ギター女子の敗北、アイドルの勝利
アイドルのライブを眺めていると、前方の客席に目が向くことがある。
最前列でマサイやMIXに熱中している楽しそうなおじさんたち。(失礼)
ああ、社会に疲れた中年男性(女性)をここまで熱狂させることができるアイドルは本当に素晴らしいなと思う中で、ふとこう思った。
「あれ、この人たち、10年前ギター女子のライブにいたよな?」
2015年のブレイクは『ギター女子』
2014年12月30日、今からちょうど10年前のYahooの記事がまだ残っていた。
タイトルは、
「2015年のブレイクは『ギター女子』 新山詩織、山崎あおいらが台頭」
当時の音楽シーンに精通する人は、そのラインナップの懐かしさに思わず頭を抱えているのではないだろうか。
この記事の内容をもとに、ギター女子、いわゆる女性シンガーソングライターの歴史を簡単にまとめると、
・1970-80年代 中島みゆき
・1990年代 矢井田瞳、椎名林檎
・2000年代 YUI
・2010年代初頭 MIWA
そして来る2015年、新山詩織、山崎あおい、住岡梨奈、片平里菜を筆頭に、ギター女子ブームはピークを迎えた…
わけではなかった。
ギター女子の敗北
彼女たちの個別の活動状況には言及しないが、彼女らの中で「音楽シーンのメインストリームで天下をとった」アーティストは出てこなかった。すでに第一線を退いた者も少なくない。
2年遅れて、2017年、突如現れたダークホースが一瞬にして全てを掻っ攫っていった。
そう、あいみょんの『青春のエキサイトメント』のリリースである。
東京に拠点を置いていたギター女子とそのファンたちからしたら、「関西から黒船がやってきた」ような感覚に陥ったのではないだろうか。
1年も経たず、あいみょんは文字通り「天下をとった」。
天下が統一されれば、戦国時代は終わる。
「ギター女子ブーム」は、あいみょんの天下統一を契機にひっそりと終焉の時を迎えた。
残されたファンはどこへいった?
ここで気になるのは、残されたファンはどこに流れ着いたのだろうかということだ。
まさか全員が全員あいみょんファンとして吸収されたわけではない。
僕がここで唱えたい仮説がある。
「ギター女子ブーム」を支えたおじさんたち。
彼らは今、「アイドルオタク」として渋谷のO-WESTで熱心な声援を送っているのではないだろうか。
楽曲制作と再現性
ギター女子の敗北の原因を一言で言うなら、「本人が作曲または作詞をやる必要があるため、楽曲を量産できなかった」点である。
少なくとも私はそう主張する。
逆にアイドルや声優は、楽曲制作を完全に外注することができたため、キャッチーな曲をハイペースでリリースし続けることができた。
イベントに集中できるアイドルは、高速化するプロダクトサイクルや高度な消費社会に適合し、生き残った。対して、アーティスト本人のマンパワーに依存したギター女子は徐々にエンタメ業界からフェードアウトしていった。
概念としての「アイドル」に取り込まれたギター女子
当時ギター女子を応援していたファンがアイドルファンになったというのは、なんとなく想像がつく。ファンに対する提供価値に、そこまで差がないからだ。
では、2010年代にギター女子となっていた層の女の子たちは、2020年代何をしているのだろうか?
私が思うに、彼女らもまた、アイドルになっているのではないだろうか?
アイドルは「君と僕との物語」を提供できる存在だ。
だから、アイドルはギター女子を包摂する概念として機能しうる。
成熟しきったアイドル業界で、「歌が上手い」「ギターが弾ける」「作曲ができる」「作詞ができる」「セルフプロデュースができる」といった、ギター女子の才能は非常に効果的な差別化要因である。
ギター女子はむしろ、アイドルとして成功すべきタレントを有する金の卵とも言える。
2020年代においてこのような能力を持つ10-20代の女の子はギター女子ではなくアイドルになっていると考えるのも自然だ。
アイドルのセカンドキャリアとしてのギター女子
とはいえ、私が主張したいのは「ギター女子はアイドルの下位互換なのだから、もう流行することは2度とない。」なんていうつまらないことではない。
むしろその逆で、私はギター女子という道に新しい可能性があると思っている。
それこそが、「アイドルのセカンドキャリアとしてのギター女子」である。
ここで私の念頭にあるのは、元アイドルネッサンスで現Aoooのボーカルを務める石野理子だ。
アイドルネッサンスのカリスマ的存在として、アイドル界で飛躍を遂げた石野は、グループの解散後、ガールズバンドの赤い公園のボーカルへと転身。
さらに赤い公園の解散後はギターを習得し、今をときめく新進気鋭のバンドAoooのギターボーカルとしてミュージックシーンで異彩を放っている。
常に若い次世代のスターを求める音楽業界は、アイドルのセカンドキャリアのステージとしての親和性が高い。
「いつまでも続けられるわけではない」アイドルにとって、ギター女子をセカンドキャリアに選ぶことは、末長くファンに応援されながら音楽活動を続けられる素敵な選択肢ではないだろうか?
アイドルが「最終目的地」ではなく、「音楽業界のファーストステップ」として機能する世界が、もう目の前に来ている。
文責: Nico (X:@nico_hibari)