夢の中(2)
そんな日が何日か続いて、今日に至る。
夢の中では○○くんの姿かたちははっきりしているのに、起きてから思い出そうとすると靄に包まれたようにボヤっとしていて何も思い出せない。
それにキスをする場所は、教室前の廊下だったり階段の踊り場だったり誰もいない空き教室だったりした。
なんなんだろう。
友達に○○くんのことを聞いてみても誰? 新しい彼氏? と全然ピンと来ていないようだ。そうかと思えば急に会話に出てきて、それ誰? と聞き返すとすごく変な顔をされる。クラスメイトにはいない、アイドルでもない、家族でもない、でもみんなが知っている人。
私は夢日記をつけ始めた。
△月△日
今日もまた○○くんの夢を見た。
でも今日はいつもと違う。いつもは第三者「だれか」の視点から私たちを見ているのに、今日は「わたし」の目線だ。よく見ると、○○くんはなんだか私に似ているような気がする。ほくろの位置とか、目の感じとか…? あ、○○くんの顔が近づいてきた。
また、キスをされた。
△月□日
今日は夢を見なかった。
でもクラスの友達の話に○○くんが出てきた。
「このお菓子、この前○○くんが食べててさー、急に食べたくなったんだよね~」だって。いつどこで聞いたの? と聞いても忘れたと言って答えてくれなかった。
日記は1ヶ月ほど続いて、いつしか夢日記は○○くん日記になっていった。寝ても覚めても考えるとはこのことで、私は○○くんの顔をしっかりとは覚えていなかったけれど、いつしか恋心に近いものを抱くようになっていた。
そして、夢日記、もとい○○くん日記をつけ始めて気づいたことがある。
それは、○○くんが夢に出てきた日にはクラスメイトの話に○○くんが出てこないこと、逆にクラスメイトの話に○○が出てきた日には○○くんは夢に出てこないこと、だ。
このルールは絶対で、破られたことはなかったが、1日おきに交代するというわけではなく、連続で夢に出てくる日もあれば友達の話にばかり出てくる日もあった。