「失敗の本質」に学ぶ
【Nick塾】<創造的破壊よもやま話> 企業戦略・ロジスティクス・組織運営
世界中で広がるコロナ騒動は収まる気配もありません。
東京、そして日本におけるこの災禍は、多くの専門家が言うように、今はまだほんの序盤なのかもしれません。
危機の時に組織、そして個々人の「本質」が見える。
その格言をなぞるような毎日を我々は今、過ごしています。
つい数か月前に日本が、世界がこういう状況に見舞われるとは誰が想像していたでしょう。当初、中国の悲惨な状況を見てもどこか他人事であった気がします。
それがイタリア・フランスそしてアメリカ等いわゆる先進国といわれている国々に伝播しても、そして今月になって緊急事態が宣言されても、この国の対応が劇的に変わったとは言い難い日々が続いています。
同調圧力が極めて強いこの国でも、自粛自粛と騒いでみても、真っ当な自粛のための経済的補償が用意されなければ、それだけでは思うような事態にはならないことは自明です。人は日々の生活を支えるために働かねばならないからです。パンのために生きているわけではないけれど、パンがなければ生きてはいけない。こんな単純な道理がなぜかこの国では今のところ政策に反映されていません。政府の意思決定現場に、庶民の目線・実態をもう少し理解する人がいれば方策は変わるのではと、残念な思いが募ります。
一方、先進的で盤石だったはずの日本の医療体制は危機に瀕しつつあるのに、世界では常識となっている陽性者の確認検査すら、政治家の掛け声は空しく響けども、全く不十分のままとなっています。
「なぜ、他国ができていることがこの医療先進国ができないのか」
この至極当たり前な問いに明確な答えが示されぬまま、数か月が過ぎようとしています。
仮に真っ当な経営が行われている民間企業で同種の問題が起きれば、遅くとも数日もあれば問題点は炙り出され、対策も同時並行的に起案され、直ちに実行に移されるはずです。これが民間企業経営者が求められる「普通」のスピードと結果への明確な「責任」です。しかし、残念ながら、この国では、国レベルのオペレーションでは、この「道理」がなかなか実現されません。
一例を挙げれば、米国MBAで学び、ロジスティック事業を長年自らの生業としてきた私の目には、検査体制の不備や検査件数が伸びない理由の大きなものの一つとして、ロジスティックの問題が間違いなくあると映ります。兵站が尽きては現場は戦えません。ボトルネックを確定し、取り除かなくてはオペレーション効率の最適化、アウトプットの最大化は絶対に実現できません。そして、ロジスティックスのグランドデザインを明確に描き、有無を言わさぬリーダーシップのもとこれを実行せねば、望むような結果は当然出ません。部分最適の積み上げは全体最適実現には資さないのです。
医療は全くの門外漢の私ですが、ロジスティックの観点からは問題点が容易に想像できます。 国の政策の舵取りを行っている作戦本部に、このオペレーションに関する基本的かつ必要な選択肢の策定・提言を行い、その実現に向けて必要な政治家のリーダーシップを促せるような権限を付与されたロジスティックやリスク管理の専門家はいるのだろうか、いて欲しい、そう思います。遺憾ながら、封じ込めに成功しつつあるやに見える他国にはそれが歴然と存在するように素人目にも、私には見えるのです。
何かがおかしい。
何かが根本的に間違っている。
先進国の日本が、世界有数の、戦後奇跡の成功を遂げたこの国の実力は本当はこんなものだったのか?多くの国民が、今まさに感じていると思います。
なぜなのか?
名著「失敗の本質」で指摘されている多くの「べからず」を毎日、様々な局面で見せつけられている、と私は感じます。太平洋戦争でこの国と国民を大災禍に導いた数々の失敗の再現フィルムをそのまままるで見せられている気すらします。
・戦略の失敗は戦術では補えない。
・効果を失った指標を追い続ければ必ず敗北する
・成功体験が勝利を妨げる
・イノベーションの芽は組織が奪う
・不適切な人事は組織の敗北につながる
・リーダーこそが組織の限界をつくる
・間違った「勝利の条件」を組織に強要する
・リスクを隠すと悲劇は増大する
・都合の悪い情報を無視しても問題自体は消えない
どうですか? これらはこの名著の中で繰り返し指摘される、大戦時に日本軍が繰り返した「失敗」です。
毎日、目の前で繰り広げられる状況に多くが当てはまりませんか?
失敗するように動き、そして見事に失敗している。
早急に方向転換が図られ、最悪の事態を回避するためには、BWBが提唱する「創造的破壊」が、この国家レベルのオペレーションでも、今こそ求められているのだと、私は考えます。
単なる部分修正では状況の抜本的改善は望めません。圧倒的かつ明確な戦略の変更、そして新しい戦略に則った各種戦術の策定と即時の実行が求められます。いうまでもなく、状況が刻一刻と変化している今、可能な限りのスピードアップが必要です。従来の延長線上には明るい未来は見えない。まさに「非連続の絵」を描く必要があるのです。
「創造的破壊」が必要なのは企業運営だけではありません。ありとあらゆる種類の学校や非営利企業をも含む全ての組織運営・活動において、大きな変革・飛躍を求めるのであれば、日本が、日本人が陥りやすい「失敗の型・癖」を正しく理解し、その罠に陥らないようにしなければなりません。その上で、従来の方法論や思考の延長線ではない、非連続の新しい何かを探し、手に入れる必要があります。
見えないものを見るために必死で目を凝らす。聴こえない声を聴くために必死で耳を澄ます。
something new, better and moreを必死で探す必要があります。
リモートワーク等で予想外の時間を得た皆さん、是非、この機会にこの本に目を通すことをお勧めすします。
この社会がこの災禍の後に、一段、より上質となるために、避けては通れない道であると私は確信します。
And yet it still moves. それでも我々はこの社会をよりよく動かさねばならないのですから。
And yet it still moves. それでも我々はこの社会をよりよく動かさねばならないのですから。