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アイドルオタクの村上春樹入門ーーでんぱ組.incが本当に宇宙を救う物語ーー

人をアイドルにするもの

 人をアイドルにするものは何だろう?

 何があれば、「私はアイドルだ」と言えるのだろう?

 美しさ、センス、歌唱力、ダンス、表現力、若さ、賢さ、愛嬌…

 確かにあったらいいけれども、それらは「アイドルの魅力の1つ」だ。アイドルになるために必要なものではない。

 人をアイドルにするもの、それは「物語」である。

君と僕との物語

 アイドルは「君(アイドル)と僕(アイドルファン)との物語」だ。

 君が何を考えていて、何をするのかを様々なメディアで僕に伝える。

 僕は君のメッセージを受け取り、君のことを知る。もっと好きになる。

 現実とパラレルに展開される、形而上的な「僕と君との物語」に夢中になる。

 幾重にも織り上げられた君と僕との物語が、やがて現実との結節点を持つ。
 その形は、音楽、ダンス、アート、小説、おそらく何でもいい。

 大切なのは、「君と僕との物語」が、「セカイ」に変化をもたらすことだ。

アイドルと村上春樹

 「『君と僕との物語』がセカイに変化をもたらす」という構造は、歴史的に見れば実はあまり一般的ではなかった。

 19世紀、20世紀の作品を思い返せば、「私小説(僕の物語)」、もしくは「『君と僕との物語』が、あえなくセカイに押し潰される」ような構造が主流だ。(夏目漱石、小津安二郎、ドストエフスキーなど…)

 「『君と僕との物語』がセカイに変化をもたらす」という構造をサブカルチャーに刻み込んだ存在こそが、村上春樹である。

 村上春樹をあまり読んだことのない人のために、彼の作品の特徴を説明させてほしい。
 村上春樹作品の主人公は、現実とパラレルに存在する形而上的精神世界に迷い込む。その世界で展開される物語こそが、「君(ヒロイン)と僕(主人公)との物語」である。
 主人公が「君と僕との物語」を守るためにどのような選択を取るのかは、作品によって異なる。

 ある作品では「君と僕との物語」を手放し、現実で生きることを選択する。
 別の作品では「君と僕との物語」を守るために、現実での死を選択する。
 また別の作品では「君と僕との物語」を守るために、現実の悪に立ち向かうことを選択する。

 最終的な選択はどうであれ、精神世界で静かに展開されていた「君と僕との物語」は、やがて現実の「セカイ」にコミットせざるを得なくなる。

 村上春樹がサブカルチャーに植え付けた「君と僕との物語」の構造は、小説の枠を飛び越え、「君(アイドル)と僕(アイドルファン)との物語」として定着した。

でんぱ組.incの物語

 でんぱ組.incは「宇宙を救う」というミッションを掲げてきた。
 そして、現実とパラレルに存在する「君と僕との物語」を提供してきた。
 でんぱ組.incの「君と僕との世界」は現実とパラレルに存在する、秘密の場所だった。
 でんぱ組.incの「君と僕との世界」で、僕たちは社会との距離感を取り戻してきた。

 でんぱ組.incの「君と僕との物語」はたくさんの「セカイ」を救ってきた。

 でんぱ組.incは確かに宇宙を救ったのかもしれない。


文責:Nico(X:@nico_hibari)

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