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夢の中(1)

また、同じ夢を見ていた。

私の夢には、起きている時に考えていたことが反映されることが多い。
クラスメイトとの会話、好きなアイドル、お母さん、テレビ番組。
日常との境目が曖昧だから、現実に起こったことなのか夢で見たことなのか分からなくなってしまうこともままある。

ある日、一度も話したことのないクラスメイトと話す夢を見た。
「ねえ○○くん、次の授業の宿題やってきた?」
「うん」
「ほんとごめんなんだけど、見せてもらってもいいかな?」
「いいけど……」
次のシーンで舞台は変わり、
私たちは教室を抜け出して廊下の端でキスをした。

……なんだか突拍子もない夢だが、変に現実味があったからか朝からドキドキしてしまう。
準備をして学校に行くと、○○くんはいなかった。

欠席していたんじゃなくて、○○くんなんて子は存在しなかった。

あれ、あの子誰だっけ? そもそも下の名前はなんだ? あれ? 名字は?

○○……って、なんだ?

夢は何回も反芻するほど曖昧になっていく。
○○くんのことを考えれば考えるほど、雲が掻き消えるように○○くんの姿は遠ざかってしまった。

次の日、私はお母さんにおつかいを頼まれ近所のスーパーに来ていた。にんじんと玉ねぎ、豚肉、牛乳を買って帰る。
するとお母さんが、
「あれ? ジュースは買わなかったの?」
「そんなの頼まれたっけ?」
「明日○○くんがうちに来るんでしょ?自分で言ってたじゃない」
あ、また○○くんだ。
「○○くんってだれなの?」
「はぁ? お母さん知らないわよ。自分で呼んどいてなんなの? 変な子ねえ」
その日は夢を見なかった。

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