにある河川敷。
下校途中の茜、河原の道をとぼとぼ歩いていると、微かにトロンボー
ンの音が聞こえてくる。
茜、音の方を見ると、川を跨ぐように走っている電車の高架下で、山
本京子(17)が川に向かいトロンボーンを吹いているのを見つける。
真剣に練習している京子、茜には気付いていない様子。
茜、興味津々に京子を見つめる。
〇 淀山高校・廊下
昼休みで賑わう廊下を歩く茜と千尋。
千尋「へぇ~、トロンボーンか。うちの高校の人かな?」
茜「さぁ、どうなんやろ。もしそうなら入ってほしいな」
ツンとした表情の松村エリカ(17)が歩いてくる。
エリカ、茜とすれ違う時に肩をぶつけるが、何も言わず去って行く。
茜「……なんやねん、あいつ」
エリカの後ろ姿を睨む茜。
〇 楽器店(夕)
街角にある小さな楽器店。
ディスプレイには様々な楽器が並べられており、店内には楽譜や備品
が大量に並んでいる。
茜、店長の田中(56)とレジで話している。
田中「自分と同じ制服来た子なら、たまに来るで」
茜「ほんま?!」
田中「たしかトロンボーンやってたな。中学の時、吹奏楽コンクールで全国
まで行ったとか。たいしたもんやで」
嬉しそうに田中の話を聞く茜。
〇 淀山高校・廊下
生徒たちが行き交う廊下を友人たちとはしゃぎながら歩く徳井、掲示
板の前で立ち止まる。
掲示板には各部の部員募集や夏期講習の案内が貼られている。
その中に文化祭のポスター。
ステージへの参加募集がされている。
× × ×
茜、千尋を連れて各教室を覗きながら歩いている。
千尋「そう簡単に見つかるかなぁ」
茜「この学校のどっかにおるんやから、いつか見つかるはず!」
千尋「そんなテキトーな……」
呆れ顔の千尋。
自信満々の歩いていく茜。
〇 同・屋上
疲れたように大の字で寝そべる茜。
そんな茜を屋上のフェンスにもたれながら見る千尋。
茜「疲れた~! やっぱそんな上手くいかんなぁ」
屋上から下を覗く千尋。
校舎裏の人気のない場所で京子とエリカとその友人がもめているのを
見つける。
千尋「なぁ、あいつ、あの時ぶつかってきたやつちゃう?」
茜、起き上がり校舎裏を見下ろす。
エリカ、京子に掴みかかっている。
千尋「うわぁ、あれってイジメちゃうん……ってちょっと?!」
茜、京子に気付くと急いで屋上の扉へ向かう。
〇 同・校舎裏
茜、京子とエリカがもめているところへ走ってくる。
エリカ、茜を睨む。
エリカ「何よ?」
茜「別に。この子に用があるだけ」
平然と答える茜、京子の腕を掴んでその場を去ろうとする。
エリカ「ちょっと?!」
驚くエリカを無視して、京子を連れて走り去る茜。
〇 同・廊下
千尋、息を切らせながら走っている。
茜と京子が向かい合って立っているのを見つけ、近付く千尋。
千尋「こんなとこにおった! もう、何してんの?」
俯き加減で立っている京子を見つめる茜。
京子「ごめん、ムリ」
あっさりと断る京子。
ポカンとする茜。
茜「は?! なんで?」
京子「興味ないもん」
茜「え、でも昔やってたんやろ?」
京子「うん……でも今はもうやめたし」
千尋、呆然と茜と京子を見つめる。
昼休み終了のチャイムが鳴る。
京子「そういうことやから」
さっさとその場を去る京子。
呆然と見送る茜たち。
〇 河川敷(夕)
下校途中の茜、河原の道をとぼとぼ歩いていると、微かにトロンボー
ンの音が聞こえてくる。
茜、音の方を見ると、川を跨ぐように走っている電車の高架下で、京
子が川に向かいトロンボーンを吹いているのを見つける。
真剣に練習している京子、茜には気付いていない様子。
茜、京子に近付こうとするがやめて、じっと見つめる。
〇 豊島家・茜の部屋
茜、音が響かないようにクッションに向けてトランペットの練習をし
ている。
『サマータイム』のトロンボーンソロを吹いているが、なかなか上手
く吹けない。
扉の向こうから茜の母の声。
茜の母「茜、ご飯よ~!」
茜「は~い!」
茜、名残惜しそうに練習を止め、部屋を出る。
〇 同・居間
食卓を囲み黙々と夕食を食べる茜と父と母。
テレビの音だけ聞こえている。
茜の母「あんた、ちゃんと勉強してんの?」
無言の茜。
茜の母「今年受験でしょ?」
茜「わかってる」
不満そうに答える茜。
茜の母「も~、お父さんからも言ってよ」
興味なさそうにテレビを観ている茜の父、母の言葉に反応しない。
そんな父を見て疲れたように溜息をつく茜の母。
黙々と食べる茜と父と母。
〇 同・廊下
音楽室前の廊下を歩く京子。
音楽室から茜たちが練習する音が聞こえてくる。
トロンボーンソロのいない『サマータイム』。
茜がトロンボーンソロの部分を代わりに吹いているが、なかなか上手
く吹けない様子。
京子、立ち止まり迷った表情で聞いている。
茜たちの様子が気になり、音楽室を覗こうとするが、首を振りその場
を去る。
〇 同・音楽準備室
練習を終え楽器を片付けている千尋。
その傍らで茜、本棚に置いてある古い吹奏楽の雑誌を取りパラパラめ
くっている。
めくったページにコンクールで全国に行った中学校の記事が載ってい
る。
演奏している写真にはトロンボーンを吹く中学生の京子、同じ写真に
フルートを吹くエリカが写っている。
その記事をじっと見る茜。
〇 河川敷(夕)
下校途中の茜、高架下の方を見るといつものように京子が練習してい
る。
その姿をじっと見つめる茜、しばらくして歩き去る。
京子、茜には気付いていないが、茜が去った後、『サマータイム』の
トロンボーンソロの部分を吹いてみるが、すぐにやめてじっと川面を
見つめる。
〇 淀山高校・教室
誰もいない教室。
運動場から運動部の掛声が聞こえている。
黒板に夏休みを喜ぶ生徒たちの落書きが沢山ある。
× × ×
別の教室で夏期講習を受ける生徒たち。
黙々と勉強をする生徒の中にエリカがいる。
〇 同・廊下
廊下を歩く千尋。
〇 同・教室
千尋、教室内を覗く。
開いている教室でそれぞれ個人練習をしている奈美と真美に、茜の居
場所を聞く千尋。
首を横に振る奈美と真美。
〇 同・音楽室
千尋が教室に入ると、徳井が練習している。
千尋「あれ? ここにもおらん……なあ、徳井。茜がどこおるか知らん?」
徳井「知らんで」
そこへ岡下が入ってくる。
岡下「あ、渡辺さん。豊島さんがちょっと外で練習してくるって言ってた
~」
千尋「外? 屋上かな?」
岡下「さぁ……階段下に降りて行ってたけど~」
千尋「屋上とちゃうんか……どこ行ったんやろ?」
〇 河川敷
河原の道をトロンボーンを持って歩く私服姿の京子。
いつも練習している高架下に来ると、制服姿の茜がトランペットを吹
いている。
驚く京子、茜に気付かれないようにそっと近付き、物陰に隠れ様子を
窺う。
京子に気付いていない茜、『サマータイム』のトロンボーンソロの部
分を必死に練習しているが、なかなか上手く吹けない。
その姿をじっと見つめる京子、その場を去ろうとした時、空き缶を蹴
ってしまう。
茜、その音に気付き振り向く。
気まずそうに茜を見る京子。
驚いた表情の茜。
× × ×
茜と京子、河原に並んで座り込み、じっと川の流れを見つめる。
京子「私な……ほんまは吹奏楽部がある別の学校に入学しようと思ってて
ん」
俯いたまま静かに話し始める京子。
茜、じっと聞いている。
京子「でも、中学の時の吹奏楽部、上下関係厳しい上に、同学年の間でもお
互い蹴落とそうと競争が厳しかってん。まあ、そうやろなぁ……コンクー
ルに出れる人数は決まってるし、厳しい練習でも頑張って誰よりも上手く
なりたいと思うもんやもん。でも、それって何か違う気がする……友達を
蹴落としてまでやりたいとは思えんくなって、もうやめようと思ってん」
諦めたような表情の京子。
京子「でも、やっぱり楽器吹くのは好きみたい……」
京子、苦笑いする。
茜「……一緒にやろうや」
真剣な表情の茜、静かに話す。
茜「一人で吹いてても楽しくないやろ」
黙ったままの京子。
何も言わず立ち上がる茜、そのまま立ち去る。
無表情の京子、じっと川を見つめる。
〇 淀山高校・音楽室
音楽室に集まり合奏をしている茜たち六人。
イライラしたように話す徳井。
徳井「なぁ、ほんまに山本さん来るんやろな? もう文化祭本番まで時間な
いで。夏休みももう終わるし、トロンボーン無しでもやれる曲練習しとい
たほうがいいんとちゃう」
真剣な表情で言い返す茜。
茜「大丈夫やって! 絶対来るって!」
徳井「でも、何の音沙汰もないやん。なぁ、岡下」
岡下「う~ん」
岡下に同意を求める徳井。
困った表情の岡下。
茜と徳井の険悪な雰囲気に困った様子の千尋、奈美、真美。
千尋、茜と徳井をなだめようとする。
そこへ音楽室の扉が開く音が聞こえる。
扉の方を見る茜たち。
京子、少し気まずそうに顔を出し、そっと入ってくる京子。
茜たちの様子を窺うように話す京子。
京子「ごめん……遅くなった」
黙ったまま京子を見つめる茜たち。
茜「いや、全然大丈夫」
笑顔で言う茜。
他の五人も次第に笑顔になる。
そんな茜たちを見て、笑顔になる京子。
茜、京子の分の楽譜を持ち、京子にわたす。
茜「たぶん、吹いたことある曲やで」
楽譜を受け取る京子。
何枚かある楽譜の一番上には『サマータイム』の楽譜。
京子、じっと楽譜を見つめ茜の方を見る。
京子「今、合奏中やんな? すぐ音出しするわ」
急いで楽器の準備を始める京子。
× × ×
合奏の隊形に並んでいる茜たち。
その中に京子も加わっている。
全員、そわそわしつつも嬉しそうな様子。
千尋、その様子を見て嬉しそうに言う。
千尋「じゃあもう一回やってみよっか」
岡下、全員が準備できたのを確認してスティックでカウントをとる。
『サマータイム』の演奏を始める茜たち七人。
〇 同・下駄箱
練習を終えて、靴を履き替えている茜たち。
京子「あっ、忘れ物! 先に行ってて」
京子、一人で音楽室の方へ走っていく。
〇 同・廊下
忘れ物を取り音楽室から出てくる京子。
夏期講習を終えたエリカとその連れに出会う。
エリカ、京子を見ると馬鹿にしたような表情で言う。
エリカ「この忙しい時期によくやってられるわね」
京子、無視して行こうとする。
エリカ、その後ろ姿に冷たく言い放つ。
エリカ「楽しく吹いてりゃいいってもんちゃうで。あの茜って子もアホやな
ぁ」
京子、振りかえりエリカを睨む。
京子「楽しんで吹いて何が悪いねん! 人を蹴落とすだけで、楽しむことも
できんあんたに言われたくない!」
エリカを睨む京子、さっさとその場を去る。
エリカ、京子の後ろ姿を睨んでいる。
〇 同・全景
文化祭、当日。
華やかに飾りつけされた門や、数々の出店。
多くの生徒や先生、一般の客で賑わう淀山高校。
〇 同・体育館
多くの客でいっぱいの体育館。
他の部や団体の演目が次々と行われている。
〇 同・廊下
吹奏楽部の出番が近づき、音楽室に向かう茜。
徳井が遅れて走ってくる。
徳井「間に合ったー! なかなか抜けれんくてさぁ、焦った~」
茜「ほんまギリギリセーフやで」
音楽室の方から慌てた様子で走ってくる千尋。
茜「どうしたん?」
千尋「大変! ちょっと来て! 来て!」
千尋、茜を引っ張って行く。
急いで音楽室に向かう茜、千尋、徳井。
〇 同・音楽室
息を切らせて走ってくる茜、千尋、徳井。
扉付近に立ちすくむ岡下、奈美、真美。
茜「何かあったん?」
茜、慌てて音楽室の中を覗く。
散乱した楽譜、楽器も倒されている。
京子、音楽室を少し入った所で呆然と立っている。
驚いた表情で室内を見渡す茜。
徳井「……何やねん、これ」
茜、無言で片付け始める。
千尋たち、呆然と茜を見るが、急いで片付け始める。
茜「楽器の方は大丈夫?」
京子「なんとか」
それぞれの楽器の具合を確認する茜たち。
茜「じゃあ時間ないから、急いで準備して行くで!」
〇 同・渡り廊下
体育館へと続く渡り廊下。
楽器を持って必死に走る茜たち。
一番後ろを走る京子。
そこへエリカが通りかかる。
エリカ「あ、楽器大丈夫やったんや」
意地の悪い笑みを浮かべ京子に言うエリカ。
京子、立ち止まって驚いた表情でエリカを見る。
先に走っていた茜たち、京子が来てないのに気付き振りかえる。
睨み合う京子とエリカ。
茜「先行ってて」
茜、その様子を見ながら千尋たちに言う。
頷き体育館へ走る千尋たち。
茜、京子とエリカに近付く。
エリカ、茜を睨む。
エリカ「何よ?」
茜「別に。あんたに用はない」
平然と答える茜、京子の腕を掴んでその場を去ろうとする。
エリカ「こんなことやってても意味ないで……」
無言でエリカに近付き、エリカの頬をビンタする茜。
驚いた表情で茜を見つめる京子。
茜、呆然と茜を見るエリカを一瞥すると京子を連れて走っていく。
呆然と茜と京子の後ろ姿を見つめるエリカ。
茜、京子、走っていく途中で自然と微笑み合う。
〇 同・体育館
ステージ横で待機している千尋たち。
走ってくる茜と千尋。
千尋「遅いで~」
小声で茜に言う千尋。
茜「ごめんごめん」
微笑む茜。
千尋「とうとう本番やね」
茜「うん……」
頷く茜、徳井たちの方を見る。
緊張した様子の徳井たち、茜に気付くと微笑む。
茜、京子を見る。
微笑む京子。
茜「いくで」
静かにステージに向かう茜たち。
× × ×
それぞれの位置につく茜たち。
岡下、全員が準備できたのを確認してスティックでカウントをとる。
『サマータイム』を演奏し始める茜たち。
トロンボーンソロを堂々と演奏する京子。
演奏が終ると、一瞬の沈黙の後、一斉に拍手喝采になる客席。
驚き、嬉しそうに笑顔になる茜たち。
× × ×
アンコール『セプテンバー』を演奏する。
それぞれ楽しそうに演奏する茜たち。
(了)